
小児科の看護師として働くハヤトさん(35)と精神科の訪問看護師として働くタカフミさん(36)は、千葉県で娘のなーちゃん(1)と家族3人で暮らしている。2人はゲイであることをカミングアウトし、レズビアンカップルと協力して娘を授かった。
きっかけは、ゲイ向けの出会い系アプリ
––––タカフミさんとハヤトさんは、どんな幼少期・学生時代を過ごされたんですか?
タカフミさん 中学生くらいのときは、自分がゲイであることにすごく悩みましたね。「自分は女の人を好きになれないのかな」と思って、変わる努力をしたこともありましたが、やっぱり変えられなかったです。
ハヤトさん 私は物心ついたときからずっと自分はゲイだと思っていたので、女性と付き合うとか、そういうことを考えるのも無理でした。一方で「たぶん男の人とも付き合えないな」とも感じていたので、「自分は一生一人で生きて、死んでいく人生なんだろうな」と思っていましたね。
––––学生時代は、どんなことが辛かったですか?
タカフミさん 僕は全寮制の高校に通っていたのですが、恋バナとかに入っていけないのが辛かったですね。
ハヤトさん どっちかというと、僕は昔から男性より女性の友達のほうが多かったんですけど……。小学校のとき、女友達と恋バナをしていて、ポロっと好きだった男の子の名前を言っちゃったんですよ。「自分は〇〇くんのことが好き」って。
そしたら、その女の子に「男の子が男の子を好きになっちゃいけないんだよ!」って言われて、世間と自分はズレてるんだって思いました。それから「男の子は女の子しか好きって言っちゃいけないんだ」と思うようになり、友達には好きでもない女優のことを好きとか言って、男の子が好きなことを隠していました。
––––2人の出会いは?
タカフミさん 2015年くらいに、ゲイ向けの出会い系アプリを通して出会いました。そのときは、お互いに恋人を探しているというよりは、「ゲイの看護師の友達が欲しいな」と思ってアプリを使っていました。
––––お互いの第一印象は?
ハヤトさん 出会い系アプリに載っていたタカフミの写真がド金髪で、「ウェーイ!」みたいなイケイケな雰囲気で。「この見た目で看護師なんだ。興味あるな」と思ったのが最初の印象です。でも、実際会ってみたら黒髪で、そのうえ目も合わせてくれなくて、「人見知りがすごいな」と思いましたね。
タカフミさん アプリには学生時代の写真を載せていたんですよ(笑)。
ハヤトさん それで、会ったときにタカフミから「僕、実はカミングウトしているんだよね」って言われたんです。当時、僕はカミングアウトしていなかったし、自分の周りでカミングアウトしている人が誰もいなかったので、「この人すごい!」と思いました。
タカフミさん 僕は20歳のときから、親以外にはカミングアウトしていました。
ハヤトの第一印象は「見た目がかっこいいな」で、いい友達になりたいなと思いました。そのとき僕が看護師1年目で、ハヤトが5年目くらいだったので、仕事の先輩っていう感じでしたね。
「この人となら、辛いことも一緒に乗り切れる」
––––どういう流れで付き合うことになったんですか?
ハヤトさん タカフミが看護師1年目だったころ、仕事でけっこう落ち込むことが多くて、ご飯も全然食べられていなかったんです。「昨日何食べたの?」って聞いたら「うまい棒3本」とか「お菓子で夕食済ましている」って言うので、「じゃあご飯作りに行くよ」ってなって。
押し掛け妻みたいな感じで、彼の家にご飯作りに行ったり、洗濯しに行ったりするようになったのがきっかけですね。
––––結婚を意識し始めたのは、どのタイミングですか?
ハヤトさん 彼の部屋に初めて行ったときに、足の踏み場がないほど汚くて、「よくこの状態で人を呼んだな」という感じだったんです。それで一心不乱に排水溝やお風呂を掃除したんですが、そのときに「この人のためなら、こういう汚い仕事もできる。それなら辛いことも一緒に乗り切れるんじゃないかな」と思い、結婚を意識するようになりました。
––––2015年ごろは、世間のゲイに対する印象はどういう感じでしたか?
ハヤトさん テレビ番組などの影響で、“ゲイやオネエは、おもしろい人やちょっと変わった人”みたいな印象があったので、職場とかでしゃべり方や身振りを馬鹿にされることがありました。でも2020年あたり以降、BLドラマなどが普及するようになってからは、そういうことはあまり言われなくなりましたね。
––––当時、2人の結婚に対する周りの反応はどうでしたか?
ハヤトさん 友達に結婚することを伝えると、「じゃあ海外に行くんだ」とか言われることもあって。その言葉を聞いたとき、「“男同士が結婚する”ということを、日本の一般の人たちは根本的に考えていないんだ」とすごく衝撃的でした。「自分たち、日本じゃまだ許されてないんだ」と感じましたね。
母から「あんたなんか産まなきゃよかった」と言われたことも
––––ご両親には、いつカミングアウトされたんですか?
タカフミさん 僕は友達や姉にはカミングアウトしていたんですけど、両親だけにはずっと言っていなくて。両親にカミングアウトしたのは、結婚式を挙げたいってなったときですね。
ハヤトさん 僕は結婚したとしても、親にはそのことをずっと言えないだろうなと思っていました。なぜかというと、僕は幼少期から親に「そういう人は病気だ」って言われて育ってきたんです。
たとえば、親と一緒にトランスジェンダーのドキュメンタリー番組を観ていて、親が感動して泣いていたときにも、最後には「この人たちは病気だからね」「あなたは違うよね?」と言われてしまって。それで「この親には一生カミングアウトできないな」と思い、彼にもそのことは伝えていました。
でも、彼から「僕は家族や友人に囲まれて、祝われるような結婚式がしたい」って言われたんです。誰にも彼のことを紹介していなかったし、紹介するつもりもなかったので、そのときは「どうしよう」と思いましたね。
一生自分のことを隠して生きていくのか、親に勘当されたとしても彼と一緒に生きていくか、けっこう悩みました。でもやっぱり自分の人生を生きたいなと思い、カミングアウトすることを決意しました。
––––カミングアウトしたときの親御さんの反応は?
タカフミさん 僕は、2017年に“里帰り”をテーマとしたテレビ番組の密着取材を受けた際にカミングアウトしたんです。その番組の中で、母に「実は男の人が好きなんだよね」っていう話をしたところ、「やっぱりそうか」って言われました。
後日、母を通して父にも伝えてもらいました。父の反応は意外とあっさりで、「応援するよ」といった感じだったそうです。
ハヤトさん その番組が放送される前に自分もカミングアウトしなきゃと思い、僕も母親に伝えに行きました。実家に帰ってカミングアウトしたら、青ざめた顔ですごくドン引きされました。
でも、後日そのテレビ番組を見た母親から電話がかかってきて、番組を見て感動したのか「お母さん、あなたたちのことを応援するから、これからがんばりな」って言われたんです。父親も「お前らが幸せならいいんじゃないか」という感じでした。
結婚式にはお互いの両親が参加してくれたのですが、そのときは感動して泣いていましたね。
*****************
2人は2018年に家族や友人、職場の人たちに祝福されながら、結婚式を行なった。後編では、子どもを授かるに至った経緯や同性カップルならではの苦悩について聞いてみた。
(#2へ続く)
取材・文/集英社オンラインニュース班