
東京ドームでの開幕戦を目前に控え、過熱の一途をたどる大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希の日本人トリオを中心としたドジャース報道。 “日本化”が進む名門球団に、現地ロサンゼルスのドジャースファンは何を思う……?
大谷の一挙手一投足がニュースになる異常事態
3月18日から東京ドームで開催されるロサンゼルス・ドジャースとシカゴ・カブスの開幕シリーズ2連戦。
一般販売のチケットは発売開始2分で完売し、直後にチケット売買サイトで1枚100万円を超える価格での出品が相次ぐなど、そのプレミア価値に話題が集まった。
ドジャース、特に大谷、山本、佐々木といった日本人選手への報道もヒートアップ。巨人とのプレシーズンゲームで放ったホームランはもちろん、大谷が新スライディングや帰塁の練習をしたというマニアックな出来事さえ、日本国内のテレビやネットニュースでは大きなトピックになるほどのフィーバーぶりだ。
しかし、ドジャースの地元はあくまでアメリカのロサンゼルス。大谷を中心とした日本人選手と日本のマスコミがここまで幅をきかせていると、本場のファンはあまりおもしろくないのでは?
現地に住む人々に率直な意見を聞いてみることにした。
日本メディアの過剰報道に現地では…?
30代男性のピーターさんは、ロサンゼルス育ちのドジャースファン。生粋のLAっ子の彼に日本人トップ選手3人が所属する現状について聞いてみると「いい選手だったらどこの国の人かなんて問題じゃないよ。だからこれからもすばらしい日本人選手がどんどん来てほしいね!」と日本化について特に気にしていない様子。それどころかかなりウェルカムな雰囲気だ。
この歓迎ぶりの理由について、ロサンゼルス在住のライター、廣田陽子氏はこう解説する。
「ロサンゼルスはアジア人だけでなく、中南米のヒスパニック系の人が多く住んでいたりと、もともと多国籍な土地柄。だからあまり選手の出身地を気にするという感覚がないんです。これが他のローカルな都市だったらどうかはわかりませんけどね。
日本人選手が3人いることについても、たくさん選手がいる中での3人なので、ファンは『いい選手が来てくれた、やった!』くらいにしか思ってないと思います」
同じくロサンゼルス在住で旅行ライターとして多くの現地民との交流がある舟津カナ氏もこう答える。
「知り合いのドジャースファンからも日本人選手が3人いることについて、ネガティブな意見は聞いたことがありません。名門球団のドジャースはMLBの中でもコアなファンを抱えていることで知られていますが、中心選手が白人のアメリカ人じゃないとダメとは誰も思っていませんよ」
では、そんなコアなファンたちからの大谷人気はどうなのか。日本の球団で考えると、チームの看板選手が外国人になることは珍しいケース。しかし、「現地でも大谷選手の人気は圧倒的です」と話すのは前出の廣田氏。
大谷入団による弊害も…
「日本のようなアイドル的扱いとはちょっと違うんですが、昨年は大記録(50-50)を達成したこともあって大谷選手に対する報道は多い。ありとあらゆるグッズで大谷選手のものが一番の売上のようですし、球場に行っても大谷選手のユニフォームを着ている現地ファンの数はぶっちぎりだと感じます」(廣田氏)
舟津氏も続ける。
「ドジャースは人気球団で報道される機会は以前から多かった。それが大谷選手が入団してさらに増えた印象です。スプリングトレーニングへ見学に行く人も増えたし、野球がそんなに好きじゃないロサンゼルス市民でも大谷選手目当てで球場に行くようになっています。
ですから、人気は彼がもちろんナンバーワン。それにフリーマン選手やベッツ選手が続いているという状況です。野球の実力だけじゃなく、(MLB選手が嗜好する)ヒマワリの種の殻をきれいに捨てたり、山火事被害にドネーションしたり、そういう人間的な部分でも尊敬されているんです」(舟津氏)
しかし、大谷入団による弊害もあるという。
「ドジャースタジアムのチケットの価格です。
アメリカ国内の物価がどんどん上がっていることもあり、ビール1杯20ドル(約3000円)以上、銀だこは6個入りで14ドル(2000円)と、1回の観戦で200~300(3万~約4万5000円)ドルは平気でかかっちゃいますね」(舟津氏)
日本でも今年から多くの球場でビールが1杯900円に値上げされてファンは悲鳴をあげているが、ドジャースタジアムに比べたらまだまだかわいいもののようだ。これも大谷効果なのか……?
東京シリーズ記念グッズには長蛇の列も
もうひとつ気になるのが海外で開幕戦を行うことについてだ。ドジャースは昨年の韓国シリーズに続き、2年連続で開幕戦が国外開催となる。
いくらアジア市場を拡大したいからといって、ファンとしては開幕戦には足を運びたいもの。これに関して不満はないのか。
「確かにそのことに関しては、スプリングトレーニングが短くなるし、(長距離移動で)選手の体の負担も大きいため、調整面での不安を口にする現地ファンも少なくありません。ただ興行としては、団体で日本観戦ツアーへ出かける方もいて、お祭り気分で楽しんでいるようです。
ロサンゼルスでは日本へ行けないファン向けにライブビューイングも開催されるのですが、カブスとの開幕戦は現地時間で午前3時開始。しかも、チケットは193ドル(約2万8000円)と高額にもかかわらず、なかなかの売れ行きのようです」(舟津氏)
ちなみに、このライブビューイングは没入型スポーツエンタメ施設Cosmという最新技術が導入されており、現地観戦よりも臨場感のある映像を楽しめるという。昨年のワールドシリーズでは同チケットが1000ドル(約15万円)で販売され、わずか7分で完売したとのこと。
さらに、東京シリーズ開催を記念してドジャースと、現代美術家・村上隆のコラボユニフォームといった記念グッズが製作されアメリカでも販売されているが、こちらも大好評のようだ。
「ロサンゼルス市民はめったに何かを求めて並ぶことをしませんが、デザインもプロダクションもいいのか、このコラボユニフォームはリリース日の開店1時間前からドジャースファンが並んでいたというニュースを見ました。
例年、ドジャースはグッズにはあまり力を入れないのですが、今回はグッズ展開も多く、いずれも地元ファンに好意的に受け入れられていますね」(廣田氏)
どうやら日本人だけが盛り上がっているわけではないようだ。太平洋をまたいでのお祭り騒ぎは18日19時10分に幕開けとなる。
取材・文/集英社オンライン編集部