
量が多い。価格が高い。
コクヨのワークライフコンサルタント・下地寛也さんの著書で、「分ける技術」を駆使して、ありそうでなかった「しにくい」の解決を探った本『「しやすい」の作りかた』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
価格が高いと感じる人に「1枚ずつ」売る
様々な商品は分けることで、お客さんにとって「選びやすい」を実現している。
分け方にはどのようなやり方があるだろうか。
・数量を以前より小分けにする
・もともとの大きさを分割する
・ターゲット・時間・場所で分割する
・払うお金を分割する
・選びやすい選択肢の数に分けておく
・陳列の分け方を見直す
等々、いろいろできそうだ。
「ユニ・チャーム」はアジア市場で紙おむつを普及させようとしたが、低所得者層にとってそれは〝贅沢品〟でなかなか手が出ず、苦戦をしたことがある。
インドネシアなどのアセアン(ASEAN)諸国では、まだまだ家族経営の小さな小売店が多く、その軒先で天井から1枚ずつ紙おむつが吊つり下げられて売られている。
そこで、ユニ・チャームは紙おむつを1枚ずつに分けて売ることで、手に取ってもらいやすくしたという。
ただ分け方を変えるだけで売上増に
「P&G」のブランド「アリエール」の洗剤『ジェルボール』は、1回分が水溶性の袋に分けられている商品だ。
洗剤を量って入れるという「それくらい、手間ではないのでは?」と思えるようなことをも省いたことで、若い世代に売れている。
「味の素」の『鍋キューブ』は、ひとり分の鍋のスープを固形にすることで、「わざわざビン入りの鍋つゆを買って味の濃さを調整してまでは鍋を作らない」というひとり暮らしのニーズにマッチしてヒットした。
1995年頃発売された「森永乳業」の『クラフト 切れてるチーズ』は、家でチーズを切るという面倒な作業を省くことで大ヒットして、わずか数年間で切れていないチーズより売れるようになった。
商品の「機能」や食べ物の「味」といった本質的な価値を変えなくても、ただ分け方を変えるだけで、「気軽に使いやすい」を実現し、そのことが売上につながっている。
書籍においても、文芸大作は「上下巻」に分かれていることがよくある。
いくら分厚いとは言え1冊3000円では高くて買ってもらえないが、2冊で3400円、つまり1冊1700円なら「買ってもらいやすい」わけだ。
デアゴスティーニの「買いやすい戦略」
ちなみに、多少脱線するが、『ドラゴンボール』というマンガは背表紙のイラストが1巻から順番につながっているデザインになっていて、本棚に並べると次の巻もそろえたくなる工夫がされていた。
その結果、私は42巻をすべて買ってしまった。これも上手に分けた事例と言える。
「分ける」ビジネスモデルで成功した代表格は、テレビCMでもおなじみの「デアゴスティーニ」だろう。
完成した模型や部品を一括で販売するのではなく、定期的に、少しずつ部品を販売して、徐々に組み立てていく楽しみを消費者に提供している。
「創刊号」を安い値段で売ることで、お客さんは「買いやすい」。買った人たちは、「最後までやりとげたい」という気持ちで、定期的に送られてくる部品を楽しみに待つわけだ。
ちなみに『週刊 ホンダCB750FOUR再刊行版』というバイクは総額15万円ほどになるそうだが、創刊号特別価格は490円、毎週の通常価格は1999円。
『週刊 陸上自衛隊 90式戦車をつくる』は総額22万円ほどで、創刊号特別価格は290円、通常価格は約2000円となっている。
15万円とか、22万円とか言われると、買う決断をするのに勇気がいるが、分割払いで、しかも買ってみてイマイチだと思ったら「解約オーケー」としておけば、買うほうは手を出しやすい。
「分割払い」というのは、ある種の魔物であるが、買ってもらうための上手な分け方でもある。
文/下地寛也
コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタント エスケイブレイン代表1969年神戸市生まれ。1992年文房具・オフィス家具メーカーのコクヨに入社。5年後、コクヨがフリーアドレスを導入したことをきっかけに「働き方とオフィスのあり方」を提案する業務に従事し、ワークスタイルを調査、研究する面白さに取りつかれる。
顧客向け研修サービス、働き方改革コンサルティングサービスの企画など数多くのプロジェクトマネジメント業務に従事。未来の働き方を研究するワークスタイル研究所の所長などを経て、現在はコーポレートコミュニケーション室の室長としてコクヨグループのブランド戦略や組織風土改革の推進に取り組んでいる。
著書に『考える人のメモの技術』(ダイヤモンド社)、『プレゼンの語彙力』(KADOKAWA)、『一発OKが出る資料 簡単につくるコツ』(三笠書房)などがある。
写真/shutterstock
「しやすい」の作り方
下地寛也