
タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出された「こんまり(KonMari)」こと、片づけコンサルタントの近藤麻理恵さん。彼女を世界に押し上げた仕掛け人が、プロデューサーの川原卓巳さん。
モノを捨てると意識が一変する
なぜそれがあなたの理想の生活なのか。明確になったら片づけをはじめます。本当にときめくモノを残し、それ以外は捨てていく。
目指すのは「一気に、短期に、完璧に」です。今回取り組む、この片づけとはハレの日の特別な〝祭り〟のようなもの。めったにない貴重なイベントだととらえてください。
人生をガラッと一変させる革命のようなものです。何度も言いますが、片づけはあなたのなかに余白をつくる作業。片づけによってもう二度と戻らない理想の自分になる。そのための片づけです。
だから段階的にやるのではなく、とにかくスピーディーに終わらせるのがおすすめです。
片づけを一気にやってしまうと、結局リバウンドしてしまう。やり切った反動ですぐにまた部屋にモノがあふれてしまう。だから少しずつ片づけの習慣を身につけていくのがいい。──そんな考えが世のなかではさながら「定説」のようになっています。
無理なダイエットをしても体重はすぐ元に戻ってしまう。片づけもそれと一緒でしょ?という発想です。でも本当にそうなのでしょうか。
その定説を覆したのが麻理恵さんです。
彼女は小学生のころから、お母さんが定期購読していた主婦向けの生活情報誌を読みあさっていました。そしてその雑誌から得た生活の知恵を実践してみるという「遊び」に明け暮れていたそうです。
使っていない電化製品のコードを手あたりしだい抜く「節電ゲーム」、お風呂や水栓トイレのタンクにペットボトルを入れる「節水ごっこ」といった具合です。
そんな彼女がいちばん熱をあげていたのが「整理整頓」でした。
整理や収納にまつわる特集記事を見ては、牛乳パックやビデオテープの空き箱などでこしらえた収納用具を家中に配置する。学校でも、暇があれば教室の本棚をきれいに整える。
掃除用具入れのなかをチェックしてもっと効率のいい収納法はないものかと腕組みをする。そんな徹底ぶりでした。幼くして整理整頓の鬼です。
でも一方でそうやって励めば励むほど、彼女は失望を味わいます。いくら片づけても、いつの間にか元の状態に戻ってしまう。それどころかリバウンドしてモノがかえって増えてしまう。
裁縫や料理の腕はどんどん上達するのに、片づけだけはそうはいきませんでした。何度やってもうまくいかない。片づけられた状態をキープできない。
生活情報誌の片づけ特集の記事を読むと「片づけはリバウンドするもの」ときまって書いてあります。そんなもんだよね、仕方ない。彼女もその「定説」をやむなく受け入れていました。
麻理恵さんの転機となったベストセラー本
そんな麻理恵さんが大きな転機を迎えたのは中学生のときです。当時ベストセラーとなっていた『「捨てる!」技術』(辰巳渚/宝島社新書/2000年刊)を読み、衝撃を受けたのです。
それまで彼女が見聞きしてきた片づけ法はどれも、いかに収納するかに重きが置かれていた。ところが『「捨てる!」技術』ではその書名どおり、収納うんぬんではなく、とにかく捨てることを高らかに推奨していたのです。
そこには「とりあえずとっておくは禁句」「〝いつか使うこと〟は絶対にない!」「後ろめたさのない捨て方」といった数々の指南が記されている。
モノを捨てないことを美徳としてきたこれまでの価値観は誤りであり、〝もったいない〟という発想こそ捨てよう。それがその本のコアメッセージでした。
そんな視点は彼女にとってまさに盲点そのもの。深く感銘した彼女は本を読み終えるやいなや、ゴミ袋を手に五畳半の自分の部屋にこもります。
着なくなった衣服。遊ばなくなった玩具。かつて集めていたシールや消しゴム。もう開くことはないだろう古い教科書。あれもこれもどんどん捨てていきました。そうして数時間後、気づくとその量は実にゴミ袋8袋以上になったそうです。
そこで彼女は2つの大きなショックを受けます。ひとつは、日々片づけをしていたはずなのにその実、不要なモノを山ほど溜め込んでいたという事実。
そしてもうひとつは、たかが数時間、「捨てる」作業を集中的にやっただけで、部屋の風景がガラリと変わったこと。床の余白が増え、漂う空気には軽さを感じ、自分の心のなかもすっきりしている。空間だけでなく、自分の意識まで一変していたのです。
片づけとは、単なる片づけではない──。
周囲に惑わされず、いかに自分の大切なモノだけを残していくか。いかに手際よく部屋のなかを一気に整理していくか。その手法とマインドを追求する日々がはじまったのです。
片づけは、人の意識や生活を劇的に変えます。一気に片づければ、結果は目に見えてあらわれる。すると、そのいい状態を維持しようという片づけの基本精神があなたに宿るのです。
リバウンドという「定説」は幻想にすぎません。一度その爽快感を味わったら、「二度と散らかさない」とみずから誓うことになります。片づけはいつかは散らかって元に戻るもの。リバウンドするもの。
文/川原卓巳 写真/shutterstock
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川原卓巳