
2024年度(1月~12月)に反響の大きかった衝撃写真記事ベスト5をお届けする。第4位は、不気味すぎるB級テーマパークの館長を直撃した記事だった(初公開日:2024年6月16日)。
「実家のような場所でありたい」
――「まぼろし博覧会」、噂どおりすさまじい場所でした!
鵜野義嗣(以下、同) ありがとうございます。どんなところが印象に残りましたか?
――「大仏殿」の巨大オブジェ群もスゴかったですが、館内は全体的にマネキンが多かった印象です。
そうですね。500体以上あります。
――500体!?
自分で購入したものや秘宝館から引き取ったものが多いですね。最近は一般の方から「家で保管しておくより、ここでたくさんの人に見てもらいたい」という理由で、骨董品や人形、故人の遺品など思い出の品を寄贈されることも増えています。
――それが昨年の元旦に完成した新エリア「昭和の宝物殿」ですね。
珍しい物よりもどこの家にもあるような物のほうが人気なんです。珍しい物は見て終わりだけど、みんなの思い出の品は自分の過去の思い出と重ね合わせながら眺められるので。
まぼろし博覧会全体が、誰もが疲れたときや何かに行き詰まったときに、いつでも帰ってこられる実家のような場所でありたいと思ってます。
――ラブドールなど、性に関するグッズも多い印象でした。
みんな誰かにバレたらまずいとか、捨てるところを人に見られたら恥ずかしいとかで処分に困ってるみたい。だからここにたくさん集まってきます。
ーーということは、匿名で物が送られてくることも?
ありますね。「ジェシカちゃん」というラブドールは、歌舞伎町の飲食店の前に飾ってあった物らしいけど、お店がなくなって引き取り手がなかったところ、ここを知ったその飲食店のお客さんが持ってきたものです。
朝5時にここへ来たら入口に軽自動車が停まっていて、車から出てきた知らない男性が「これをもらってくれますか」と。
――そんなものまで引き受けてしまうとは……。その他に変わった引き取り方は?
東京藝術大学の学生が学園祭で作った神輿を毎年寄贈してくれるんです。学園祭が終わると、16~40名くらいの学生が搬入や組み立てをしに来てくれます。他にも全国の学生から置き場所がない卒業制作などが寄贈されますね。
ーーまさにみんなと一緒に作り上げるテーマパークですね。そもそも、なぜ伊東市にまぼろし博覧会をつくろうと思ったのですか?
東京で出版社をやっていたので、東京から日帰りで行ける場所を選びました。
鵜野氏が手掛けたテーマパーク事業の歴史
――社長を務めている出版社ではどのような本をつくっているのですか?
データハウスという社名で、当初は「思想ではなくて、データを世に出そう」という思いで本をつくってました。最初の頃は『田中角栄 最新データ集』といったデータ本だったり、犯罪の方法が解説された『悪の手引書』という本だったり、とにかく素人ががむしゃらにつくったって感じのものですね。
その後、40万部も売れた『洋子へ 長門裕之の愛の落書集』といったタレント本や業界の暴露本、漫画やアニメの研究本なんかもシリーズで出しました。90年代中期くらいからは青山正明という編集者の企画からアウトローカルチャーをテーマにした『危ない1号』という本も出しました。
――“鬼畜系ブーム”を生み出したといわれるムック本ですね。そういった売上が「まぼろし博覧会」の運営資金に?
いえいえ。銀行で借りたお金をぼちぼち返しながらなんとか続いています。私はそもそもビジネスに興味がないんです。お金を儲けたって何に使うの?って話だから。やりたいことのためにお金はほしいけど、別に個人でお金なんていらないし、貯めるつもりもありません。
――出版社社長がテーマパーク事業を手掛けるようになった経緯を教えてください。
1996年に『野生ネコの百科』というトラからヤマネコまで、全38種の野生ネコ科動物を完全網羅した図鑑を作ったら2万部も売れたんですよ。でも図鑑は写真と文字じゃないですか。だったら現物の標本も集めてようと思って、「ねこの博物館」をオープンしました。
――同じ伊東市にある「ねこの博物館」は現在も営業中で、「まぼろし博覧会」とセットで訪れる観光客も多いそうですね。
次に思いつきで「ねこの博物館」の近くに「ペンギン博物館」をつくりましたが、人が来なくて5年で閉館してしまいました。
その後、熱海にいろいろなおもしろい文化を集めた「熱海博物館村・ふしぎな町一丁目」というテーマパークをつくりました。あの村上春樹さんも取材に来たんですよ。
――それはスゴイ……!
こちらも2003年に閉館しますが、展示物の一部を「ペンギン博物館」の跡地に新しく開いたレトロテーマパーク「怪しい少年少女博物館」に移したんです。これが「まぼろし博覧会」の元になります。
でも「怪しい少年少女博物館」は狭くて展示物がいっぱいになったので、新たな土地を購入し、2011年に「まぼろし博覧会」をオープンしたというわけです。
コスプレ衣装は200着以上
――しかし、「まぼろし博覧会」は甲子園球場のグランド面積並の広大な敷地。どうやって手に入れたんですか?
ここは「伊豆グリーンパーク」という熱帯植物園の跡地なんですが、閉館後、約10年間もそのまま放置されて廃墟となってました。
――ずいぶんと長い交渉期間ですね。
土地の所有者は植物園を閉園後、沖縄の石垣島で事業をしていたんです。その方はものすごくお金持ちだから、そういった交渉には興味がないし、売るのも面倒くさかったんでしょうね。だから、不動産屋さんと一緒に石垣島まで2回行って交渉したんです。
――そうして手に入れた趣味全開の楽園。館内の雑草や展示物についている埃や汚れがそのままにされているのも雰囲気があります。
あえてですね。掃除をする意味はないと思っています。朽ちるものは朽ちていけばいい。その過程もお客さんに見てもらってます。
――そのまぼろし博覧会のメインキャラクターを務める「セーラちゃん」こと鵜野館長。
かしこまった格好でお客さんを出迎えても、仲よくなれないでしょう。だから来園者を楽しませるためにセーラー服を着て案内してたら、Twitterで「セーラちゃん」と名付けられて(笑)。衣装は200着以上あるかな。ビキニとかも着ますよ。お客さんが着られなくなったからって譲ってくれるんです。
6月はジューンブライドということで、週末はウェディングドレスを着て園内を回ってますので、見つけたらお姫様抱っこしてください!
あ、そういえば、ここで結婚式を行ったカップルが2組もいましたね。
※
来園者からこんなに愛されるテーマパークもなかなかないだろう。少々変わった愛かもしれないが。舞浜の某テーマパークも6月6日に新エリアがオープンして話題を呼んでいるが、こちらも6月9日に新たに「赤ちゃんのメルヘン館」が完成。今後もまぼろし博覧会の進化から目が離せない。
取材・文・撮影/集英社オンライン編集部ニュース班