芸歴30年目を迎えたお笑いコンビ、サバンナの八木真澄。コンビでの仕事は減ったいっぽうで、現在はショッピングモールやイベントを巡る営業芸人として引っぱりだこ。
徐々に気持ちを高めて、仕事モードに
――先日、八木さんが淡路島のドッグイベントで犬と漫才をしていることを知って驚きました。営業では無茶振りやプライドが傷つくような事態もあると思いますが、どのように対処されていますか?
八木(以下同) 「営業はイベントを盛り上げるためのゲストである」という自分のポジションを理解しているので、基本的には傷つくことはありません。
駅員や警察官って制服を着ているじゃないですか。制服ってすごく大事で、纏うことで仕事モードに切り替わる効果があるんだと思います。どんな怖い場面や理不尽な場面でも逃げない心は、制服が生んでいる。
――八木さんにとっては、それがタンクトップ?
そうですね、大工の職人さんがねじり鉢巻を巻くのと一緒です。だから、営業のときは事前に気持ちを作っていますし、プライベートの僕とは違います。あとはどれだけ嫌で苦手なやつに酷いことを言われても気持ちで負けないことが大事ですね。
――その負けない気持ちを作るには?
筋肉や体力などフィジカルな部分がメンタルに与える影響がすごくあると思っています。自分は「最終的に喧嘩したら絶対負けない」と思えば、どんな目にあっても許せます。
もちろん喧嘩せずに一生を終えられることが一番幸せですよ。でも常に刀は研いどけ、ということです。
――メンタルを作るために心がけていることはありますか?
気持ちを作るルーティーンがありますね。僕はまず、起床してから勉強をします。今はファイナンシャル・プランナー(FP)1級の取得を目指しているので、その勉強をしていて。それからジムでトレーニングをして、徐々に気持ちを高めていきます。起きたばかりでそのままパッと営業にいくことは考えられません。
――日々のルーティーンを確立することで、心身を営業モードに持っていく。
もうひとつ実践しているのが、車両やタクシーじゃなくて、なるべく在来線やバスを乗り継いで現場に向かうこと。そして時間に余裕を持っていくようにしています。
地元の交通手段で移動すれば街の雰囲気を感じることができますし、お城を見たり川を眺めたり、旅行気分を味わえてすごく得した気分になれますしね(笑)。
目指すは「ほっともっとのから揚弁当」(490円)
――車両やタクシーじゃないと移動したくない芸人も多いのでは?
もちろん芸人によるでしょうね。何万円もする会席料理を提供するお店もあれば、早くて安い牛丼を提供するお店もあるように、芸人にもそれぞれの味があって、魅力がある。僕は「あったらとりあえず入ります」くらいのお店。
――大戸屋などの定食屋のような。
いや、まだ高いですね(笑)。目指すは、「ほっともっとのから揚弁当」かな。美味しいし、すぐにテイクアウトできるあの気軽さ。
――芸歴でいえば30年目のベテランになるわけですが、どうしてそこまでウェルカムな姿勢を貫けるのでしょうか?
これにも理由があるんですよ。ちょうど20年前くらいに、DonDokoDonの山口(智充)さんの芸を生で見たことがあって、それがもう、すごかった。「芸人辞めようかな」と思うくらいの衝撃で。
だけど、そんな山口さんだってテレビなどでスケジュールは埋まるし、体調を崩して仕事にいけないときもある。そのときの代理としてだったらええかな、自分がハマるポジションもあるかなと。営業に限らず、そこで芸人としてできることを真剣に考えた感じですね。
あと、コンビ(サバンナ)で言えば100%相方(高橋茂雄)が握っているから、じつはすごく楽なんですよ。自分のことだけみておけばいい。
――ピンとしての目標はどこに置いているのでしょうか?
お金を稼ぐってことだと、上を見れば大谷翔平やイーロン・マスクと比べなきゃいけなくなる。だから自分のゴールは、自分の子どもをきちんと成人させること。それ以上もそれ以下でもないです。
――いまよりもっと稼いで億万長者になろう、という意志はないと。
僕の勝手な理論ですが、極端に稼ぎすぎると子どもに悪影響が出ちゃうような気がするんです。どういうことかというと、例えば僕がめちゃくちゃ稼いで、東京で5億の家を買ったとしたら、その時点で莫大な固定資産税を支払わなきゃいけなくなって、子どもが一般のサラリーマンをやるのが難しくなる。
それは将来の選択肢を奪うのと一緒だから、なるべく日本人の中央値に近い状態で(資産を)渡してあげたい。ただ、実際に5億くれるならすぐに貰いますけど。単なる負け惜しみだと思ってください(笑)。
このままでは2年で
賞味期限が切れる
――これだけ営業に引っぱりだこだと、収入もすごい額なのでは?
いやいや、いまはテレビのレギュラーがゼロなので多くないですよ。ギャラの交渉もしないですし、僕は無理に上げてほしいと思わない。それが精神衛生上すごくよいし、チェーン店の牛丼でも50円値上がりしたら躊躇するじゃないですか。(笑)
テレビのレギュラーが3~4本あった頃から収入は変わっていないんです。
――八木さんからみてこの人は営業がすごい、という芸人さんはいますか?
くまだまさしやジョイマンですね。くまだや(ジョイマン)池谷くんは舞台上だけじゃなくて、社員さんやクライアントからの評判がすごくよい。池谷くんなんて、舞台が3割だとすると、楽屋や裏側に7割の力が入っている(笑)。
でもそれは寿司屋さんでいえば、朝から魚を仕入れて準備して、片付けまであるわけで、実際にネタを握るところは一部分でしかないのと一緒ですね。芸人も実際にネタをやる瞬間って、全体の3割程度の作業でしかないんですよ。
――今年の営業ももうかなり埋まってきているのでしょうか?
いまだと夏くらいまでの土日祝日は埋まってきています。といっても、まだ仮押さえも多いですが(笑)。
――八木さんとしては、営業を頑張った先にどのような未来を見据えているのでしょうか?
正直いまの僕は、「これまでテレビに出させてもらってきた貯金」の知名度でやっているんです。そしてこのままのやり方だったら、2年で賞味期限は切れます。
なので、個人的な目標としてはFP1級をしっかりと取ること。それから全国を回りながら、お金を使って楽しく生きる方法を、半分お笑い、半分学びみたいなバランスで教えていきたい。それが夢ですね。
取材・文/森樹
写真/神田豊英