
「街で見かけると幸せになれる」と噂される“セーラー服おじさん”こと小林秀章(こばやし・ひであき)さん(61)。その正体はなんと、早稲田大学理工学部数学科の修士課程を修了したのち、印刷会社で35年間ソフトウェアエンジニアとして勤務している“エリートビジネスパーソン”だった。
妊婦さんから「お腹を撫でてください」とお願いされたことも
この日、記者は取材場所である集英社ビル付近で、“セーラー服おじさん”こと小林秀章さんを待ちわびていた。
すると、オフィス街をセーラー服姿で颯爽と歩く男性が目に入った。そのインパクトの強さは、遠目からでも十分に伝わってくる。
街行く人々の視線も、セーラー服おじさんに集中していた。「あれ、有名なセーラー服おじさんじゃない?」「すげぇ! はじめて本物見た!」と立ち止まって話す若者もいた。
「街で見かけると幸せになれる」といった都市伝説まで作り上げたセーラー服おじさんとは、いったい何者なのだろうか。まずはセーラー服を着るようになったきっかけや、私生活について詳しく聞いてみた。
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–––––現在は東京都中野区にお住まいとのことですが、その格好でここまで来られたんですか?
小林秀章さん(以下、同) はい。もちろん、家からこの格好で来ました。仕事で出社するとき以外は、常にこの服を着ています。私の中で、この姿を「A面」、仕事に行くときの服装を「B面」としています。
–––––ふだんは会社勤めとのことですが、出社の際はどんな格好をしているのですか?
出社するときは、ジーンズなどすごくラフな格好をしています。
でも「セーラー服姿でどこへでも行ってやろう」と思っているので、本当は会社にもこの格好で行きたいんですよ。それで、上司に「セーラー服で出社させてくれないか?」と何度かお願いしたんですが、許可が下りなくて。
とはいえ、コロナ禍以降はほぼリモートワークなので、出社は滅多にしていません。だから、今はほぼ毎日「A面」で過ごしていて、「B面」になることは数ヶ月に一度くらいです。
–––––小林さんは「街で見かけると幸せになる」と言われていますが、これはなぜでしょうか?
セーラー服を着て出歩き始めたころ、よく街中で盗撮されて、Twitter(現X)に写真が拡散されていたんです。当時は盗撮した写真を勝手にSNSへ投稿する人が、今以上に当たり前のようにいましたから。
ある日、Twitter上で私の写真とともに「セーラー服おじさんを見かけたら幸せになる」というコメントが投稿されたんです。それが女子高生を中心にバズって、「セーラー服おじさん=縁起物」みたいになったんです。
それからは、多いときで1日50人くらいから「写真を撮ってほしい」と言われるようになりました。大阪の「ビリケンさん」になったような気分でしたね。
街でたまたま出会った妊婦さんに「元気な赤ちゃんが産まれてくるように、お腹を撫でてください」とお願いされたこともありますね。
最初のきっかけは「ただの悪ふざけ」
–––––毎日セーラー服姿で出歩いていて、飽きることはないんですか?
セーラー服で出歩くようになったのは2011年6月からなので、今年で14年目になります。でも、まったく飽きないですね。死ぬまでこの格好を続ける予定です。
正直、最初のころは多少「人から見られたい」という気持ちやワクワク感がありましたが……今では慣れてしまって、セーラー服でいるのが一番快適だから着ています。むしろ、ほかの格好をするのが面倒くさいと感じるようになりましたね。
–––––セーラー服以外のコスチュームを着てみたいと思うことはないですか?
女子のブレザーとか、ロリータ服を着てみようかなと考えることもあります。でも、コーディネートが難しいですし、いつもと違う格好をするとみんなに気づいてもらえないうえ、避けられそうなのでハードルが高いです。
SNSやテレビで「セーラー服おじさん」として有名になったので、この格好だとみんなに馴染みがあるから、普通に外を出歩けるんですよ。でも、もし今と違う格好をしたら、周囲の反応が気になってビクビクしちゃうと思います。だから、「もうずっとセーラー服でいいや」という感じです。
–––––もともと有名になりたいという願望はあったんですか?
いや、そんな願望はなかったですし、まさか自分が有名になるとも思ってなかったです。この格好をするようになった最初のきっかけは、ただの「悪ふざけ」だったので。
私たちのような昭和のおじさんたちの間では、セーラー服と聞くと、「三つ編みをしていて、清純で汚れを知らない女子高生」というイメージがあって。私のようなおじさんがそうした格好をするという「ミスマッチ感」が面白いと思ったんです。
–––––「セーラー服=三つ編み」というイメージがあるから、髭を三つ編みにしているんですか?
そうです。私は頭髪で三つ編みができないから、髭でしています。今日は1番派手なリボンを髭につけてきました。
–––––セーラー服姿で常に過ごしていて、生活に支障をきたしたことはありますか?
人から驚かれることはあっても、面と向かって何か言われたり、過激に反応されたりすることは意外とないんですよ。
昔は飲食店に行ったとき、「そのお召し物ではちょっと……」と入店拒否されることがありました。でも、今は多様性の時代なので、そういったことはまったく言われなくなりましたね。年々過ごしやすくなってきています。
日課は「週に4~5回、セーラー服で飲みに行くこと」
–––––今、家族や恋人はいますか?
いないです。一人暮らしをしていますが、寂しいとは思わないです。今後も一人暮らしをずっと続ける予定です。
–––––ふだんはどのような日常生活を送っているのですか?
1週間に多いときで4~5回、1人で飲みに行っています。最低でも、1週間に1回は飲みに行きますね。もちろん、飲みに行くときもこの格好です。終電後の店が空いている時間に、ゆったりと飲むのが好きです。
あとは、午前中は寝ていて、午後から漫画喫茶でリモートワークすることが多いです。家だとダレてしまって、作業するのにあまりいい環境じゃないんですよ。
–––––最近の休みの日の過ごし方は?
12時間くらい電車に乗りながら、読書をしています。最近は、AIに関する本を読むことが多いですね。家や漫画喫茶で本を読んでもふだんと代わり映えしませんが、電車だと開放的な気分になれるんです。
電車に乗るとはいえ、どこかへ行くわけではなく、途中で改札を出ずにいわゆる「大回り乗車」しています。そうすれば、出費も初乗り運賃だけで済むので。
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今年62歳になる“セーラー服おじさん”だが、現在の仕事は「定年まで続ける予定」とのことだ。
インタビュー後編では、セーラー服おじさんに「AI化が進んだ未来の学校」を予想してもらった。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班