南極に14か月滞在した駐在員、脳細胞の再生を司る因子が45%減少していた事実…社会的つながりが人の脳に絶対必要な3つの理由
南極に14か月滞在した駐在員、脳細胞の再生を司る因子が45%減少していた事実…社会的つながりが人の脳に絶対必要な3つの理由

新型コロナウイルス蔓延の長期化によって、孤独や孤立が現代の社会問題として顕在化している今。他者との交流が少ない人は、認知症の発症率がおよそ8倍にもなるという研究結果もあるというが、本当なのだろうか。

 

『「脳にいいこと」すべて試して1冊にまとめてみた』より一部抜粋、再構成して、「孤独」が及ぼす健康被害などについてお届けする。

南極に長期赴任した人の脳は縮んでいた

孤独は脳に器質的な変化すらももたらします。

脳のMRI画像を使った研究では、社会的に孤立した人は記憶力や反応といった認知能力が低く、脳の多くの領域で灰白質の体積が少ないこともわかりました。

灰白質の体積が少なかった部分には、音の処理や記憶に関わる側頭葉、注意力や複雑な認知タスクに関与する前頭葉、学習と記憶に関わる海馬など、認知能力と深くつながる領域が含まれていそうです。

2019年に南極に滞在する遠征隊員をサンプルに行われた孤独に関する研究があります。これは、9人の南極に滞在する遠征隊員(14か月滞在)と、彼らの脳を比べたものです。

南極というのは超がつくほど孤立したところ。特に基地局に駐在する人は、その人たち以外とのつながりはありません。もちろん、家族と離れての駐在です。

そんな南極に14か月滞在した駐在員の脳を調べたところ、記憶を司る海馬は約7%小さくなり、また脳細胞の再生を司る脳由来神経栄養因子(BDNF)は45%減少していたそうです。

また、意思決定や問題解決を司る前頭前野の重量減少も一部に見られました。

なお、この現象は、南極から帰って1か月半の時点でも続いていたそうです。

また、2022年に発表された、平均21歳の1336人を対象に、脳の画像をもとに孤独を研究したものがあります。

ここまで大規模な孤独の研究はあまりないので、とても興味深いです。

これによるとアンケートの結果、孤独だと答えた人は、孤独でないと答えた人に比較して、社交性を司る前頭葉の左側及び頭頂葉の上部の活動が減少していたことが発見されました。

つまりは、孤独な人は、社交性を司る部分の脳を使わないため、その活動が減少するのです。

なぜ、人にはつながりが重要なのか?

社会的なつながりがなぜ脳によいのか、ここでまとめてお伝えしましょう。

●気分のよい会話は、脳内のセロトニン、オキシトシン、ドーパミンなどの幸せホルモンを放出させ、健康や幸福感を高める

●人と話をすることで、脳細胞を使い、脳の萎縮を防ぎ、脳の老化に伴う認知症などの症状を遅らせる。単調な脳細胞の使い方よりも、幅広い年齢の人と幅広い話題の会話を行うことがよいとされる

●人はポジティブな情報よりもネガティブな情報に注意を向けやすく、記憶にも残りやすいというネガティビティバイアスがある。そのため、ひとりでいると思考はネガティブな方に傾いてしまうため、人と話すことでそれを止めるようにする

精神科医の間でよく言われているアドバイスがあります。

それは、精神科医というのは「人の話を聞いてあげることが一番大事」というアドバイスです。私自身は精神科医ではありませんが、何人かの精神科医から聞いているので、広く伝えられているようです。

引きこもりやうつの人にとっても、定期的に診察室に来て話すことは、とても価値があると臨床的にも考えられています。

自分の話を聞いてくれる人がいないと、感情が鬱積し、どんどんネガティブな方に傾いてしまいます。わずかな時間でも話す相手がいれば、感情や思考の流れがどんどんネガティブな方に傾いてしまうことを防げます。

患者の話を聞くことを徹底させた心理療法というものもあります。

アメリカの臨床心理学者であるカール・ロジャースが提唱した「クライエント中心療法」と呼ばれるものです。

彼は、カウンセラーにはたくさんの知識や権威は不必要であり、患者の話に対してどれだけ無条件に心を開き共感的な姿勢を示せるかが大事であるとしていました。
もちろん、これは数ある主張のうちのひとつ。

すべての患者に当てはまるわけではないでしょうが、話を聞くだけで症状が改善する患者が多いというのは、精神科医の中でよく言われている事実です。

ただ、情報過多の現代で、話をじっくり聞いてもらえる機会というのは少なくなっているのではないでしょうか。

リモートより対面の方が幸せホルモンは多く出る

人類が30万年かかり蓄積した情報量に匹敵する情報量が、現代においてはたった約3年の間に生まれるという統計があります。また、2012~2022年の間に、世界の情報量は10倍以上になったといわれています。

しかし、私たち個人の情報消費スピードが10倍以上になったかといえばそうではありません。つまり、情報量は驚くほど増えているのに、消費量はそれに追いついていないということです。

また現在の情報は、テレビのテロップやショート動画にも見られるように、理解しやすいもの、そしてすぐに満足感を得られるものであふれています。

このような世界において、人に話を聞いてもらう、さらに人の話を聞く、ということは簡単ではありません。

なお、人との交流という意味では、できるだけ五感が刺激され、セロトニンが分泌されるような交流というのがよいそうです。

みなさんは、「オンライン飲み会」を経験したことがありますか。

私はコロナ禍にやってみました。

しかし、正直あまり充実した気持ちにはなりませんでした。これは、たぶん五感があまり刺激を受けていなかったからではないでしょうか。

リモートよりは対面で気の合う仲間と議論したり、一緒に食事をしたりする方が、幸せホルモンは多く出ることがわかっています。

中国では、家族が正月に餃子を作って食べるといいます。

細かい作業で手を動かしながらおしゃべりをし、ニンニクの利いた熱い餃子をみなで食べるというのは脳科学的にも理にかなったことといえそうです。

文/平井麻依子 写真/Shutterstock

「脳にいいこと」すべて試して1冊にまとめてみた

平井麻依子
南極に14か月滞在した駐在員、脳細胞の再生を司る因子が45%減少していた事実…社会的つながりが人の脳に絶対必要な3つの理由
「脳にいいこと」すべて試して1冊にまとめてみた
2025/1/301,650円(税込)224ページISBN: 978-4763141965

世界中の脳科学のエビデンスを自分の脳で実験。
医師が実践する脳のコンディションを整える方法。


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その方法はすべて医師である著者が
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