
2023年に全国No.1風俗嬢に輝いた、まりてんさん。新規予約は早くて3~4か月後と多忙を極める彼女の一日とはどんなものだろうか。
後編では、3人の顧客との接客が終わり、仕事後のラーメン屋に同行して彼女の「風俗嬢引退宣言」の真意について深掘った。〈前後編の後編〉
京都から来てくれた男性客を追って……
全国No.1風俗嬢・まりてんさんの1日に密着取材も、後半戦を迎えようとしていた。17時にお客さんが待つ歌舞伎町のラブホテルに入っていった、まりてんさん。終了時刻の19時半にラブホテルの前で待っていると、お客さんと2人でホテルから出てきた。
プレイを終えたばかりのお客さんにインタビュー依頼をすると、新宿駅まで歩きながらという条件付きで快諾してくれた。今から新幹線で京都に帰らなければならないということだった。
インタビューを快諾してくれたのは、京都で教育関係の仕事に就いているKさん(40代)だ。
※
──まりてんさんのことは、いつ知ったんですか?
K(以下同) 2年くらい前に、YouTubeで知りました。
──まりてんさんのどこを魅力に思いますか?
まりてんさん、仕事にすごくストイックでしょう? そういうところ、すごく尊敬しますわぁ。あと、一緒にいて楽しいね。エッチなことはおまけみたいなもんで、コミュニケーション目的で会いに来てます。
──今日は2人でどんな話をしましたか?
お互いの人生の話をしてました。僕は昔、ちょっと無理しながら仕事をして大きな病気になって、長期的に仕事を休業したことがあったんです。
あとは、バカな笑い話とかして。まりてんさん笑ってくれて。
──笑い話とは、どんな話でしょうか?
新幹線に乗る前に京都駅のキオスクでご飯買ったんやけど。支払いのQRコードの位置がわからんくて。「どこですか?」ってレジのおばちゃんに聞いたら「ここやぁっ!」言われて。「そんな怒らんといてやぁ」て言うたら、「怒ってないわぁっ!」て怒鳴られて。「もう最近は支払いがややこしくてようわからんなぁ」って盛り上がった話をしました(笑)。
── (笑)。 ちなみに、そういった人生の話や笑い話はプレイの前にするんですか?
後ですね。
──つまり、今のは全部ピロートークでの話だったんですね。
そやね。
──まりてんさんに会うためだけに京都から来るなんて、すごい行動力ですね。
さっきも話したけど、僕は1回大きな病気を経験してて。それからはもう、いつ死んでもいいと思いながら生きてるんですわ。だから、遠くにいても会いたい人には会いに行くって決めとるんです。
※
教育関係の仕事柄か、Kさんは突然の取材者の私に対しても別れ際に深くお辞儀をしてくれた。新宿駅前の雑踏の中に消えてゆく、そんなKさんの背中を見送った。
帰宅中、突如「もしもーしっ! 久しぶり! 元気してる?」
喫茶店で待機し、23時過ぎに全ての接客が終わったまりてんさんとラブホテル街で合流した。
「お腹空いたのでラーメン食べてから帰るんですけど、来ます?」(まりてんさん、以下同)
まりてんさんから誘って頂けたので、ラブホテル前に待機していたデリバリーヘルス店の送迎車に乗り、ラーメン屋まで同行させてもらうことにした。
送迎車に乗ると、まりてんさんがスマホを取り出した。「動画の切り抜き、(再生数が)伸びたんですよ」と、昼間に投稿したポストを見せてくれた。インプレッション数は100万を越えていた。それから、さっきまで会っていたお客さんから届いていたLINEに返事をしながら、インタビューに答えてくれた。
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──今日はどんな1日でしたか?
すごく楽しい1日でした!
──どんな瞬間に楽しいと思うんですか?
お客さんとホテルで一緒に時間を過ごして、最後の別れ際に「あっ、この人はまた会いに来てくれるだろうな」って思えたときがいつも嬉しいですね。
──今日はそう思えた日だったと?
そうですね。あっ、ちょっと電話かけてもいいですか?
※
電話の理由を聞くと、最近連絡も取ってなく、もしかしたらもう会ってくれないかもしれないお客さんに電話をかけるということだった。これも移動中にいつもやることの1つだそうだ。
「もしもーしっ! 久しぶり! 元気してる?」
仲のよい旧友に電話をかけるような軽やかさで、電話をしはじめた。まりてんさんが手にしているスマホのスピーカーから、「え? いま着信の表示を見て何かの間違いだと思ってたんだけど。えっ? なんでいきなり電話してきたの!?」という男性の驚いた声が、微かに聞こえてきた。
時間にしておよそ10分弱だろうか。まりてんさんは電話ごしの男性と、百貨店で買い物をしてからホテルにいく予約を取り付けていた。
「あっ、ごめん。今帰りの車の中で。もう着きそうだから切るね! またねっー!」
ラーメン屋の前に止まると、まりてんさんは電話を切った。
移動中も一切休むことのない姿に戦々恐々としながら、ラーメン屋へ入ることにした。
突然の引退宣言、そのワケ
席に着くと、まりてんさんが「酸辣湯麺」と「空芯菜炒め」を頼むというので、同じものを頂くことにした。
※
──まりてんさんは、酸っぱいものがお好きなんですか?
そうですね。酸辣湯麺とか、トマ玉ラーメンとか好きですね。仕事終わりの疲れてるとき、酸っぱいものって体に染みますよね。
──今日は1日お疲れ様でした。とてもストイックなことが伝わってきました。いつまでこの調子で走り続けるのでしょうか?
実は、今年の6月に風俗嬢として働くことは引退しようと決めてるんです。
──え、どうして引退を……?
もう34歳という年齢もあって、体力的にきついなぁというのが一番の理由ですね。風俗嬢の仕事って、アスリート的なところがあると思うんです。年齢を重ねるにつれて、接客のクオリティが保てなくなっているというのが正直なところですね。
──接客のクオリティが以前よりも下がっていると。
そうですね。30歳を越えた辺りから、だんだんと自分が精神的に健康になってきて、昔ほど他人を巻き込んで引っ張ってゆく力がなくなってると痛感してます。
──精神の不健康さが、接客のクオリティに繋がっていたのですか?
精神的に不健康であることが、爆発的な力を生むことってあるじゃないですか? 昔は「自分よりお客さんの心に踏み込んでいける人なんていなくない?」と本気で思っていました。でも、最近はそうは思えてこなくなりました。
──その考えは、どう変化してきましたか?
昔は、自分の居場所がほしくて自分のためにやってきたことを「これはお客さんのためだ」と本気で勘違いできていたのですが、最近は、自分のために生きることも大切だという気持ちが強くなってきて……。
──どんなときにそう思いますか?
例えば、こうして誰かとご飯を食べるとき、自分が好きな食べ物を選ぶということが苦手でした。最近は、自分の好き嫌いを優先して伝えることができるようになってきました。
──それはとてもよいことな気がしますが。
自分のことを大切に思うこと自体はいいことだと思うけど、そうすると対人関係のスピード感はどうしても落ちるし、自分がつまらない人間になってきてるなとも思いますね。
──不健康であったとしても、また爆発的な力が欲しいと思いますか?
精神的に不健康であることは再現しようとしてできることではないから、目指しようがないですね。もうあの頃に戻れないことは、ちょっと寂しいなと思いますけど。
──本人がそう思ってるとはいえ、まりてんさんが引退することを寂しく思うお客さんは多いと思います。
うーん。それはもう大丈夫だと思ってます。だって、私のお客さんは私がいなくなったとしても、ちゃんと自分で生きていけるからね。
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取材・文・撮影/山下素童
〈プロフィール〉
まりてん
1990年愛知県生まれ。妹が亡くなった影響で母親が新興宗教に入信したことで、娯楽や交際が制約されていた、いわゆる「宗教2世」。2009年、美術大学のデザイン学部へ進学。大学4年生の冬にデリバリー・ヘルス店に入店し、3ヵ月キャストとして勤める。2013年、美術大学を卒業し、広告制作会社にWEBデザイナーとして就職。3年半で退社。2016年、25歳の時に激戦区東京・池袋にて風俗店を立ち上げる。池袋西口ホテル街を中心にデリバリー・ヘルスを運営。2019年3月、経営のストレスから自殺未遂。休養後に大手事業会社に中途社員として就職し、WEBプランナーを務める。2020年より風俗嬢に復帰し、傍らYouTubeチャンネル『ホンクレch‐本指になってくれますか?‐』を開設。現在登録者23万人突破。
『聖と性 私のほんとうの話』
まりてん