
芸能界の裏側をリアルに描いた赤坂アカ×横槍メンゴの大ヒット漫画『【推しの子】』。アニメ第2期では、中島健人さんとキタニタツヤさんによるユニットGEMNの「ファタール」が主題歌となり、大きな話題を呼んでいる。
異文化交流にも程がある(笑)
──おふたりがコラボレーションをすることになったきっかけから教えてください。
キタニタツヤ(以下、キタニ) 自分のところに「『【推しの子】』のアニメの主題歌を作ってください」というお話が来たときに、ソロとしてやるよりは、誰かとコラボレーションしたほうがおもしろいんじゃないかと思って、ソニーミュージックのかたに相談したら、「中島健人さんとどうですか?」と提案してくださったんです。
誰よりもアイドルらしいアイドルだし、作画の横槍メンゴ先生も健人さんのファンですし。『【推しの子】』という題材を考えたときにぴったりだと思ったんです。
中島健人(以下、中島) 光栄でしたね。それこそお話を聞いたときは『【推しの子】』の第1期がすごくブームになっていて、僕もアニメから作品に魅了された人間だったんです。
アイドルとして『【推しの子】』に共鳴していた自分に、力強いご縁が待っていた感じ。キタニくんと共にソロアーティストとして初陣を飾れることはうれしかったです。
──それ以前に交流は?
中島 今回が初めましてでした。予想だにしないカップリングでしたね。でも相性はよかったよね。
キタニ いい感じに補完しあっていましたね。
さっきも別の媒体の写真撮影で、めちゃめちゃアイドルをやっていたんですよ(笑)。普段はステージの下から見るしかできないのに、目の前でアイドルの仕事を見られるなんて、なかなかないですよ。
中島 異文化交流にも程があるよね(笑)。
僕たちはパーソナリティがちょっと似ている
──楽曲制作はどのように進めていったんですか?
キタニ 第2期で放送される「2.5次元舞台編」で描かれるのは“アクア”の内面なので、歌詞では我々ふたりとアクアの共通点にスポットを当てました。僕たちは彼にすごく共鳴できるから。
中島 キタニくんと僕は、パーソナリティがちょっと似ている部分があって。そこでつながり合った感じはあります。
キタニ 『【推しの子】』に登場するキャラクターたちは、ステージ上で「自分を見ろ!」っていう戦いをやっていますが、それは自分も同じで。自分を見て欲しいから音楽を作っているし、それが創作のモチベーションでもあるんです。健人さんは健人さんで、自分という存在をこの世のどこかに残したいみたいな欲求があると思うんです。
中島 そういう意味では、僕らが携われたのが2期の2.5次元舞台編でよかったかもね。
キタニ アニメの内容もYOASOBIの「アイドル」も、ひたすらポップに、間口を広げて衝撃を与えることに注力していましたよね。だからこそ、2期では物語の内容も主題歌も、人間が抱える闇を掘り下げることができたと思うんです。
自分はテレビの中のケンティしか知らなかったから、健人さんと喋っているときに経験してきた挫折とか、腹に一物を抱えていることが見えてきて。そういうケンティを知れたからこそ、ふたりで作った楽曲はちょっと暗い曲になっちゃったけど、ドロドロした感情はきっと誰でも持っていることだし、共鳴してくれる人も多いと思います。
中島 人間が抱える闇を浮き彫りにした、ちょっと魔力が備わっている曲になったと思います。
環境の変化は人を変える
──強烈なスポットライトを浴びるお仕事をしているおふたりだからこそ、物語に深く共鳴できるんでしょうね。
中島 だって僕、ジュニアにいたときのグループ名が「中山優馬w/B.I.Shadow」ですからね。中山優馬くんという強烈な光に憧れる影でしたから(笑)。
キタニ へー! めっちゃいい。
中島 今ならかっこいい名前だなと思うけど、当時はやっぱ嫌でしたよ。「なんで影なんだ!」って。悔しさと挫折と悲しさを、中学時代からたくさん経験してきたんです。
キタニ 栄光の道にいるような人でもそんな過去があったんだと知って、すごい安心しました。自分らの仕事をしていたら、本質はきっと変わらないんだろうなって。ずっと上にいる目の上のたんこぶのような存在を見て、「そいつを倒す」と思ったり、勝てない自分の情けなさにひたすら向き合ったり。自分と他の人の才能を比べたり。
それでも、自分が持っている武器でなんとかやろうという感覚を持っている。健人さんはもちろん、『【推しの子】』の “アクア”を見て、「誰しも同じなんだ」という確証を得ました。
──同世代で戦う仲間ができた感覚もあるのでしょうか?
中島 そうですね。僕の今までのアイドル人生の中では、同世代とスタジオにこもってしっかりと楽曲を制作していく経験をしたことがなかったんです。だから今回は楽しいのひと言に尽きるというか。
キタニ 僕が最初にトラックの骨組みを作っていたんですけど、曲の冒頭からサビに入るまでのメロディを健人さんに聴いてもらったら「ちょっとやりたいことがある」と言ってくれて。レコーディングブースに入ってラップみたいなものを録ってくれたんです。いろんなパターンを完全にアドリブで。
「なるほど、この人にはこういうビジョンが見えてるんだ」と思って、健人さんの素材をもとにAメロができました。健人さんのすごく低いパートから入る感じは結構びっくりすると思うし、ゾワっとするあの冒頭が作れたのはよかったですね。
中島 環境の変化は人を変えるなって改めて思いましたね。今回はすごく肩の力が抜けた自然体の状態で、自分のパッションやエネルギーをぶつけられたと思います。
去年はグループとしても自分としてもめちゃくちゃいろんなことがあったので、コラボのお話をいただいたことが一筋の光のように感じていて。それこそ今年の頭の楽曲のクリエイティブ期間も、いろいろなことがあったから。
僕は“ボーン・トゥ・ビー・アイドル”
──初めてのコラボレーションで発見した、お互いの武器は?
中島 キタニくんは楽曲制作のノウハウは果てしなく深く持っているから、目の当たりにするのがやっぱりすごく楽しいし、刺激的なんですよね。ちゃんと熱がある。多分、世間にまだバレてないと思うんです。
キタニ そうかな。
中島 結構クールなイメージがあるから、「ファタール」では熱量がバレるパフォーマンスができたらいいんじゃないかなって思ってて。なんていうかな、体育会系の人ではあるので。
キタニ 精神性はね。
中島 冷静の中の情熱を思い切り表現してもらえたら、NEWキタニタツヤが見れるんじゃないかな。
キタニ 健人さんは何事においてもちょっと先が明確に見えている感じがあって。「ファタール」の制作中も、いろんな案がポンポン出てくるんですよ。「アー写やMVはこういうのがいいんじゃないか」とか、「ここでこういうふうに登場したらかっこいいよね」とか。あらゆる物事について一番理想的なビジョンを持っているから、将来的にはプロデューサーもできるなって思いました。
中島 それもありだね。アイドルをプロデュースしたいもん、俺。
キタニ あ、いい!
中島 まあ、したとしても10年先だけどね。
──キタニさんにはすでにメールでお伝えしているそうですが、改めて、中島さんはソロアーティストになった今も「アイドル」ですか?
中島 もちろん。グループに所属している人だけがアイドルではないですからね。僕はもう、本当に“ボーン・トゥ・ビー・アイドル”なので。新しいアイドルという形を見せていけたらいいなと思っています。
撮影/松木宏祐 取材・文/松山梢 ヘアメイク/中島健人・石津千恵 キタニタツヤ・山田千尋 スタイリスト/JIKI