
イチローや大谷翔平選手の活躍によって、日本におけるMLB(メジャーリーグ)の注目度は年々上昇している。関心の高まりに応じて議論されているのが収益格差だ。
書籍『黄金時代のつくり方』より一部を抜粋・再構成しNPBとMLBの違いをレポートする。
メジャーの解説をしていて思うこと
メジャーリーグの試合は、西武の監督を辞めて解説者としてNHKから声を掛けていただいた2008年から見るようになりました。
中日のコーチが終わって、ありがたいことに、また2022年からはNHKでMLB中継を担当しています。桁違いのプレーヤー大谷翔平のおかげで、MLB中継への関心は高まる一方です。
MLB中継は、深夜から早朝にかけて、2時半とかから放送開始したりするので、なかなかハードですが、楽しみにされている方も多いので、やりがいはあります。
本記事では、MLBとNPBを見ていて思うことを述べていこうと思います。
よく1990年代後半から現在までの間で、MLBとNPBの収益格差が広がったという話題が出ます。
実際のところは野球だけの話ではなく、経済全般の格差が広がったというのが背景にあるのだと思います。給料も、物価も、日米ではずいぶんと差がついてしまったようです。
ただ、プロ野球というビジネスに限っても、やはりMLBと日本のNPBとではいろいろと違いがありました。
ひとつは国際化です。WBCという国際大会が象徴的ですよね。
実際、MLBの各チームは、ドミニカ、ベネズエラ、メキシコといった中南米勢と日本人選手がチームの主軸にいます。だから、WBCでも力量差はそれほど大きくありません。大会は盛り上がり、各国の野球ファンはMLBで活躍する選手たちに注目もします。国際化による市場拡大策は見事に成功したと言えます。
メジャーのマイナーリーグには120球団もある
もうひとつ感じるのは、マイナー球団のあり方の違いです。これはむしろ近年の取り組みというより、アメリカにおけるプロ野球の伝統、その底力とでも言うべきものでしょうか。
日本の場合は、各球団が二軍(球団によっては三軍以下もあるようですが)を抱える形ですが、アメリカではマイナー球団を抱える「直営スタイル」はごく少数。
大半は、独立採算です。もっとも選手たちはMLB球団と契約をしているので、選手の給料はMLB球団から出ていますが、その他一切はマイナー各球団の努力によって運営されています。
それを支えているのが、ホームタウンの野球ファン。マイナーといえども、明日のメジャーリーガーを夢見て奮闘する選手たちを地元のファンが応援する姿があります。
MLBに所属するのは30球団。
日本の場合は、高校野球や大学・社会人野球が一部その役割を担っていますが、国際化という面では置き去りにされた感があります。
リーグ運営と球団間格差
それとMLBには収益力のある球団から、ない球団へと分配金を渡すルールがあります。かなり複雑な制度ですが、地域間の人口格差などによって「お金持ち球団」と「そうでない球団」が出てしまうのはしかたないことですが、リーグが間に入って不公平がないようにしています。
私の現役時代は、セ・リーグとパ・リーグとでは人気に非常に大きな差がある時期でした。西武ライオンズが黄金時代を築けたのも、不人気のため、お金をかけない、かけられない球団が多い中、西武が新たに参入してきて資本を投下したからというのは明らかにあったと思います。
2004年の球界再編騒動を経て、日本のプロ野球界も大きく変わりましたが、基本的には各球団の自由競争という部分は変わりなく、リーグが主導して、地域格差や収益構造格差に介入するということは行われていません。
MLBのような分配制度がなくてもうまくいっているという見方もできますし、MLBほど飛び抜けて収益性の高い球団があるわけでもないという考え方もあるでしょう。
実際、勝率と収益力の関連がそれほど強いということもありませんし、各球団の収益力の格差も、MLBほど大きくはないと思われます。
ただ、各球団でファームの運営も含めてやっていくとなると、やれる内容が球団によって違っているのは感じます。
近年の育成ドラフトでは、他球団が指名を終えても、ソフトバンクと巨人がずっと指名を続ける光景が当たり前になっています。
社会人のチームが減ったので、その受け皿として、できるところがやってくれているのが実情でしょうが、格差の表れではあります。
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黄金時代のつくり方 - あの頃の西武はなぜ強かったのか
伊東勤
80~90年代、「最強軍団」と称された
黄金時代の西武ライオンズで正捕手を務めた著者が、直に見てきたチームが強くなっていく過程を語る一冊。
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監督としても西武を日本一に導いた後、ロッテや中日など他チームでも監督・コーチを務めたことで見えてきた「あの頃の西武」の強さが今、明らかに。