「そもそもコメはこれまで安すぎた。肥料にガソリンに機材も値上がりで赤字続きだよ」それでも日本のおいしいコメを作り続ける農家の嘆き「15万トンの放出米なんて1ヶ月ももたないね」
「そもそもコメはこれまで安すぎた。肥料にガソリンに機材も値上がりで赤字続きだよ」それでも日本のおいしいコメを作り続ける農家の嘆き「15万トンの放出米なんて1ヶ月ももたないね」

「令和の米騒動」とも言われるコメの異常高値が続き、政府は備蓄米21万トン(初回15万トン、状況をみて追加)の放出を決定。江藤拓農林水産大臣は2月18日の閣議後記者会見で「大手スーパーに卸売業者からコメの売却を打診する動きがある」などと「流通の活性化」を強調した。

しかし、後手後手に回ってきた政府のこの窮余の一策は本当にカンフル剤として機能するのか。前編に引き続き、千葉県いすみ市の「株式会社新田野ファーム」代表取締役・藤平正一さんら、コメ農家の現場の声を届ける。

「そもそも、これまでが安すぎだったって感覚が農家としてはある」

備蓄米が放出されればコメの値段は安くなるのかという疑問について、藤平さんはこう言い切る。

「農水省がまず初回は15万トン出すって言ってるけど、あれを全部市場に流したって1ヵ月持たないよ。だから1ヶ月後にコメがなくなればまた同じことだよ。仮に放出した直後にいったん少し価格が下がったとしても、すぐに戻ると思う。現に農水省の放出宣言を受けてから転売ヤーの中国人は『さらに60キロあたり2000円上乗せして買う』って言ってきてるくらいだから。

備蓄米が放出されてもすぐになくなって逆に値段が上がると踏んでるから、さらに高くても仕入れようとしてるんだろうね。15万トンじゃみんなにコメはいきわたらない。少なくともその程度の量の備蓄米の放出でコメの値段が下がり続けるというのはないと思うよ。今後も現状価格かそれより上を推移すると思う」

現場のコメ農家からすると、「令和のコメ騒動」以前の価格がそもそも適正とは言い難かったという。

「そもそも『これまでが安すぎだった』って感覚が農家としてはあるから、今ぐらいの金額で推移してくれないと潰れちまう。俺は25年間コメ専業でやってるけど、その25年間で1億円以上のマイナスだよ。

銀行に借入してどうにかして、赤字でもやめずにやってる。ここで始めた頃から周囲には『コメ農家なんてすぐに潰れる』って言われて、それで意地で潰さずやり続けた。子どもたちには『いい加減にやめてくれ』って言われてるよ。続けるだけ借金が増えるんだから。

そのうえ2000円だった肥料がここ数年で5300円にまで値上がってるし、ガソリン代の値上がりもすごい。コンバインだって1600万円が2000万円くらいになってる。それが一生使えるわけじゃなくて7年とかで入れ替えるわけだからさ」

「どうしてもお米が欲しいから売ってくれないか」と訪ねて来たが…

物価の高騰は一般消費者だけでなく、当然のように第一次産業の従事者をも痛めつけてきた。藤平さんが続ける。

「お金かかるんだよ、コメ農家は。例えばベトナムのような環境では年に3期作でコメを作るから量は取れる。でも、土地が痩せて質が落ちていく。反対に日本は1年に一回生産だから量産はできないけど、土地を痩せさせないから、当然おいしい。ベトナムでも今は種もみは日本のを使ってるから見た目はそんなに変わらないけどね。

そんなこともあって、しばらくコメの高騰問題は解決しないと思うよ。値段がどこまでも上がり続けることはないと思うけど、備蓄米の効果で安くなって以前の価格に落ち着くことはないと思う。さっきも言ったけど、25年間続けてマイナスばっかりだった。今年はようやく少し利益が出てくれそうだな、という感じなんだよ」

降ってわいた“コメバブル”でひと息ついた農家もあれば、恩恵にあずかれない人たちもいる。千葉県内の別のコメ農家の男性は、取材にこう答えた。

「ウチもJAには出してなくて直販売でやってるけど、コメの価格が高騰したといっても今のところ何の恩恵もないよ。ウチは基本的に予約分をさばいたらコメの在庫がなくなるからね。

たしかに昨年、『令和のコメ騒動』って騒がれて以降は、まとまったコメがあるかどうかの問い合わせや、外国、特に中国の方が『どうしてもお米が欲しいから売ってくれないか』と訪ねて来たことはありましたが、ないものは売れないですからね。今年に関しては予約の段階で、買うコメの量を増やしたいという申し入れが多く、私も少しだけ値上げさせてもらいました。いや、ほんと少しだけの値上げですから」

「レンジでチンするご飯の業者もフル稼働状態だって…」

備蓄米の放出の効果については、疑問符がつくと首を傾げる。

「初回に15万トンの放出ということですが、それではほとんど値下がり効果はないと思いますよ。少なくともその倍の30万トンとか一度に放出しないと、そもそも全国にコメが回ってもいかないでしょうね。

しかも10万トン分を令和6年産米、5万トン分を令和5年産米とするという方針もよくわからない。単にバランスをとってそうしたのか、もしくは本当は100万トンも備蓄していないから、そんな小出しにするんじゃないかって疑われても仕方ないでしょう。いずれにしてもここまで対策が遅れては、価格が落ちたとしても一瞬だと思いますよ。

根本的なことを言えば、今コメ農家は減る一方なので、収穫量が減っていくならこういった買い占められるタイミングは今後も来ると思いますし。転売ヤーや企業がコメを買うのは違法でもなんでもないから止めることもできないですよね。それにコメを使わなきゃ成り立たないところや企業も必死に確保に走るわけですから。

今は『サトウのごはん』みたいなレンジでチンするご飯の業者もフル稼働状態だってボヤいていましたよ。おそらくものすごく売れてるんでしょう。備蓄米の放出が随時行なわれるわけじゃなければいずれコメは枯渇すると踏んで、今度はレンジのチンのご飯を転売ヤーたちが買い始めてるんじゃないですかね……。正直すごい事態だと思います」

パンがなければケーキを食べればいいじゃない。お米がなければお餅を食べればいいじゃない。けれど、わが国の「指導者」たちならこんなことを言い出しても不思議はなさそうだ。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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