タトゥー・刺青除去専門医が明かす患者の十人十色なワケアリ事情…「推し変したので消したい」「憎い人間を足裏に入れて毎日踏んだけど…」
タトゥー・刺青除去専門医が明かす患者の十人十色なワケアリ事情…「推し変したので消したい」「憎い人間を足裏に入れて毎日踏んだけど…」

いまやタトゥーないし刺青は、おしゃれでかっこいいアイテム、ファッションの一部として認識されつつある。だが、一度入れたならば、メイクのように簡単に消せるものではないことには変わりはない。

そして当然、後悔する人たちは一定数いる。そんなタトゥー除去に力を入れ、これまで20000件以上の施術実績を持つキルシェクリニック(東京・赤坂)のめかた啓介院長に、タトゥーを消したい人たちの傾向と、エピソードについてうかがった。(前後編の前編) 

刺青除去専門医「社会貢献の一環」

自身を「刺青除去専門医」と標榜し、YouTubeやTikTokでレーザー治療による施術の過程を紹介している、めかた院長。

医学部卒業後は麻酔科医・救命救急医としてキャリアをスタートし、その後、自由診療が主となる美容外科医・美容皮膚科医へ転向した。

「タトゥー除去治療は、美容外科医としての社会貢献の一環」と語る。

「厳密にいうと、『刺青除去専門医』という公式の資格は存在しないのですが、クリニックの方向性のひとつに、刺青除去があるので、『刺青、タトゥー除去専門』という意味も込めています。

一般的なクリニックは、しみ治療のためにピコレーザーというレーザー機器を導入します。でも今は美容外科業界は過当競争状態で、それだけでは儲からないから、ついでに…ということで『タトゥー除去』という看板を掲げたりします。

しみ治療ならまだしも、タトゥー除去は彫りの深さや色素の素材の違いがありますから、慣れていない医師には難しいです。

うちのクリニックの場合、むしろタトゥー除去のために、最新のピコレーザーを始め、各種のレーザー機器を導入しています。

タトゥー除去と同じ機器でしみ取りもでき、併せてしみ治療もします、という感じなので、他のクリニックさんとは根本的に違うんですね」(めかた院長、以下同)

以前の刺青除去といえば、皮膚移植や切除が主流だったが、現在はどうなのだろうか。

「うちのクリニックはレーザー治療がほとんどですが、まだ切除は行なうことがあります。とにかく早く消す必要がある方の場合、切除(切り取る)と削皮(削る)を選ばれることが多いです。

例えば職場でバレた、結婚が決まったのですぐに消さなくてはならない、などという理由です。

レーザー治療の場合、レーザーを色素に当てて粉砕し、人体の免疫システムや新陳代謝によって消えていく、という仕組みです。

1回の治療で消えるというケースはほぼなく、少なくとも5回から10回は必要。スピード感がないのがレーザーの弱みですが、切除よりは身体への負担も少なく、見た目の仕上がりがきれいというメリットがあります」

 コロナ禍で増えたタトゥー、収束を機に消したい人が増加

SNSでの配信の影響もあってか、ここ2、3年でクリニックを訪れる人が急増しているという。その理由をめかた院長はこう分析する。

「最近は、2020年以降に入れたタトゥーを消したいという方がとても多いんです。

やはり新型コロナ騒動が原因なんだと思います。人と会わなくなったから大丈夫だろうと考えて入れた人、人と会わなくなってメンタルを病んでしまい入れた人と、おおまかに理由が二分している印象です。

いずれにせよコロナ禍が収束して、これまでの日常が戻って、人と会う機会が増え、さあ困った…という方が多いですね。

それ以前は、10~20年前の若いころに入れたタトゥーを、子どもが生まれたので一緒にプールに行きたい、役職や地位が上がって付き合いでゴルフへ行く機会が増えたので消したい…、といった人が圧倒的に多かったものでした」

こうした傾向が示すようにタトゥーのカジュアル化は止まらない。しかし、後悔は先に立たないとめかた院長をいう。

「いらっしゃるのは男性6:女性4といった感じでしょうか。男性は背中一面とか、大きいもの。

女性はワンポイントが多いですね。

やはり人生の転機、結婚や出産、転職などをする際に『なんとかしたい…』と考えるようです。

近年はK-POPアイドルの影響が大きく、『真似して入れたけど…』という人は多いです。同様に、『“推し”の名前を入れたけど“推し変”したので消したい』と、治療に来た方もいましたね。

学生さんも結構来ます。就職活動中というより、就職が決まったから…とやってくる。治療はどうしても回数を重ねて時間がかかるので、『ちょっと遅いんじゃない?』と思うんですけど」

タトゥーを消したい理由も十人十色 

学生といえば、こんな人たちも。

「10代のころに入れてしまった自彫りを除去したいという人たちも来ます。中には現役の高校生もいます。だいだい、針に墨汁を付けてちょんちょんと入れているんですが、お店で入れる機械彫りみたいに一定の深さではないので、治療が大変なんですよね。

『恋人の名前を入れた』なんていうのもよくありますが、これはいろんな意味でおすすめしませんね」

名前を入れるデメリットを、めかた院長はこう解説する。

「離婚したんで、前のパートナーの名前を消してほしいと。

名字も入れたフルネームで入れていたんですけど、気分が悪いので下の名前だけでもとにかく早く消してほしい、と熱望されました。

ご結婚された際は1ミリも予想しなかったでしょうが、その後こういう可能性もあるわけですからね」

一方で、夫婦でいらした方もいるそうだ。その2人は結婚を期にお互いの名前を入れるもとある理由で除去を望んだという。

「子どもができて、このままだと家族でプールや温泉に行けないから消したいということでした。前向きな話ではあるのですけれども、このご夫婦は、当クリニックのモニター価格制度を利用しようとされました。

この制度では、タトゥーの画像をメディアに掲載可ということでモニター価格を適用させていただくのですが、ばっちり個人情報が出ているタトゥーの場合、公にさらすのはちょっと難しいですからね。

結局、泣く泣く通常価格をご選択されました。ということで、個人情報のタトゥーを入れるのは、考えたほうがいいかもしれません」

「頭から足の裏まで」タトゥー除去を経験しているめかた院長。こんな変わった治療にも向き合ったとか。

「薄毛隠しとして、アートメイクで頭頂部や生え際に色を入れる方がいます。かなり痛いそうです。

それを修正したいといらっしゃるんですが、除去の場合、入れるときの倍は痛いと思いますよ…。

また、足の裏に、人の名前を入れた方がいらしたんですよ。『ものすごく憎い人間だから、足の裏に入れて、毎日踏んでやる』という理由で入れたそうです。

でも結局、その人が常に自分に『付いている』という感覚になってしまい、消したくなったそうです」 

ちなみに、「足の裏は角質が厚いので、レーザーを当てても他の箇所よりは痛くない」とのこと。

タトゥーに対し、「否定も肯定もする気はなく、どう消すかしか考えていない」と明言するめかた院長。後編では、治療の実態についておうかがいする。

PROFILE●めかた啓介 1973年、東京生まれ。キルシェクリニック院長。美容外科医、美容皮膚科医、麻酔科専門医、麻酔科指導医。1999年、産業医科大学医学部卒業。麻酔科医・救命救急医として12年勤務後、美容外科医・美容皮膚科医として複数のクリニックグループにて院長を歴任。20000件以上手掛けているタトゥー除去治療のほか、脂肪吸引、麻酔施術にも定評がある。医師免許のほかに行政書士、測量士補、宅地建物取引士、FP、JAF国内A級ライセンスなど、さまざまな資格も所有する。

 

取材・文/木原みぎわ 

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