
日本の家庭において、昭和の時代から広く採用されている“お小遣い制”。多くの父親たちが長らく、自由な支出を制限され、質素倹約に努めてきた。
お小遣い制は夫への経済的DV?
発端となったのは12月5日、あるユーザーがXにつづったお小遣い制についてのポストだった。同ユーザーは、高学歴で年収1500万超の複数知人がお小遣い制を強制されたせいで、エリートコースから外れて出世が遅いと投稿。「臨時収入やボーナスは全て管理され没収なので『仕事のモチベーションが上がらない』」などと知人の窮状を訴えかけた。
すると、同日に経済系インフルエンサーの田端信太郎氏が「お小遣い制は経済DV!」と、引用ポストでこれに同調。
さらに、田端氏と親交のある実業家・ホリエモンこと堀江貴文氏も、「ほんとに! 俺もこれはずっと言い続けている。奴隷制度だよねこれ」と引用ポストした。
こうして、“お小遣い制”に対する賛否がX上で激しくなると、ユーザーからは〈お小遣い制は現代の農奴制〉〈無駄遣いしないための良い慣習だと思うけどなぁ〉〈夫婦は雇用関係じゃないんだから話合って決めたらいいでしょ〉など、さまざまな声が上がった。
果たして、お小遣い制は本当に奴隷制度なのか? 実態を調査すべく、まずはママたちが多く集う東京・墨田区の錦糸公園を訪れた。
ここは平日・土日問わず老若男女でにぎわっているが、中でも子連れの利用者が多い。最初に声をかけたのは、遊具で遊ぶ子どもを見守る2人組のママで、ともにお小遣い制だという。
「うちはお小遣い制で3万円です。夫婦で共同の口座を作って、私も夫もそこに入金して、現金で下ろして手渡ししています。
「うちも3万円。周りがお小遣い制かはわからない。やっぱり生々しいからママ友にお金の話ってできないんですよね(笑)」(30代母・専業主婦)
2人に世間の議論について問うてみたところ、「家族なので、収入は家の共有の財産だから」と“奴隷扱い”しているという意見には否定的だった。
また、3万円が少ないという声にも、「嫌なら『もっと稼いでください』としか(笑)。収入が少ないから管理せざるを得ないわけで、高収入なら無駄遣いしてもまだ余裕はあるし」と意見が一致していた。
若い世代はお小遣い制に否定的
さらに聞き込みを続けると、お小遣い制を採用していないという妻にも遭遇。
「夫が技術職で、駐車場代とか経費の立て替えで現金が要るから、お小遣い制にしてないんですよね。私もパートをしていますので、お互いの収入から一定額を共有口座に振り込み、『家庭のお金』として共同で管理しています」(40代母・パート)
「うちは共働きで、お小遣い制じゃなくて共同の口座があります。毎月の収入のうち、自由に使うぶん以外はそこにプールしています。お小遣い制にする家庭は夫に家計を管理する能力がないことが要因だと思うので、仕方ない気も……。
実家は会社員の父が家計を管理していて、逆に専業主婦の母にお小遣いを渡していました。うちはうまくいってましたけど、でも、それだと権力関係みたいじゃないですか。
『お金をもらってるから逆らえない』とか、『別れたいのにお金の問題で別れられない』とかになっちゃうと、やっぱりそれは経済的DVですよね」(30代父・会社員)
続いては、若い世代の本音を聞くべく原宿へ。
「えー! 絶対やだ(笑)。信じられない。確かに経済的DVとか財産権の侵害だと思います。そもそも、今は共働きが多いし、お小遣い制って時代に合わない昔の風習じゃないですかね」(18歳男性・高校3年生)
「お小遣い制にしてパートナーには節約させ、自分はこっそり高いものを買ったりしたらオイシイのかもしれないけど、それはかわいそうすぎるしやっちゃいけないと思う。相手の財産を不正に使ったとかで離婚の理由にもなりそう。
自分が結婚したら、なるべくお互いのお金は自由に使いたいですね」(22歳女性・大学3年生)
さまざまな意見が出たところで、次は働く夫たちに迫った。
訪れたのは、サラリーマンの街として有名な新橋。仕事終わりの時間帯を狙って訪れたところ、飲み会帰りも多いのか、一様に上機嫌でぶっちゃけてくれた。
昭和世代は「男気やカッコつけでもある」
「うちは共働きで、お小遣い制だけど月6万円。(記者が、他の家庭でもこの額の家庭が多いと伝えると)たぶん、『2万じゃ少ないし、4万じゃ多いから3万円』みたいな、日本人的な発想じゃないかな?」(50代父・会社員)
「うちは共働きで、お金は各々で管理してる。この前、洗濯機が壊れたときも、『私が悪いから』って妻が買ってたね。
なかには、かつてはお小遣い制だったが今は廃止したという人も。
「僕は最初お小遣い制で、月6万でした。妻が専業主婦で、子どもが今8歳なんですけど、2歳くらいのときに話し合って、それぞれ自由に使えるようにしました。
でも、奥さんも僕が預けたお金でパチンコ行ったりしてるんですよ!(笑)」(30代既婚男性・会社員)
「僕は未婚ですけど、お小遣い制なんて嫌ですよ!(いくらならいいかと聞くと)えー……10万円とか(笑)。まぁ無理だとはわかってますけど。だからホリエモンが言ってることもわかるし、世間のお父さんたちにも同情しますよね」(30代未婚男性・会社員)
すると、一緒にいた男性はこの意見に持論をぶつける。
「でもそういうのって、旦那の家計管理がだらしなくて仕方ないから、という気もする。後輩にもお小遣い制の子がいるけど、望んでやってるみたいな、自ら奥さんに託してる感じ。
結局は結婚前の互いの意見のすり合わせが大事」(30代既婚男性・会社員)
その後、中学生~大学生まで5人の子を持つという父親に遭遇。
「俺は月3万で、通帳も印鑑も暗証番号も奥さんに預けてる。今日もこうやって飲みに来てるけど、だいたい1回で3000円くらい使って、月20日は飲んでるからそれだけで赤字だよな!(笑)
職場にはおにぎりとか作って行くし、お小遣いの額は正直少ないけど、奥さんは『今月ピンチなんだ……』って言ったらすぐにくれるから、そこは優しい(笑)」(50代父・会社員)
同男性はさらに、世の議論に逆説的な持論を唱える。
「俺らの世代ではね、『俺が養うからついてきてくれ』『ちゃんと俺が外で稼ぐから、お前は家を守ってくれ』みたいな、男気っていうかカッコつけでもあるのよ(笑)」(同)
結局、3ヶ所で計100人に取材した結果、お小遣い制に「賛成」は36人、「反対」は64人という結果だった。既婚者は51人中32人がお小遣い制で、最も多かった金額は3万円。
取材の際、“肌感覚”で世の夫婦の何割ほどがお小遣い制を導入していると感じるかについても尋ねたが、ほとんどの人が「6~7割」と答え、まさにその通りの割合となった。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班