
高齢者やお酒を飲む人は、特に気になる尿酸値。これが高いと、痛みが強いことで知られる痛風発作や尿管結石を引き起こすこともあり、注意したい数値だ。
書籍『健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目』(講談社+α新書)より一部抜粋・再構成し、尿酸値の正しい知識を紹介する。
尿酸値(UA)
痛風と関節リウマチは、まったく違う病気ですが、医療の世界では一緒に扱われています。日本リウマチ学会のホームページを見ると、痛風は「リウマチ性疾患および類縁疾患」のなかに入っていますし、東京女子医科大学には「膠原病リウマチ痛風センター」があって、全国から悩める痛風患者を集めています。
まずは痛風を見ていきましょう。健診の痛風項目と言ったら、尿酸値(UA)をおいて他にありません。中高年サラリーマンにとって、もっとも気になる数値のひとつでもあります。高いと痛風発作のリスクが上がるからです。
尿酸はDNAのプリン塩基(DNAの主成分のひとつでプリン体とも呼ばれる)の代謝産物で、血中に溶け込み、腎臓から尿と一緒に排泄されます。しかし供給量が排泄量を上回ると、次第に血中濃度が上がってきます。
尿酸の主な供給源は、プリン体を多く含む食品です。ご存知のとおり、その多くが魚介類や肉など「美味しいもの」で占められています。しかもビールなどにもたっぷり含まれているため、焼き鳥とビールなどは、かなり危険な組み合わせと言えます。
尿酸の排泄量は、血液のpH(酸性・アルカリ性の度合い)によって大きく左右されます。正常な血液はpH7.4前後と、ごく弱いアルカリ性に保たれていますが、ほんの少しpHが下がる(酸性側に振れる)だけで、尿酸が血液に溶けにくくなるため、腎臓からの排泄量が減ってしまいます。
血液のpHは、主に食事の内容によって変化します。血液を弱アルカリ性に保つためには、野菜、果物、海藻、キノコなどが良いと言われています。
また仕事のストレスや、過度の運動やダイエットで、血液のpHバランスが崩れることもあります。とくに筋トレは要注意です。尿酸は新陳代謝やエネルギー代謝が活発になると、筋肉で大量に作られるからです。
ほかにもサウナやスポーツで大量の汗をかくと、水分が減った分だけ血液が濃縮されて、一時的に尿酸値が上がります。
尿酸値が高い状態が続くと「高尿酸血症」と呼ばれ、痛風発作のリスクが上がってきます。腎臓で排泄しきれない余分な尿酸は、血液中のカルシウムと結合して尿酸カルシウムとなり、結晶を作り始めます。結晶は比重の関係から、下半身に沈んでいき、足の先端(とくに親指の付け根)や踵、膝などの関節に沈着するのです。
それがある程度溜まってくると、白血球が外敵と見なして攻撃を開始するため、激しい炎症が生じて激痛を引き起こす(痛風発作)というわけです。
患者の95パーセントは男性です。以前は中高年が罹る病気でしたが、最近は20代、30代でも発症するひとが増えてきています。また女性の患者も徐々に増えていると言いますから、女性だから安心というわけにはいきません。
尿酸カルシウムが腎臓に沈着すると、腎機能の低下が起こります。尿路に沈着すれば、尿路結石となって七転八倒の痛みに襲われることがあります。なにしろ尿路結石は、あらゆる病気のなかで最強の痛みとも言われています。尿路結石は、痛風患者の数パーセントから10パーセント以上で合併するそうです。痛風発作と尿路結石に同時に襲われたら、我慢の限界を超える痛みかもしれません。
日本人間ドック学会の基準値は、男女共通で、以下のようになっています。単位はmg(ミリグラム)/dL(デシリットル)です。
ただし痛風発作が起きるかどうかは、尿酸値だけでなく、個人の体質などにもよります。7を超えた程度で発作が起きるひともいれば、10でも大丈夫というひともいます。
一方、尿酸値が2.0以下になると「低尿酸血症」と呼ばれます。遺伝的に、腎臓からの尿酸の排泄が活発なひとで、男性の0.2パーセント、女性では0.4パーセントが該当します。とくに自覚症状はなく、普通に暮らしていれば不都合はありませんが、他のひとと比べてなぜか尿路結石になりやすいと言われています。
リウマチ因子(RF)
リウマチ因子(RF:リウマトイド因子とも言う)は、一般の健診に含まれていませんが、希望すれば追加できるはずです。また人間ドックでは、定番のひとつになっています。関節リウマチなどのスクリーニングの指標になります。
関節リウマチは、膠原病と呼ばれる自己免疫疾患の一種で、自分の免疫が、自分自身の関節や骨を攻撃する病気です。初期のうちは、熱っぽかったり、だるかったりの症状が数週間続き、次第に朝起きると、両手の指がこわばってきます。
そして次第に、手指や足指、手首や足首、肘や膝の関節が強い炎症を起こして痛むようになり、やがて軟骨や骨の破壊が進んで、関節の変形が起こってくるという病気です。しかし関節リウマチがなぜ起きるのかは、まだはっきり分かっていません。
RFは免疫タンパク質の一種です。ところがここが面倒なところですが、RFがリウマチの原因というわけではないのです。
基準値は病院等によって多少異なりますが、だいたい15mg/dL以下で、それ以上が「陽性」という判定になります。148第8章痛風と関節リウマチ149+ただしリウマチに罹っていてもRFが陽性にならないひとが、20~30パーセントいます。またリウマチ以外の膠原病でも、RFが陽性になることがあります。
逆にリウマチでないのにRFが陽性になるひとが10パーセント前後います。健康なのにRFが100を超えるひとも、時々いるようです。
ですからRFが高いからといって、すぐにリウマチと結論づけるわけにはいきません。手足の指の関節に何かしら自覚症状があれば、リウマチの可能性が高まりますが、自己診断せずに、まずは専門医を受診するべきです。リウマチ科、膠原病科、整形外科などが適しています。
重症化すると、箸を持つのも難しくなりますし、足の指が炎症を起こすと、歩きにくくなったりします。関節の変形がひどくなると、手術が必要になることもあります。炎症を起こしている軟骨や骨を削り取ったり、膝などに人工関節を入れたりするといった、かなり大がかりな手術になります。
日本リウマチ学会によれば、全国の推定患者数は82万5000人ほど。毎年約1万5000人が新たな患者になっているそうです。男性よりも女性のほうが3倍以上もなりやすく、年齢的には40代~60代が多いのが特徴です。しかし最近は高齢で発症するひとも増えています。高齢で発症すると、そのまま寝たきりになることもあります。
いまのところ完治は難しいですが、いい薬が開発されているので、早めに治療を始めれば「寛解」(炎症が治まり、痛みがほとんどなくなる状態)を目指すことができるようになりました。その意味でも早期発見が大切です。40歳を超えた女性は、RFを職場健診などに追加するといいでしょう。
尿酸値が高いのはデメリットだけではない?
尿酸値が上がると、痛風や尿路結石のリスクが上がりますし、放置しておけば慢性腎不全に進むこともあります。それだけでなく動脈硬化、不整脈、糖尿病などのリスクも上がることが知られています。
ですから尿酸値を適度にコントロールすることが大切なのですが、高いからといって、必ずしも悪いことばかりとは限りません。
実は尿酸値が高いと、アルツハイマー病を含む認知症のリスクが低くなることが知られているのです。日本を含めた各国の疫学調査などから、尿酸値が6.0~8.0のひとは、それよりも低い人と比べて、認知症が30パーセント前後も少ないことが、明らかになりつつあります。
それだけでなく尿酸値の高い人は、パーキンソン病や多発性硬化症などの神経難病に、約10~20パーセントほど罹りにくいことも分かってきました。理由は同じで、尿酸が少ないと、神経細胞を酸化から守る力が弱いからではないか、と考えられています。
パーキンソン病は、動作が遅くなる、手足が震える、筋肉が硬くこわばる、姿勢のバランスが取りにくくなる、などの症状がある神経難病で、日本では60歳以上の100人に1人が発病するとされています。男性よりも女性にやや多い病気です。
また多発性硬化症も神経難病のひとつです。脳や神経が慢性的な炎症で傷つくことによって、徐々に運動の障害が生じ、視力が低下して、認知能力も落ちてきます。日本では約1万9000人の患者がいると言われています。
まだ医療界の十分なコンセンサスが得られていませんが、もし本当なら、尿酸値が高いのは、脳神経の病気の予防という点で有利であると言えそうです。健診で尿酸値がひっかかった人は、自分は認知症やパーキンソン病になりにくい体質だと思っておけば、少し気が楽になるでしょう。
ただし尿酸値が高すぎると、心臓病や脳卒中のリスクが上がり、結果として認知症のリスクも上がります。だから高すぎるのも良くないのです。痛風発作や尿路結石を起こさない程度に、ほどほどに高いのが理想的、と言えそうです。
それとは別に、かなり以前から、尿酸値が高い人は、がんになりにくいと言われていました。がんも細胞や遺伝子の錆(酸化)が原因のひとつだからです。また尿酸のがん予防効果を示唆する研究結果も報告されています。しかし最近は、尿酸値と発がんは無関係とする研究結果もありますし、むしろがんに罹りやすいという結果も出ています。
こうした研究は、世界中の医学者のコンセンサスが得られるまでに、相当の時間を要するので、いまは何とも言えません。しかし仮に、認知症だけでなく、がんにもなりにくいことが広く認められれば、高尿酸血症のひとにとっては大きな朗報となること、間違いありません。
図/書籍『健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目』より
写真/shutterstock
健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目(講談社+α新書)
永田宏