
冴えない、モテない男を題材にした悲哀ギャグが持ち味の漫画家、小田原ドラゴン先生(53)。昨年、車中泊で日本一周しながら続けた連載『今夜は車内でおやすみなさい。
東京-北海道の遠距離恋愛を実らせたが
日頃からXは「友達に話しかけるような感覚でつぶやいている」というドラゴン先生。7月8日に「結婚の約束をしてた人がいたのですが破談となってしまいました!」と衝撃のポスト。
翌9日には「婚約者と行く予定だったディズニーランドのチケットがあるんですけど誰か一緒に行きませんか?」と同行者を公募。その状況を逐一投稿していた。
「その婚約者は北海道在住の30代の方で、もともと僕の読者でした。じつは付き合う10年くらい前から知り合ってて、5年くらい前には付き合っていたような時期もあったんですけど遠距離が原因で意思疎通ができず疑心暗鬼になって別れたんです。
でも僕のツイート(ポスト)に対し彼女がLINEをしてくるという関係は続いてて。それで今年5月、僕が北海道に行ったときに冗談ぽく『結婚しようよ』って言ったら『いいよ!』って言ってきたんで。僕の中で北海道に移住したりする未来が一気に広がりました」
東京と北海道という遠距離ではなかなか会えないのもうなずけるが、なんだか先生のその言葉だけでは随分と関係が浅いようにも聞こえる。また“冗談ぽく言った”というのも気になる。そのあたりも重ねて聞いた。
「彼女が東京に来たときは必ずディズニーランドでデートをしてて、3回くらいは行ったかな。昭和的なものが好きな子だったから昭和歌謡曲を聴いたり純喫茶なんかも行ったり。『今夜は車内でおやすみなさい。』を描くために北海道に行くときは必ず会ってたし。
とにかく一緒にいて落ち着く子だったから、彼女もそうだったのではないかと思っています。彼女も30代だし結婚とか意識してるかなって思ったし、冗談ぽく言ったのは…本気っぽく迫られても怖いかなあと思ったからです…」
それがなぜ“破談”になってしまったのか。
「その流れで7月8日に彼女が東京に来る計画を立て、そのときにいつ親御さんにご挨拶に伺って入籍はいつにして、僕がいつ北海道に移住して…といった細かいこと詰めようと話してました。それが、彼女が東京に来る確か3日ほど前に『やっぱ結婚はナシで』というようなLINEがきたんです」
婚約破談直後に親友の死が発覚
本当にそんな軽いニュアンスの連絡だったのかと再度尋ねた。
「もう少し言葉は丁寧に書いてあったとは思うし、それに謝り的な言葉も入ってたと思うけど、そんなしっかり読みたくないし読み返してもないので…まあそんな感じの言葉でした」
あまりにも衝撃的なLINE。先生はそれに対し返事はなんと?
「『わかった』とだけ返しました」
これまた驚きの返し。「ナシなものはナシなんだろうし、理由なんて聞けません」と言う。
「でも薄々、断ってくる可能性もどこかで感じてはいました。きっと親御さんとか友達とかから、何かいろいろと言われて心が揺らぐこともあるだろうなとか。
先生には北海道に移住したら思い描いていた未来もあったという。
「嫁と一緒にレトロゲームをプレイするYouTubeチャンネルを開設するのもいいなとか…。彼女はゲームをしない子でしたけど、ファミコンのいろんなクソゲーとかの彼女が知らなかったであろう楽しい世界を教えてあげたかった」
北海道があまり関係ないのはさておき、そんな夢が叶うことはない現実を受け止め、「南海トラフ地震がいつ起こるかわからないし、こうなったら気持ちを切り替えて嫁を探したいですね」と前を向く先生。
だがそんな先生のもとに、さらなる悲劇が降りかかる。先生が2005年から連載していた『小田原ドラゴンくえすと!』にも登場し、週刊誌などでライターをしていた石川キンテツさんが突然亡くなったのだ。
「キンテツに最後に会ったのは6月11日でした。新宿でラムしゃぶを食べながら近況報告をする中で、僕はキンテツにマウントを取るために婚約したことも言いました。でも結局ダメになって、ポストした同じ日の7月8日に「残念だけど結婚はなくなったよ」とキンテツにLINEしたんです。でも2日経っても3日経っても既読がつかない。
おかしいな…って思って知人女性からもキンテツにメールしてもらいましたが、それにも返信がないという状態で。これは体調的な問題で何かあったな…と思っていたんです」
音信不通の親友の家を訪ねてみると…
先生が何かあったと思うのには理由があった。6月11日に先生がキンテツ氏に会った際、彼は「300メートル歩いただけでハァハァ言ってて、目にも光がないし、グラスを持つ手がブルブル震えてた」と言う。
「歩いてるときも『そんなハァハァする?』って言ったけどなんか笑って誤魔化してたし、グラスを持つ手の震えのことをツッコんでも『いや僕は生まれてからずっと手震えてるんです』なんて言ってて、変だとは思ってたんです」
だが、先生はキンテツ氏の自宅住所を知らないために安否確認ができない状態だった。それというのもキンテツ氏はライター業が最も盛んだった15年以上前は「東京タワーが見える港区のマンション」に住んでいたというが、その後、赤羽あたりに移り住み、現在は親御さんに仕送りをもらいつつさらに都下に移り住んでいたため「自宅住所を言いたがらなかった」のだという。
「キンテツは安いものを嫌うところがありました。牛丼チェーン店も『そんなヤスモン食えない』とバカにしたり、歌舞伎町の安いキャバクラで『ここは安いからお触りしてもOK』という勝手なルールを作ってたり。だから住所は言いたがらなかったし、僕もそこまで追及しなかったんです」
だが、ある理由でキンテツ氏の住所が明らかになる。
「僕はキンテツとは漫画のネタ的に付き合ってた部分もあるので二番目の親友だと思ってるんですけど、実はキンテツには一番の親友がいるんです。その親友が6月にキンテツから“ある頼まれごと”をされていて、それにより一番の親友の方がキンテツの住所を知ったんです。
僕は彼から住所をきいてキンテツの家に急行しました。そのマンションがもう、見るからにボロくて。ドアにはキンテツのお父さんが書いた貼り紙が貼られていました」
貼り紙には「7月8日にキンテツ氏が部屋の前で倒れていた」ことがキンテツ氏のお父さんの文字で書かれていた。奇しくも先生が「結婚は破談」とポストし、キンテツ氏にLINEを送った日だった。
「その後、キンテツのお父さんが7月25日に再び部屋の整理で来るとのことだったので、お父さんに直接聞きました。
司法解剖もしたみたいだけど死因はわからなかったみたいです。一番目の親友にも二番目の親友の僕にも知らされることなく7月11日に家族葬が行なわれたみたいです」
ツイキャス中に起こった怪奇現象
あまりにも突然の死。先生がキンテツ氏の住所を知ることになった理由については一番目の親友の方から「キンテツに不名誉になることだから今はまだ言わないでほしいと口止めされているんです」と言う。
「一番目の親友の方はキンテツを本当に純粋な親友だと思ってるから言わないでって言ってるけど、親の仕送りで暮らして秋葉原のコンカフェに行ってシャンパン入れたり、ロマンス詐欺で200万円騙し取られたりしてるキンテツらしい馬鹿げた理由なんですよ。だから僕はいずれしれっと言っちゃうつもりですけどね」
キンテツ氏の急逝後、やや不思議な現象も起きた。8月2日、先生が現在の心境を語るべくツイキャスを行なった際、キンテツ氏の話題に触れたタイミングで“ガビガビゴボゴボ”という雑音が入る。
「じつはこれ、僕はフツーにベッドに寝転がりながらスマホを持ってしゃべってて、何も雑音なんてなかったんです。でも聞いてた人から『雑音で先生の声が聞こえない』と言われて気づきました。
僕はキンテツから何を書いてもいい“石川キンテツフリー素材権”を5万円で買ってたんですけど、もしかしたらキンテツは『だからって勝手に俺のアホ話をするな』って邪魔しに来たのかなって思いました。よく霊は電子機器などに影響を与えやすいって言うし…」
実際に先生の8月2日のツイキャスを聞くと、確かに先生の声がまったく聞こえず“ガビガビ”の音声以外に“誰かの声”のような雑音も入る。不思議な現象だが、先生はキンテツ氏の死をこう振り返る。
「親の仕送りで暮らしながらも自分の将来に焦りもなく、本気で秋葉原のコンカフェ嬢を落としてなんなら結婚できると思ってたキンテツは、楽しいまま終わったいい人生だったと思います。僕は正直、少し羨ましくさえ思った。あいつうまいこと逃げたなって気持ちです。もっと人生の苦しみと少しの楽しさを一緒に味わいたかった」
とはいえ我々はまだ生き続けなければいけない。先生に「Xでの嫁募集計画」についても聞いた。
「ディズニーランド同行者をXで公募したときに80人くらい応募者が集まってうれしかったんですけど、ほぼ僕のことを知らない人でした(笑)。だから付き合うならせめて僕を知ってる方がいいですし、巨乳の方であればなおいいです」
今は心証をよくするために「顔のシミ取り」と「歯のホワイトニング」もしているという。さらに「ニートの車好きのおっさんの話」が題材の新作も準備中だという。先生の今後の冴えない、モテない男たちの漫画に、我々は勇気をもらいたい。
取材・文/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班