
キン肉マン原作45周年、アニメ化40周年を記念した『愛と絆の原画展』が、2024年8月「池袋サンシャイン」で、11月には「心斎橋オーパ」で開催された。『キン肉マン』最新87巻の発売を1月4日に控えたこのタイミングで、会場で販売された「公式図録」より、業界イチのキン肉マン好きで知られる事件記者が執筆した「もしも週刊誌事件記者がキン肉マンの原稿を書いたら…」 を公開する。
アタル王兄がもっと早く名乗り出てきてくれたら…
キン肉星王位争奪サバイバル・マッチは、キン肉マンことキン肉スグルが第58代キン肉星大王の座に就く最良のフィナーレを迎えた。顧みて、この戦乱最大の〝副産物〟は、キン肉王家の嫡男・キン肉アタル(新キン肉マンソルジャー)を超人界の表舞台に引っ張り出したことだろう。
しかしながら、ある辛口王室ウオッチャーは、敢えて禁断のツッコミを入れる。
「身もフタもないことを言いますが、第一王子だったアタル王兄がもっと早く名乗り出てきて、揉めずに王位を継承できなかったものでしょうか」
現に、団体戦の王位継承サバイバル・マッチで次々と犠牲者、再起不能者が出る中、当時の小百合王妃が、たまらずこう言って崩れ落ちた場面がある。
「ああ…あの子が、アタルがいてくれたら。このサバイバル・マッチも行われずにすんだのに‼」(当時のVTRより)
アタルはなぜ、王位継承戦が始まるまで、キン肉王家から姿を消していたのか。そしてご意見番や王妃が言うように、アタルが王位を継ぐ道はなかったのか――。真相に迫る前に、ひとまず、伏せられてきた王家親子の相克から詳らかにしていく必要がある
徹底した大王教育を受け続けたアタルは…
当代大王のスグルが誕生する10年前。アタルは真弓大王と小百合王妃の長男として生を享けた。次期大王が約束された待望のプリンス。両親は、アタルが幼い頃から徹底した大王教育を施していく。
王家の世話係だった元侍女が振り返る。
「アタル王子は、次期大王に相応しく、文武に素晴らしい才能を持っておられました。学業面は、小百合王妃が自らアタル王子の勉強机の横に立ってお見守りし、格闘技や体の鍛錬の方は、超人オリンピックで優勝を果たした実績のある真弓大王が、つきっきりでご指導なさっていました」
結果、アタルの頭脳と肉体は、驚異的なスピードで成長を遂げる。
一方で、アタルの精神は実年齢に応じた少年のままだったのだろう。
「幼少期から、スキのない大王教育が年間365日、休みなく何年も続きました。アタル王子が城の窓から、同年代の子供たちが外で遊んでいる姿を羨ましそうに眺めておられたことは、一度や二度ではありません。大王教育が全てに優先されており、アタル王子は遊ぶことも禁じられていましたから。キン肉星繁栄のためとはいえ、今思えば、スパルタ教育が過ぎたのかもしれません……」(同前)
ハイスクール入学後、長らく溜め込んできたアタルのストレスは、ついに臨界点を超えてしまう。押さえつけられてきた反動のように、不良仲間とつるむようになり、毎日遊び惚けるようになったのだ。
不良仲間だった一人が紫煙をくゆらせながら取材に応じた。
「アタルは、物心がついた頃から、やれ勉強だ格闘技だと、遊ぶことさえ許されない生活を強いられてきたって、よく愚痴っていたよ。超早熟だから、見た目はオレらと変わらなかったんだけどさ、実際はまだ小学生の年齢だったんだよな。強がってはいたけど、いずれ王にならなきゃいけないプレッシャーに圧し潰されそうになってて、王族ってのは大変なんだなと同情したよ」
「もうオレはいやだ、出てってやる‼」
やがて小百合王妃が第二子――、のちのスグルを懐妊。
当時を知る元侍従が声を潜める。
「スグル王子が4月生まれですから、その数カ月前だったか、とにかく冬のある日のことです。外ではボタ雪が音もなく降っていました。その日も、不良仲間と遊び回っていることを真弓大王から注意されたアタル王子は『うるせーっ、クソ親父‼』と暴言を吐き、荒れに荒れたんです。
マッスルガム宮殿内に飾られた絵画や壷を、バットで片っ端から叩き割って、城の中は滅茶苦茶になりました。こともあろうに、真弓大王も殴打され、頭にいくつもタンコブを作っておられました」
以下、王室関係者の証言をもとに、修羅場のやりとりを再現する。
「お前は仮にもキン肉星の王子! ワシの後を継いでキン肉星の大王になるべき超人なんじゃぞ!」(真弓大王)
「ケッ!こんなキン肉星の大王家に生まれたばかりに、大王教育に明け暮れる毎日。もうオレはいやだ、出てってやる‼」(アタル)
「アタル! 長男のあなたがいなくなっては何億年も続いたこのキン肉星王家はどうなるのですか? 大王は誰が継ぐのですか⁉」(小百合王妃)
「今度生まれてくる赤ん坊に継がせればいいだろう! 大王教育をほどこして立派な大王にすればいいんだ‼」(アタル)
最後にそう吐き捨てたアタルは、門扉をぶち破って城を飛び出したのである。その時に左上腕部を負傷。アタルが駆け出していった夜道には、真白な雪の上に、点々と赤い血痕だけが残った。
「以来、アタル王子は行方不明となり、城に戻ってくることはありませんでした。出ていった真相は、ごく一部の側近しか知らず、当初は病死扱い、やがてアタル王子の存在もキン肉族の歴史から抹消されたんです。その後に誕生したスグル王子も、兄の存在を知らされず、一人っ子として育てられることになりました」(同前)
そして、出奔から四半世紀が経とうとしていた頃。アタルはキン肉マン ソルジャーのマスクをかぶり、表舞台に姿を現すことになる。
(後編に続く)
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
落下豆男