
酒税改正や長期化する円安の影響で値上がりしているワイン市場において「缶ワイン」が存在感を高めている。なぜ、注目を集めるようになったのか。
拡大傾向にある缶ワイン市場
株式会社マクロミルから6月に発表された2024年上半期の「食品」と「日用品」のカテゴリー別購入金額の伸びから振り返る「2024年上半期市場規模拡大・縮小ランキング」(※1)によると市場規模拡大ランキング【食品部門】の第1位は「甘味果実酒」で、前年比144.9%となっている。
中でも、缶入りスパークリングワインが【食品部門】の上位を占め、同カテゴリーをけん引しているという。
缶ワインの需要の高まりを感じるデータだ。
「弊社でも、缶ワインは10年前の2013年と比較すると直近の販売実績は3倍アップしていて、今年に入ってからもさらに缶ワインの注目度がアップしていると感じています」(高橋さん、以下同)
缶ワインは、海外の缶ワインが輸入されるようになったり、ワイナリーやメーカーが独自で開発しコンビニなどで販売されたことで、徐々に認知度を高めていった。
「弊社では、2008年10月にボトル缶ワイン第一弾として飲料用カップ付きのニューボトル缶ワイン、プレミアム缶ワインを販売開始しました。
開発のきっかけになったのがJR東日本社から『列車内で提供する小容量ワインの開発』の提案でした。その後、JR東日本社、缶製造の大和製罐社、モンデ酒造の3社合同プロジェクトが発足。
当時はJR東日本管轄の特急列車内でのワゴン販売、駅売店にて販売されていました。列車内で気軽にワインを楽しめるように飲料用のカップ付きというのが特徴です」
このボトル缶ワインが画期的だったのが、スクリューキャップを採用したことだ。
「当時、缶ワインと言えばプルトップタイプが主流でしたが、世界ではじめてスクリューキャップのボトル(ニューボトル缶)を採用したのが我が社のこの商品です」
キャップがあることで、列車の振動によってこぼれる心配をなくし、気軽にワインを楽しめるという細かい配慮がされた商品だ。
「列車内での販売だけでなく、県内観光施設や酒販店に缶ワインを提案しましたが、発売当初はアルミ缶特有の缶の匂いが『ワインの風味を損なうのではないか』などマイナスのイメージが先行し、なかなか受け入れられず苦戦を強いられました。それでも、車内販売では好評をいただく声もあり、徐々に缶ワインの認知が広がってきたように思います」
※1マクロミルの消費者購買履歴データ「QPR™」をもとに発表。
「QPR™」は、全国3.5万人の消費者パネルから毎日の買い物履歴を収集し、POS(販売時点情報管理)データでは分からない購入者属性や、アンケートによる購入シーン・理由などを追跡できる消費者パネルデータ。なお、ランキングのカテゴリーはJICFS(JANコード商品情報データベース)の文言に統一し、ランキングのための集計データは2024年1月1日から5月15日までを用いている。
自分に合った適量を選ぶことができる
さらに缶ワインは、大手メーカーも参入したことで、ここ数年で急激に市場が拡大し、その裾野が広がっている。また、缶ワインブームには思わぬ理由もあった。
「缶ワインの登場によって、消費者がワインに感じるハードルを下げたことがブームの要因だと思っています」
ボトルワインはコルク栓をすればいいかもしれないが、1本開けるとなると1人ではなかなか飲みきれないという人も多いだろう。
だが、缶ワインは1本180~300mlの製品が多く、一人でも飲みきりやすい。自分に合った適量を選ぶことができるのが最大のメリットだ。
「適量を選べることでワインを飲む年齢層が拡大したと思います。これまでワインに親しみがなかった若年層から健康志向が高まる50代から60代の年齢層まで間口が広がりました。
また良質で適量なワインをお手頃価格で手に入れることができ、さまざまな種類にもトライしやすいというのも人気の理由だと思います」
ここ数年はコロナ禍の影響で、家呑み需要も高かったため、そういった社会的背景もブームを押し上げる要因になったのかもしれない。
さらにボトルワインのように、開栓の手間もなく、瓶が割れる心配や保管に気を使わなくてもいいので、キャンプやバーベキューなどのアウトドアでも気軽に飲むことができる。
「缶は遮光性や気密性に優れているために長期に渡って風味が長持ちします。
同社では、2011年7月に第2弾のボトル缶ワイン「プティモンテリア」をリリースし、今や同社を代表する商品となった。
「飲料用カップをなくした低価格帯の本格ワインを望む多くのご意見をいただき、チリ産の良質なワインを輸入、弊社工場にてブレンドと充填を行い、リリースした商品です。缶のデザインはボトルワインのように、ラベルデザインにしたことでスタイリッシュ感があり、映える!と好評です」
さらに250mlや180mlのスリムな缶ワインもボトルデザインを工夫し、ちょい飲みしたい人に人気だとか。
「缶ワインのよさはカジュアルに本格ワインを楽しめることだと思います。冷蔵庫でキリッと冷やしてさまざまなシーンで楽しんでいただけばと思います」
缶ワインの写真提供/モンデ酒造
取材・文/百田なつき