
10月1日に石破茂政権が発足した。石破氏はかねてから「党利党略のための解散はよくない」というポリシーを持っており、自民党総裁選でも、「国会で野党と十分な論戦を行なってから解散総選挙をするべき」と発言していた。
早まった解散、なぜ?
「10月1日に国会の首班指名で内閣総理大臣に選出されれば、ただちに組閣を行ない、政権を発足させる。
新政権はできるだけ早期に国民の審判を受けることが重要で、諸条件が整えば10月27日に解散総選挙を行ないたいと考えている」
石破氏は9月30日、まだ総理大臣に選出される前であるにもかかわらず、解散日程について言及した。永田町関係者は解説する。
「総理が解散を表明してから衆院選が公示されるまで、目安として2週間の期間が置かれるのが通例となっている。
各都道府県の選挙管理委員会などが衆院選に向けて準備をする必要があるからだ。
だが、石破氏が総理大臣の任命を受け、代表質問などの最低限の日程をこなしてから解散を表明したのでは、10月中に投開票までするのは間に合わない。
何としてでも10月27日に選挙をするため、まだ国会が始まる前に解散の事前表明をしたわけだ」
現在予定されているのは10月9日に衆議院を解散し、15日に衆院選が公示されるという超短縮日程だ。
通常ならば選挙の準備が間に合わないところ、無理やりにでも間に合わせるために、石破氏は早めに解散について言及したといえる。
しかし、石破氏は総裁選では「国民が判断する材料を提供するのは政府、新しい総理の責任だ」「(与野党の)本当のやりとりは予算委員会だ」「(解散を)自民党の都合だけで勝手に決めてはいけない」などと述べ、当時、早期解散を主張していた小泉進次郎氏に対して、野党と十分な論戦を行なうべきとの正論で牽制していた。
これはかねてからの石破氏のポリシーで、昨年6月にも公式ブログで「(解散は)政権の延命や『野党の準備が整っていない今なら勝てる』というような党利党略目的で行われるべきものではない」と主張している。
しかし、首相になったとたん石破氏は豹変し、予算委員会を開かず、国会を早期に幕引きする方向にシフトした。
なぜここまで解散総選挙を急いでいるのか。
永田町関係者は「新しい総理総裁が誕生した勢いで選挙に雪崩れ込んで、勝とうとする思惑や、10月27日に行なわれる参院岩手選挙区補選で不戦敗となるのをかき消そうという考えもあるが、それだけではない。
予算委員会を開けば各大臣に質問が飛び、不用意な答弁で政権にダメージを与えられる恐れがある。それを避けるため、過密スケジュールを作ることになったのだろう」と話した。
予算委員会での失言や、スキャンダルで窮地に追い込まれる可能性も…
予算委員会は全閣僚が出席することが習わしになっており、大臣が失言をして窮地に追い込まれてしまうこともたびたび起きてきた。
すでに、野党からは石破内閣の各大臣の資質を問う声が挙がっている。
立憲民主党の最重鎮、小沢一郎衆院議員はX(旧Twitter)で、新しくこども政策担当大臣となった三原じゅん子氏が、2011年の民主党政権時に「子ども手当は反対!」と述べているのを引用し、「こんな感覚・発想では、少子化はますます加速し、急激な人口減少により国は早晩滅亡する」と糾弾した。
また、一部週刊誌には早くも新閣僚に関する“タレコミ”や“情報提供”が入っており、裏付けの取材も始まっている。こうした指摘から閣僚を遠ざけるため、予算委員会の開催を回避する方向に石破氏は動いたわけである。
そのかわりに与党が提示しているのが党首討論の開催だ。党首討論は予算委員会とは違い、首相以外の閣僚が出てくることもない。
自民党関係者は「石破首相は自身の論戦力には相当の自信を持っている。
石破氏がきちんと論戦に応じている様子がテレビなどで放映されれば、『論戦から逃げた』という印象を国民から持たれることもないのではないか」と語った。
一方、立憲の中堅議員は「衆院選で問われるのは石破首相だけでなく、石破政権全体だ。きちんと各閣僚に質問できる予算委員会が開かれなければ全く意味がない」と怒りを露わにした。
高市氏、小林氏の冷遇に保守系議員が反発
結局、閣僚の多くが国会で質問を受ける機会のないまま解散総選挙に向かうことになる。石破首相が予算委員会の開催から逃げた背景について、周辺記者の1人は次のようにも語った。
「石破氏は議員同士の飲み会があまり好きではなく、これまでも仲間づくりを怠り続けてきた。
いわば、チーム戦が苦手で、それ故にこれまでは『自民党内野党』として、与党議員でありながら政権に対して好き勝手に批判をしてきたわけだ。
だが、その石破氏が首相になってしまったため、内閣というチームで戦わなければならない予算委員会を乗り切るのは無理だと判断されたのではないか」
しかし、政権運営は首相の単独プレーだけで、できるわけではない。
それこそ、政府与党のチームプレーでありとあらゆる問題に対応しなければならないわけだが、予算委員会の開催から逃げたことは、まさにそのチームプレーこそが石破首相の最大の弱点であり、危うさである証左とも言えるだろう。
すでに、石破政権の閣僚・党役員人事を巡っては、総裁選での高市早苗陣営や小林鷹之陣営が冷遇されていることに、保守系議員から反発の声が挙がっている。
そんなガタガタの体制で解散総選挙に臨んで大丈夫なのか。
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取材・文/宮原健太 集英社オンライン編集部ニュース班