
2024年秋に行われた「青少年の性行動全国調査」によると、高校生のデートやキス、性交の経験率が前回調査の2017年より大幅に減少したことがわかった。この結果を「若者の恋愛離れ」と煽るマスコミに対し、「彼らの恋愛傾向を、昨今の婚姻数減少と結びつけるのは、おかしい!」と指摘したのは、独身研究家の荒川和久さんだ。
異常だった2005年の性交経験率
1974年から約6年間隔で行なわれてきた「青少年の性行動全国調査」。
2024年秋に全国の中高大生約1万3000人を対象に行なわれた第9回の調査結果では、高校生のデートやキス、性交の経験率が前回調査(2017年)と比べて、大きく下がる結果となった。
キスに関しては男子高校生は22・8%(前回比11・1ポイント減)、女子高校生は27・5%(同13・6ポイント減)と、男子に関しては、調査を開始した1974年以来、過去最低の数字となった。
性交経験では、男子高校生が12%(3・5ポイント減)、女子高校生が14・8%(5・3ポイント減)で、男女共にピーク時の2005年と比べると、いずれも半分以下に下落した。
性的関心がないというわけではない。自慰経験に関しては、男子高校生が86・5%(7・4ポイント増)、女子高校生が26・5%(7.6ポイント増)と、調査開始以来の最高値を記録した。
この結果を受け、「若者の恋愛離れ加速」と報道するマスコミに、疑問を呈するのが独身研究家の荒川和久さんだ。
「数値をよく見ると、ピーク時の2005年からは下がっていますが、1980年代や1990年代初頭と同程度の水準です。むしろ2005年時は援助交際などの問題が騒がれ、当時のマスコミや有識者は『最近の若者の性の乱れはけしからん』と眉をひそめていました。むしろ2005年が異常で、今は1980年代ころの水準に落ち着いたという見方ができます」(荒川さん、以下同)
2005年の調査結果では、性交経験率に関して男子高校生が26.8%、女子高校生が30.3%と、いずれも過去最高値を記録した。
「数値が低かろうと高かろうと、お説教をするわけですが、婚姻数減少や少子化などの問題を何でも若者の価値観のせいにするのはいかがなものかと感じます。
むしろ着目すべきは、1980年代と現代で、恋愛経験がほぼ同程度の割合なのに、なぜこれほど婚姻数に差があるのか、ということです」
恋愛強者3割の法則とは
SNSの普及など若者を取り巻く環境は大きく異なる1980年代と現代。それでも恋愛経験率は同程度であるのに、婚姻数にここまで差が生まれているのはなぜなのか。
荒川さんはその疑問に答えるべく「恋愛強者3割の法則」を提示してきた。一体どんな法則なのか。詳しく聞いてみたところ、こんな説明をしてくれた。
「いつの時代でも恋愛を謳歌できる“恋愛強者”は男女とも3割程度。その下に恋愛経験がある中間層の4割と、経験がいっさいない弱者3割で割合構造になっています。これは高校生に限った話ではなく、大学生でも社会人でも時代関係なく比率は一緒です」
では1980年代は現代と違ってなぜ多くの人が結婚していたのだろうか。
「結論からいうと、別に結婚に恋愛力なんて関係ないんです。
1980年代はお見合いも多少残っていましたが、大多数が職場結婚でした。ずっと独身の部下がいたら上司がその相手を探すような時代。今は職場で異性の相手を飲みに誘うだけでリスクになるような時代ですが、1980年代はそうした“余計なお世話”や“お節介”で結婚というのは作られていったんです」
“自力婚”か“お膳立て婚”か
自然恋愛から結婚する“自力婚”とは対照的に、上司や親などのお節介などから生まれる“お膳立て婚”。昨今の婚姻数の減少は、この“お膳立て婚”の減少が大きな要因だと荒川さんは指摘する。
「“自力婚”は合コンや友人の紹介、バイト先や旅先、ナンパから派生した恋愛結婚を指します。
正直、恋愛に能動的か受動的かの違いともみえますが、恋愛強者3割は“自力婚”できますが、自力では無理な7割が“お膳立て婚”の減少で結婚できなくなったんです」
しかし、近年は気軽にパートナーを探す「マッチングアプリ」の登場も後押しし、アプリ婚する人も増えているが、荒川さんは意外にも警鐘を鳴らす。
「マッチングアプリは恋愛強者がずーっとモテ続けるという現象が起きやすく、結果的に強者がいつまでも結婚しなくなるツールと化しています。強者がアプリで幅を利かせ、無双し続ける限り、中間層や弱者が上位層に食い込むことは難しいでしょう」
しかし、アプリがなかった1980年代は、強者が弱者のキューピットになることもあったという。
「アプリのない時代は、強者の主戦場は合コンでした。強者は合コンでモテたくてしょうがないから、自分が目立つようにメンバーの中に中間層や弱者を入れたりしてたんです。でも案外そうやって集められた弱者同士が意気投合して結婚したりする展開もよくあったんですよ」
本人の意思や価値観の問題ではなく、もはや社会の構造として婚姻数が減少する状態になっていることが危惧される現代日本。果たしてこの現状に対する突破口はあるのだろうか。
「講演会でもよく『強者ではない7割の僕ら(私たち)はどうしたらいいんですか⁈』と質問されるんですが、そういう方には『とにかくモテる奴を早く結婚させること』とアドバイスしてます。そうしたら、自分が中間層の上位にいる場合、相対的な価値があがって強者に食い込めるかもしれないじゃないですか(笑)」
果たしてこの理論は、日本の婚姻数上昇の強力な一手となるのだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部