
特異な才能や高IQを持つ「ギフテッド」と呼ばれる人々。そのとびぬけた能力の裏側にある苦悩や、未だ「才能教育」に関して発展途上な日本に対しての思いなどを、全員がIQ130(SD15)以上のギフテッド4人に聞いてみた。
高IQ当事者ゆえの家族間トラブル
――みなさんはどのようなご家庭で育ったんですか? ご家族の中にも高IQの方がいらっしゃったのでしょうか?
立花奈央子(以下、立花) うちは父は中卒で母は高卒。家族の半分が発達障害で、いわゆる家族みんなが高IQ、ギフテッドということはないと思います。
加藤貴大(以下、加藤) 僕の家庭も高IQみたいなのは全然いなくて、両親も妹も運動能力が高い体育会系一家でした。 幼少期から続けていた空手の全国大会でいい結果を残したときに「父親が体育の先生だからね」って言われたのが嫌で、両親とは違う方向へ行こうと思って高校では演劇部と吹奏楽部でした。
春間豪太郎(以下、春間) 僕の両親も高IQって感じではないんですが、家族とギフテッド当事者ならではの関わりの難しさは経験しましたね。16歳の誕生日に両親から呼び出されて、「努力はしたんだけど、あなたのこと好きになれなかったから親と子の適切な距離を保つべく敬語で話しましょう」って言われて。
一つ上に姉がいるんですけど、姉は普通にタメ口で両親とコミュニケーション取っていて。僕は高校生から家の離れで一人暮らしを始めました。 今は楽しく生きてますけど、親の話をすると 悲しくなります。
――そうだったんですか。お姉さんには普通に接している分、余計お辛いですね。
立花 うちもたしかに、親が私を非常に持て余していたと感じます。
梶塚チハル(以下、梶原) そこに対して突き放しちゃうのか、受け入れてくれるのかは両パターンありますよね。
立花 「子どもって普通こうだよね」という常識からかなり外れているので戸惑うみたいです。最近はギフテッドが認知されてきましたけど、ギフテッドも多種多様で感覚過敏やこだわりが強く出るなど特性もさまざま。育児書が参考にならないことも多かったと聞きます。
ギフテッド教育に必要・不要なものとは
――ご自身の経験も含めて、今後どういう世の中になればいいなと思いますか。
加藤 「ギフテッドの支援=その人の特化する部分を伸ばす」、それ一択は辞めてほしいなと思います。
一同 うんうん、 わかる。
加藤 本人からすれば楽しいことの1つに過ぎなかったのに、勝手にその一本槍で戦うことを期待される。結果、後で自分の完全上位互換と出会って存在意義の喪失に苦しむと。
――具体的にそれはどうしてなんですか?
立花 結局、役に立たなきゃいけないんですかっていう話になっちゃうんですよ。この社会に対して何か特別な能力を発揮しなくては居場所がないんですかって。そんなはずはないんですよ。
春間 ギフテッドと呼ばれる人たちはいろんなことに興味を持って、たくさんのことができるようになっていくはずなんですよ。だから早い段階で「この人はこれ」って決めること自体が間違っているっていうのはありますね。
加藤 ゴルフのタイガー・ウッズって小さい頃からゴルフをやらされ続けてきて、ギフテッド教育ってそちらを想像されがちなんですけど。 たとえば、テニスのロジャー・フェデラーは数多のスポーツを経験したうちの一つとしてテニスをやっている。いろんなことを経験した上である一つが発芽するっていうタイプもギフテッドの中では割と多いことを知って欲しいですね。
春間 高IQを集めたクラスでは 、先生も 同じような高IQではないと厳しいと思います。同じような苦しみを経験している人じゃないと…。
立花 この子ちょっと違うなって感じたり、 その子に何が必要なのかをわかるのも、 当事者の要素がある先生なのかなって。ただそういう人が公務員としての教師を続けられるかというと、特性的に難しいことが多いようです。
加藤 私はギフテッド教育がしたいわけではないけど、もっと子どもたちに自由な感覚で学んでほしいと思い 、昨年に外部からの招聘って形で小学校で教えてました。
立花 変わっている子どもにとっては、変わっている大人がこんなにいるんだってわかることがすごい勇気になるからね。
春間 世界が拓けていくこともありますからね。
――たしかに。そういう存在がいると知れただけで安心しますよね。
立花 ギフテッドをめぐる状況は未だ混迷していますが、ギフテッドという言葉が認知されるようになったのは喜ばしいと感じています。昔、発達障害って言葉自体がなかったですよね。それが一般的になるまで当事者や支援者が奮闘した結果、特性と必要な配慮が広まりました。
ギフテッドも今、そうなりつつある過程にあると考えています 。ただ、当事者の多くは困り感を抱えていながら、ギフテッドという字面の印象から偉ぶっているイメージを周囲に与えやすく、本質的な対話の機会を持つことが難しいですね...。(「ギフテッド」や「発達障害」という)名称があってもなくても、そういう人がいるって事実は変わらないので。
ギフテッド4人の仕事観と将来の夢
――高IQの方は 収入も高いのではって単純にイメージしてしまうんですが、仕事やお金稼ぎについてはどう考えてますか。
加藤 収入は挑戦や成長に必要な程度はもらっていますが、お金を稼ぐことにそんなにこだわりはないです。ゼロだったものを1にする、今まで社会になかったものを作ることが好きで、その過程をみんなと楽しめるならお金は必要最低限でいい。ゼロイチの後、1から10までは頑張れるんですけど、10から100にするのには興味がなくて、得意な人に売っちゃいますね。
梶塚 私の場合、お金はいくらでも稼ごうと思ったら稼げるシステムを作れるんだけど、自分が何かをやるのが好きなんですよね。例えばガラケーが出てきて液晶がカラーになったとき、「これで漫画を見るサービスができたらおもしろいだろうな」ってお金を集めようとしたんですね。
結局、漫画のビジネスをやらないで、2000年ぐらいにメタバースみたいなものを作って資金調達したんだけど。その後も自分の会社で世界を作ることに没頭しちゃったんですよね。
立花 私にとって仕事は仲間と一緒に遊ぶための手段。だから数字を上げることにあまり興味がなくて、適切な報酬をもらってクライアントが満足して、みんながそこそこ盛り上がれば私も満足で。昔、稼ごうと思って頑張って働いたこともありましたが、合わない環境になじむために仮面を被って過ごすのがとてつもなく苦痛で…病気になって辞めました。今は自分の思う通りに生きていますね。
加藤 仕事を仕事だとは思ったことないですね。
梶塚 労役だとは思ってないね。
春間 「何で稼ぐか」の方が大事みたいな。
――最後にみなさんの今後の展望を聞かせてください。
加藤 完全に個人的な残りの人生の使い方ですが、個々人の能力の活かし方を就職以外でもっと広げていきたい。昔は「就職する」でしか社会に能力を還元できなかった。でもだんだん「業務委託」っていう形で会社という枠の外でも力が発揮できるようになってきた。それのもう一つ緩い枠組みでスキルシェアの幹線道路を作りたいなって思っています。
今、いくつかの会社で技術顧問をやっているんですが、実は、求められる知見の大半は大学院生でも答えられる内容なんです。僕を使うのは割高なんですよ(笑)。でも彼らは大学院生とつながるツテがない。だから僕はある種のスペシャリスト予備軍と(企業の)人を上手くマッチングさせる、就職でもなければ、あなたのところで働かないかもしれないけど、いつでも気軽に互いの得意を共有できる「仲間」へのアクセス環境を整備する、ということを残りの人生でやっていきたいなと思っています。
梶塚 個を解放してあげるというか、個による呪縛からそうじゃないもっとダイナミックな関係性に捉え直すっていうのはすごく重要だなって思います。
加藤 知識って無限に複製可能なのに、それを必死に隠そうとするアンチ進歩性のおぞましさというか、いつまでそんなものにこだわっているんだろうって。
梶塚 あんまり合理的ではないよね。
春間 僕は冒険で近々、南米のアマゾンに行く予定なんですよ。
一同 え~!?
立花 私はやりたいことを十分やってきて、非常に満足しています。でも、今この路線で進んでいってもやることの規模が大きくなるだけで、本質的には変わらないからおもしろくないなと思って。だから逆に結婚とかしたいですね。今度はちゃんとした共同生活で基盤を一新させて。そうやって変わった自分が次に何を見出して、何をやりたくなるのかっていうのに興味があります。だから今、 真面目に結婚がしたいです(笑)。
取材・文/木下未希 撮影/集英社オンライン編集部