「#Dヲタのディズニー離れ問題」は本当だったのか? 過去最高益を記録したディズニーランドが目指した“ウォルトの理想からの脱却”とは
「#Dヲタのディズニー離れ問題」は本当だったのか? 過去最高益を記録したディズニーランドが目指した“ウォルトの理想からの脱却”とは

近年、顕著になっている東京ディズニーランドの“高級化”路線は、「若者」と「Dヲタ」の排除に繋がっているのではないかと批判が相次いだ。しかしその背景には、「ウォルトの理想からの脱却」を目指すことで、より幅広い層に顧客を広げたのではないかと、都市ジャーナリストの谷頭和希氏は分析する。

 

高級化の真意について、『ニセコ化するニッポン』より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全3回のうち2回目〉

「Dオタ」向けに変化したディズニーパレード

TDRはマーケティング的に変化し続けている。

ここ最近のディズニーランドの傾向だが、本来、一つのテーマで徹底的に統一されていたディズニーランドの世界観が崩されているのだ。新井克弥はこれを、ディズニーランドの「ドンキ化」と呼んでいる(ここではドンキ化という言葉は、「ごちゃごちゃした」「雑多な」という意味で使われている)。

もともと、ウォルト・ディズニーが思い描いていたパークの方向性から逸脱しているというのだ。

新井が強調するのは、ある段階までのTDRが、いわゆる「Dオタ」(ディズニーオタクの略語)が楽しめるようなパークにどんどんと変わっていった、ということ。一つの世界観を守るのではなく、色々な好みを持ったそれぞれのDオタが各自で楽しめるように、その場所が変わっていったのだ。

例えば、パレードにはその傾向が顕著に表れていると新井は言う。もともと、そのパレードは、ディズニーの世界観や物語に忠実で、そこで流れるフロート(パレードの山車とでもいうべきもの)なども計算されているものだった。

しかし、現在のパレードは、大雑把なテーマだけを決め、基本的にそこには人気のキャラクターたちが勢揃いするようになっている。それはなぜか。

Dオタたちは、ネットやSNSの情報をさまざまに調べ、それぞれが「マイ・ディズニー」ともいえるこだわりを持っている。その細分化したこだわりに対応するように、パレードのあり方も変わってきたのである。



この点でも、TDRはそこに来る顧客層を判断し、そこに特化した形での政策を行うという意味で、きわめてマーケティング的にその空間を操作しているといえるだろう。そこで、ウォルト的な「理想」はきわめて薄められる。

「若者のディズニー離れ」の真相は

ある段階まで、TDRはDオタたちの嗜好に合わせて変化を遂げていたといえるが、それもまた変わってきている。

それを表しているのが、近年、顕著になっているTDRの「高級化」だ。

ディズニー側は、今後の方針として「客数よりも満足度」を重視する方向性を挙げている。これは、観光全体のトレンドとも関係する。つまり、「量から質への転換」だ。

ディズニーの世界を、選ばれた人にだけより楽しませ、彼らから今まで以上に高いお金を取ることによって、全体の利益を上げていくのだ。まさに「選択と集中」だ。

それは、ここ10年ほどで倍近くにもなったチケット(パスポート)料金にも表れているし、かつては無料で取得できたファストパス(アトラクションの優先搭乗券のようなもの)が「ディズニー・プレミアアクセス」として課金制になったことにも顕著だろう。

また、一度買えば一年中行き放題だった「年間パスポート」(いわゆる、年パス)も廃止され、定額でそこに行き放題、ということもできなくなってしまった。

こうした高級化の裏側には、「Dオタの排除」もあると思われる。

本来なら、こうしたコア層は歓迎されるべきだ。

しかし、これ以前のTDRでは、Dオタたちによる、過剰な「マナー違反の晒しあげ」などが問題になったり、あるいは一度買えば年中行き放題の「年パス」で繰り返しふらっとインパ(インパーク、ディズニーリゾートの中に入ること)する人々が多かった。

こうした行動は、一般客を遠ざけ、また年パスを使って繰り返し入園されることでパーク側の売り上げが落ちてしまう。

しかし、コロナ禍を機に年パスの制度は無くなり、それと相前後するように、ディズニーは入園客の量から質への転換を図った。今では「運営はDオタの方を向いてくれない」といった言葉もまことしやかに語られている。

もちろん、高くなっても熱狂的なDオタはTDRに通い続けるだろうが、特に年パスの廃止によって、少なくない数のDオタがTDRから離れていったことは容易に推察できる。

ちなみに、年パスが実質的に廃止された2020年には、「#Dヲタのディズニー離れ問題」というハッシュタグがSNS上で話題を呼ぶこともあった。

「量から質」を重視する流れの中で、Dオタの排除も進んでいったのである。

こうした料金の高騰により、一部では「もうTDRは金持ちしか行けない」なんて報道もある。また、それと共にネットを騒がせたのは「若者のディズニー離れ」という言葉。

発端はピンズバNEWSに掲載された「若者のディズニー離れが進む 10~30代の利用者は約10%減 TDR知識王が語る分岐点『大人料金が1万円を超えた時』」だったかもしれないが、これを皮切りにさまざまな議論が噴出した。

そうした記事に対しては「いや、逆に『ディズニーの若者離れ』では?」といった反論もあった。

パークへの入場を「料金」によって変化させ、そこへ来られる客層を選んでいるのが、現在のTDRの姿であるといえるのかもしれない。



つまり、USJが「映画の世界」をテーマにすることをやめたように、TDRが「それまでのディズニー好き」とは異なる客層に向けた施策を打ち出しているのだ。

実際、こうしたTDRの方向性は、現状では成功していると思われる。というのも、度重なるチケットの値上げにもかかわらず、その客数は衰えることがなく、2024年3月決算では、過去最高益を記録したからだ。

「高くても来る」人を選んでいるからこそ、最高益を記録できるのだ(同時に、これは「高くても来る」ぐらいの魅力をTDRが作り続けているということだ)。

まさにテーマパークにおいても、「選択と集中」が進んでいる。それは、ディズニーがこれまで持っていた「テーマ性」という名の「ウォルトの理想」からの脱却であり、同時にそこに来る人々を選び、フォーカスを当てて楽しませるマーケティングの強化が行われているという意味でもある。

文/谷頭和希 写真/Shutterstock

『ニセコ化するニッポン』

谷頭和希
「#Dヲタのディズニー離れ問題」は本当だったのか? 過去最高益を記録したディズニーランドが目指した“ウォルトの理想からの脱却”とは
『ニセコ化するニッポン』
2025/1/301,650円(税込)248ページISBN: 978-4041155127

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