高学歴の新入社員ほど“繊細”なのはなぜか? 「怒られ慣れていないので自分の過失を認めなかったり、逆に攻撃的になったりする」
高学歴の新入社員ほど“繊細”なのはなぜか? 「怒られ慣れていないので自分の過失を認めなかったり、逆に攻撃的になったりする」

インターン先の職場で、社員になにげない指摘をされただけで複数の東大生が落胆し、逆ギレしてしまったことがあった。どうして高学歴は怒られ慣れていないのか? 東大ベンチャー企業の社長である西岡壱誠氏が、高学歴の特徴を分析した『高学歴のトリセツ 褒め方・伸ばし方・正しい使い方』より、一部抜粋・再構成してお届けする。

インターンで急に起きた修羅場

僕の経験をお話ししましょう。以前、東大生たち4人と一緒にある会社でインターンをしていた時のことです。

僕以外のメンバーはみんな優秀で、うまく仕事をこなしていました。僕は他の4人に追いつくのに必死で、力の差に落ち込んだものでした。

そんなある日、社員の方がこんなことを言い出しました。

社員さん「この資料、もっとこういうことを徹底してもらえると嬉しいんだよね。みんな、ここに気を付けてもらってもいいかな?」

まあ普通の言葉ですよね。

「あ、そこ気を付けなきゃいけないんだな」と僕は納得して、資料を直そうとしました。

しかし、他のメンバーはみんな、無言になって仕事をするのをやめ、こんなことを言い出しました。

Aくん    「えーと、我々はその指示って事前にいただいていましたか?」

社員さん 「え? いや、今初めて言ったと思うけど」

Bくん    「ということは、これって我々側の過失ではなくて、そっちの指示のミスですよね?」

社員さん 「え? いやいや、別にミスって話じゃなくて……」

Cさん    「でも、どちらが悪いかっていったら、我々じゃなくてそっちですよね?」

社員さん 「いや、だからどっちが悪いとかそんな話じゃなくて……」

Dさん    「いや、でも責任の所在ははっきりさせましょうよ。社員さんは、今回の件で過失があったのは我々だと思ってます? それとも、ご自身だと思います?」

社員さん 「えぇ……?」

社員さん涙目。僕、呆然。

「え、お前らどうしちゃったの?」って感じでした。

社員さんも若かったんで、「私の言い方が悪かったのかな?」なんて考え出してしまいました。

「いや社員さんは何にも悪くないと思うけど……」と僕は思ったのですが、4人の勢いは止まりません。

その状況を見かねた社員さんの上司は、こんな風に言いました。

上司さん 「あのなあ。ちょっとした指摘に対してそんなワーワー言ってると、社会人としては失格だぞ。誰のせいだとか、そんなどうでもいいことは置いておいていいんだよ」

みんな    「……」

それを聞いてみんな黙ってしまい、何も言いませんでした。
ちゃんと言うべきことを言った上司さんも、さっきの社員さんたちも、僕も、「え、どうしたんだろう……?」と思いました。

その場はそれで終わり、その後はなんだかみんな力が抜けたかのように元気がなく、仕事を終えることになりました。

その後、僕は何人かに聞いてみました。「さっき、どうしたの?」と。

すると返ってきたのは意外な答えでした。

みんな    「いや、怒られちゃったのがショックで……」

はい、ここまでの流れを追っていて、「怒られちゃったのがショックだったの……?」と疑問に思う人が多いと思います。

 一連の流れで、社員さんも上司の人も、みんなに対して軽く注意しただけに過ぎません。注意というにも軽いような、言うなれば「指摘」でしかなかったはずです。なのに、彼ら彼女らは、それを「怒られた」と捉えてしまいました。

このように、高学歴の中には怒られるのを極度に怖がり、怒られた後には大きく落ち込むメンタリティがあります。

また、過度に怒られるのを避けるあまりに、怒られそうになると、逆に相手の過失を指摘したりする場合があります。

僕 「この仕事、こういう形でまとめてほしかったんだよね」

みんな    「それ、先に言ってくださいよ」

こんな風に軽く指摘したつもりでも、「自分の責任になって、自分が怒られた」かのように錯覚し、「きちんと反論しないと自分が間違っていたことになってしまう」と思い込んでしまうわけです。

これはやはり、1章でお話しした「労働者としてのスキル」「同僚としてのスキル」がちょっと欠けていると捉えられても仕方がないですよね。

このように、「軽い指摘に対しても真剣に反論してしまう」という、同僚としては嫌になってしまうような傾向を指して、ネットでは「高学歴はプライドが高いから、人から何か指摘されるのを嫌がるんだ」と言う人も多いです。

高学年が家庭教師をやりたがる理由

が、僕の考えは少し違います。この件、実はプライドはあんまり関係ないと思います。

もちろんそういう思考がないわけではないと思うのですが、しかしプライドがあまり高くない人でも、怒られるのを嫌がることは少なくありません。

高学歴が怒られるのを嫌がる理由は、単純に経験不足です。今までの人生の中で、人から何か指摘されたり怒られたりする経験が少なく、要するに「怒られ慣れていない」場合が多いんです。



高学歴は「いい子」だったケースが多いです。今までの人生の中で、きちんとやるべきことをこなし、先生からあまり怒られた経験がなく、人から上から目線で何かを言われるようなことはほとんどないような人生を送ってきました。つまり、「人から怒られる」ということに対して、単純に経験が乏しいのです。

みなさんは、高学歴が一番よくやるバイトを知っていますか?

一番はやっぱり、家庭教師です。子供に対して勉強を教えるバイトをして、お金を稼いでいる場合が多いです。そしてこの家庭教師というバイト、基本的にはそのバイト先で「先生」として扱われます。物を教える立場なので、相手から敬語で話されて、丁寧な扱いを受けるのです。時給もよくて、特に大きな失敗をしない限り怒られることもなく、のびのびとバイトができます。

逆に、普通の大学生に多いバイトは、飲食系ですよね。居酒屋でバイトして、先輩から怒られたりお客さんから理不尽に何か怒られたりして、精神的にダメージを負ったりすることもありながら、それでも働く場合が多いでしょう。こっちの方が、「怒られ慣れる」わけです。

もし自分が高学歴で、怒られないバイトとよく怒られるバイトのどちらかを選ぶとしたら、当然怒られない方を選びますよね。ですから自然な流れで高学歴は飲食系のバイトを避けがちになります。そっちの方が合理的だから当たり前にそうするわけですが、しかしその結果として、「怒られる経験」が少なくなってしまうのです。

さらにもっと言うなら、高学歴で勉強に関して自分を適切に追い込んできた経験がある人の中には、こだわりが強い人がよくいます。何をするにしても完璧主義で、「100点以外では気が済まない」「1位じゃないとだめ」とストイックに自分を追い込んできた人が、結果として受験でも成功し、高学歴になったというパターンも多いのです。

だからこそ、仕事が100点満点でないと、「自分が否定された」と過度に感じてしまう場合が多いわけです。

また、同じ理屈で、「失敗」に関してもとても大きな恐怖心を持っている場合が多いです。よく世間やネットでは「高学歴は打たれ弱い」と言われていますが、僕はこの言説、間違ってはいないと思います。

学生時代からとても優秀な人で、期待の新人として会社に入ったのに、最初のプロジェクトでちょっとうまくいかないことがあったからという理由で、会社をすぐに辞めて家に引きこもってしまった、というような東大卒の人もいます。僕が知っている限りでも確実に2、3人は存在します。

このように、高学歴は人から怒られる経験・できない経験・失敗した経験が少ない人が多く、そうしたこととの向き合い方で苦労する場合が多いのです。

「高学歴ゆえの繊細さ」とどう向き合うべきか

ここまでの話を踏まえると、考えておかなければならないのは、

「高学歴は怒られ慣れていない場合が多く、慣れるまでは自分の過失を認めなかったり、こちらに対して攻撃的になったりしてしまう場合がある」

ということです。もちろんどれくらいの人に当てはまるかはわかりませんし、学歴だけが関係する話ではないとは思うのですが、しかし僕の所感を言えば、「高学歴は怒られ慣れていない」という特徴があると、自信を持って言えます。

その上で、高学歴と一緒に仕事をする側ができることは何なのでしょうか?

僕が考えるに、

・「高学歴に何か指摘をする際には、『バッド』ではなく『ベター』を伝えること」
・「高学歴に対しては、指摘した後に落ち込んでいないかを特に念入りに確認すること」

この2点です。

まず、「『バッド』ではなく『ベター』」というのは、簡単な言い方の問題です。

「ここがダメだったね」「ここはよくないね」という言い方でダメ出ししてしまうと、高学歴の人は「ダメだったんだ……」と、普通の人よりも過度に、否定されたような気分になる場合があります。

ですから、「ここ、もっとこうすればよりよいものになると思うよ」「ここの部分だけ、こうしてほしいな。それ以外は大丈夫」というように、同じダメ出しでも「よりよくするために」という言い方をするのです。

「テストでは100点満点を取りたい」と考えている高学歴に、「あなたのテストは100点じゃなかったよ」と言ってしまうと、たとえそれが99点であってもストレスを感じます。それよりも、「100点満点だけど、120点にする回答はこうだよ」と言ってあげた方が、心地よく話を受け止められる場合が多いんです。

ですから、「よりよくするために」という語り口を、ぜひ心がけてあげてください。

文/西岡壱誠

高学歴のトリセツ 褒め方・伸ばし方・正しい使い方

西岡壱誠
高学歴の新入社員ほど“繊細”なのはなぜか? 「怒られ慣れていないので自分の過失を認めなかったり、逆に攻撃的になったりする」
高学歴のトリセツ 褒め方・伸ばし方・正しい使い方
‎2024/3/211,375円(税込)192ページISBN: 978-4065351833「この人、勉強はできるけど仕事はダメだな」仕事でこんな思いをしたこと、誰でも一度はあるのではないか。しかし、高学歴人材の多くは決して無能ではない。正しい知識を持ってうまく使えば、彼らはまさに一騎当千の働きをしてくれる。本書では、東大ベンチャー企業の社長として多くの東大生と日々仕事を共にしている著者が、自らの経験をもとに高学歴人材の正しい使い方を解説する。