「タトゥーは入れるときより消すときのほうが痛い」刺青除去専門医が明かす除去の“本当の話”
「タトゥーは入れるときより消すときのほうが痛い」刺青除去専門医が明かす除去の“本当の話”

ワンポイントから背中一面まで、頭から足の裏まで、さまざまなタトゥーの除去治療に定評があり、これまで20000件以上の施術実績を持つキルシェクリニック(東京・赤坂)。同クリニックのめかた啓介院長は、その模様をほぼ毎日SNSで配信して、タトゥーを消したい人たちの駆け込み寺となっている。



「タトゥー除去治療は、美容外科医としての社会貢献の一環」と語るめかた院長。タトゥー除去の方法や、実態についてうかがった。(前後編の後編)
 

タトゥーを消すことで社会貢献

タトゥー除去を始めたきっかけは、美容外科医を始めた際の決意からだという。

「医学部卒業後、麻酔科医・救命救急医として12年勤務した後、非常勤で働いていたこともあり、美容外科医に転向。大手の美容外科クリニックに入職しました。

その際にいろいろ指導してくださった先生が、刺青除去の治療を率先してされていたんですね。これはいい治療だと思い、教わることにしました。

美容外科の業界では、今、『直美(初期研修を終えた後に直ぐ美容医療に進む医師)』の問題が取り沙汰されています。美容外科医って国のお金で医師になりながら、なにも社会に貢献していないって言われがちな存在じゃないですか。

私自身は長らく一般診療の医師としてやってきましたし、地域医療なども行なっていたので、ある程度の貢献はしてきたつもりではいるのですが、美容医療の世界に来たから医師としての社会貢献をやらなくていい、というわけではないと考えています。

そう考えると、タトゥーがあることで人生の再スタートを諦めてしまう人に希望を持ってもらうというのは、人を助けるという意味でも立派な社会貢献ではないかと思ったんです。

というわけで、一般のクリニックよりかなり抑えた価格で治療をしています」(めかた院長、以下同)

同クリニックで各種取り揃えた最新のレーザー機器は、1台約2000万円だという。

「クリニックの中に、フェラーリが何台もあるようなものです(笑)。

これらを、タトゥーの範囲や色素の種類、深さによって使い分けたりしています。

レーザー治療は、1回の時間は小さいもので1~2分、広範囲で1時間程度ですが、1か月に1回から2~3か月に1回のペースで、いずれにせよ5回から10回は必要です。

普通のクリニックの場合、ひとつのレーザー機器で施術を済ませるのですが、私の場合は機器を組み合わせて、きめ細やかに対応をしています」

きめ細やかに対応とは一体どのようなことをしているのか。

「例えば、いわゆる墨の場合と、カラフルな色素の場合、レーザーの波長や種類を使い分けたほうがいいです。

また、色素に含まれている成分によっても違います。和彫りの場合は『墨』が基本ですが、墨汁なのか、墨をすって作った液なのかで、粒子の大きさが違う。粒子の大きさの違いで破壊するレーザーの強弱を変えなくてはならない。

きれいな色味を出すために金属系の成分が入っていることがあったり、ペンキ由来の色素や、ヘナといった植物系の色素の場合もある。対応方法が実にさまざまです。

それだけでなく、タトゥーの彫り方や色素に地域性があるようです。ヨーロッパで入れたというタトゥーは、消すのがすごく大変なんですよ。でも、タイなどの東南アジアで入れたというものは、意外と消えやすかったりします」

 入れるときより取るときのほうが痛い

とはいえ、気になるのはやはり治療中の痛みだが……。

「はい、痛いですよ」と、めかた院長はきっぱり言い切る。

「レーザーがタトゥーの色素に反応し、発熱するため、やけど的な鋭い痛みが続きます。

大体の方が、『入れるときより取るときのほうが痛い』とおっしゃいます。また、入れるときはワクワク感でテンションも上がっているでしょうから、痛みもそこまで感じないのかもしれません。脱毛を経験されている方だと『脱毛の10倍以上痛い』と、みなさんおっしゃいますね。

一時期流行ったトライバル柄は、結構深くまで入れるので、痛いうえになかなか除去が終わりません。

同じく、入れて数か月しか経過していないといったタトゥーも、痛くて除去しづらいです。これは、墨が入ったばかりで、皮膚に安定していないからレーザーの反応も安定しないんですね。反対に、3年から5年くらいしたものなら、安定しているので比較的除去はしやすい。

加えて、ヨーロッパ系のタトゥーショップが比較的多く使用している、金属系の色素が使われているタトゥーの場合、レーザーに反応して余計熱くなりますから、激痛でしょう。痛みのあまり脂汗を流す方も多いですね。

もちろん、私が麻酔科医ということもあって、別料金で麻酔クリームなどの対応もできますが、それでも痛みはあります。全身麻酔もできなくはないのですが、治療は回数を重ねなくてはならないので、何回もとなると、身体にも金銭的にも負担がかかりますからおすすめはしません」

あまりの痛みに、ドロップアウトする人も結構いるという。

「2割くらいでしょうか。『家族に言われたから』といった、自分の意思でない方ほど、痛みに耐えられなくて途中で来なくなってしまうことが多いです」

そんななか、こんな強者もいたそうだ。

「背中一面の刺青への治療中、いびきをかいて寝ている方もいます。これは、上手な和彫りを施された方の反応なのですが。

和彫りの上手な彫師さんは、墨を深すぎず均等に入れられるんでしょうね。また、墨は金属ではないので、レーザーでそこまで熱を持ったりしない。レーザー自体のチクチクした痛みはあるのですが、背中はもともと痛みに対して鈍い部位でもあるので、たいして気にならないのでしょう」

消すことでプラスになってくれたら嬉しい

とはいえ、除去の過程に希望を見出していく人たちも多い。

「5回、6回と、治療を重ねた方が『この前、やっと温泉に行けたんですよ』なんて話してくださったり。

うちでは、治療が終わることを『卒業』と言っているんですが、『夏までには子どもとプールに行けるようにしたい』といった目標を持っていた方が、治療を終えて『卒業できました』と言ってくださったことがあります。少しは社会貢献できたかな、と」

以前より敷居が低くなったとはいえ、「タトゥーを入れている」ということは、日本の社会通念的にはまだ認められづらいのは事実だ。

道徳観をふりかざすわけではなく、「その人のその後の人生のために、どうきれいに消すか」が目的である、めかた院長の存在は大きい。

彼は「卒業」した人たちに、こんな言葉を送る。

「せっかく安くはない費用と痛みを乗り越えて手に入れた結果なので、それが少しでも人生のプラスになってくれたら嬉しいです」

(前編はこちらから)

PROFILE●めかた啓介 1973年、東京生まれ。キルシェクリニック院長。美容外科医、美容皮膚科医、麻酔科専門医、麻酔科指導医。1999年、産業医科大学医学部卒業。麻酔科医・救命救急医として12年勤務後、美容外科医・美容皮膚科医として複数のクリニックグループにて院長を歴任。20000件以上手掛けているタトゥー除去治療のほか、脂肪吸引、麻酔施術にも定評がある。医師免許のほかに行政書士、測量士補、宅地建物取引士、FP、JAF国内A級ライセンスなど、さまざまな資格も所有する。

取材・文/木原みぎわ 

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