「中途半端な留学はやめなさい」落合陽一の母が考える“ダメな留学”3つのパターン
「中途半端な留学はやめなさい」落合陽一の母が考える“ダメな留学”3つのパターン

「海外留学」には、夢や可能性が詰まっている。しかし、ただ漠然と海外に行くだけでは、その価値を十分に引き出すことはできない。

メディアアーティスト・落合陽一氏を育てた母・落合ひろみ氏が元外資系航空会社勤務の経験と周囲の事例から導き出した「本当に意味のある留学」とは。

『「好き」を一生の「強み」に変える育て方』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。

【考え直したい留学①】語学を目的とする留学

最近はお子さんを海外留学させる方も増えてきました。

しかし私は中途半端な留学は本人のためにもよくないと思います。

とくに語学のための長期留学はしないほうがいいと思います。

留学するなら、「なぜ英語を勉強するのか」「英語を身につけて何をしたいのか」という理由が必要だと思います。

私が中学生の頃、アメリカ留学から帰ってきた従兄が、アメリカ人の友人をよく拙宅に連れてきていました。私は勉強したばかりの英語をつなぎながら、彼と話をするのが、すごく楽しみでした。

高校生になって通った英会話教室でも、学べば学ぶほど「もっと学びたい」という欲が出て、自分もアメリカに留学して英語を学びたいと思うようになっていました。

しかし、きちんとした意志を固める以前に担任にその意向を伝えたところ、怖い教師数名から職員室に呼び出されました。そして、何のためにアメリカ留学を考えているのかと詰問されたのです。

「英語を学ぶのは日本にいてもできるでしょう。なぜわざわざアメリカまで行くのですか?」

「日本で勉強しても、英語の発音はよくならないし、スムーズに話の内容がキャッチできるように、もっと勉強したいのです」

すると教師は「そんなことのためにわざわざアメリカまで行くのですか? ばかばかしいからおやめなさい」「アメリカ文学や英語自体の研究ならまだしも、話すためだけに海外で学んでも、現地の人のようにはなれません」「英語をもっと学びたい、それは大した目的ではないでしょう」と総攻撃を受けてしまいました。



そのときは、がっかりしましたが、今考えれば、その通りだと思います。中途半端に留学して英語を学んでもネイティブにはなれませんし、のちに私が働くことになる外資系の航空会社に採用されることもなかったでしょう。

本格的に留学するなら、語学以外の理由を持って臨むべきです。

私の周りには大学修了後、イタリア、スペイン、フランス、他に留学し、成功なさっている方がたくさんいらっしゃいます。たとえば、イタリアに留学した方は、英語は得意ではなかったけれど建築を学びたいという希望があり、他の方とは違う趣のイタリアンスタイルの勉強をし、現在は立派な建築家として活躍しています。

【考え直したい留学②】中学時点での長期留学

今は中学から留学させて寮生活を体験させるという方も増えています。

中学生の時期は、人間の体内ではホルモンが過剰に産生される第二次性徴期という難しい時期にあたります。いわゆる思春期です。

思春期は体も心も不安定なので、親のサポートが必要です。過干渉するのではなく、あなたのことをちゃんと見守っているという信号を発することで、子どもは安心するのです。

私は、中学から親元を離れて留学させることについては反対です。中学になれば確かに背丈も伸び、男子であれば声変わりして急に大人びてきます。しかし、外見に変化が現れたとしても、精神はしっかりと成熟したとはいえないのが思春期です。



文化の違いや日本語が通じない環境、周囲に友達も親もおらず、さらに欧米ではアジア人に対する差別も根強くあります。ただでさえ不安を抱えやすい時期に、ストレスの多い環境で果たして集中して勉学に励むことができるでしょうか。

ちなみに、女児よりもストレスを抱えやすい男児の場合は、海外で暮らすなら、高校、あるいは大学時代が望ましいと考えている専門家もいます(*)。

(*繁桝算男、内田伸子、酒井邦嘉、中室牧子「早期教育の光と影」準備委員会企画シンポジウム 日本教育心理学会 第61回総会発表論文集(2019年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/pamjaep/61/0/61_6/_article/-char/ja/)

早くから母国語以外の言語を勉強しても、ネイティブにはなれません。それならば、必要だ、使いたいと本人が思ってから勉強するのでも遅くはないと思います。

私も留学するならば高校生、または大学生になってからがよいと思っています。もちろん、社会に出てからでも遅くはないと思います。

【考え直したい留学③】大学受験に失敗したことが理由の留学

世間では、大学受験に失敗したからといって、海外の大学に留学させてしまおうとする親御さんもいますが、それは勧めません。

受験に落ちるという場合、①勉強が好きではない、もしくは、②緊張体質で試験で本領が発揮できない、というケースがあります。

①の場合、勉強が嫌いな中で、日本よりも厳しい海外の大学でやっていくのは大変ですし、②の場合は、受験失敗でショックを受けているはずです。心理的に不安定な中ですぐに新しい環境に慣れるというのは、本人の負担も大きい場合があります。

また、日本で受験に失敗した留学生を、簡単に受け入れてくれる海外の大学が、教育に対するしっかりした理念と体制が整っている学校といえるかというと、疑問が残ります。

海外の大学であっても、ピンからキリまであります。

慌てて大学に入学しても、それが本人にとってよい選択になるかはわかりません。

私の周りにも何人かそういう例がありますが、親に追いやられるように海外留学した方は、その後の人生にとってあまりいい結果を及ぼしていないようにも思います。

大学受験の失敗は嫌なものですが、それを理由に「海外へ」というのは、短絡的すぎるのではないでしょうか。失敗は失敗として受け止め、乗り越えることも人生にとっては大事なことではないかと思うのです。そもそも失敗かどうかは、後になってみないとわかりません。

留学の何に意味を持たせるかは難しい問題です。

中途半端な海外の大学に行って、遊びや薬を覚えて人生を棒に振った子どもたちを何人も知っています。海外の大学で学ぶことがその子にとってどんな意味があるのかを十分に考えて、決めるべきだと思います。

本人が行きたいと言った場合であっても、なぜ行きたいのかその理由をしっかり聞いて、親が納得したならば行かせるべきだと思います。

文/落合ひろみ

「好き」を一生の「強み」に変える育て方

落合ひろみ、落合陽一
「中途半端な留学はやめなさい」落合陽一の母が考える“ダメな留学”3つのパターン
「好き」を一生の「強み」に変える育て方
2025/3/131,650円(税込)288ページISBN: 978-4763141644

落合ひろみ×落合陽一親子が実践・検証した「これからの子育て」

◎個性や「好きなこと」を伸ばしてあげたい。でも、勉強も早くから準備しないといけない!?
子どもの好きなことを伸ばしたい、関心を深めたいと思う一方で、受験の早期化の流れもあり、悩まれる方も多いのではないでしょうか。

著者である落合ひろみさんも、仕事の傍らの子育ての期間には、勉強に加え、どうしたらその子ならではの才能を伸ばしてあげられるのかと、様々な工夫をしていました。


本書では、エピソードと科学的なエビデンスも含めて、「才能を伸ばす」子育ての仕方をまとめました。勉強や受験、英語教育の話にも触れており、学歴か才能か、国内か海外か、公立か私立か、ほめるか叱るか……など親御さんの悩みに向き合った1冊です。

◎勉強のやる気も、AI時代で活躍するにも「楽しがる力」が大事
テクノロジーの最先端におり、大学では教育者としても活躍する落合陽一さんのこれからの教育論も必見。新しい時代をつくるためにも、勉強のやる気を出すためにも、自分から楽しがる力が大事です。

そこで落合ひろみさんが実践していたのは、
「『勉強しなさい』と言わない」
「子どもがやりたいことは積極的にやらせる」
「それがとんでもないことでも怒らない(でも、「片づけてね」と言う)」
*ただし、危険なこと、迷惑をかけることはさせない
「集中しているときは、見守る」

ということ。

自分から学び、楽しみながら自分の道を開いていける大人になるために、
必見の内容です。

◎本書の概要(一部)
これからの時代に必要な子育ては?/勉強させるのに必要な声がけは?/勉強時間をどう確保するか?/子どもを勉強好きにするには?/算数の好きな子にするには?/嫌いな教科にどう向き合うか?/効果のある本の読み方は?/子どもを伸ばす習い事は?/子どもの好奇心を伸ばすには?/子どもの好奇心を伸ばす3つのルール/苦手なことに挑戦するときの声がけは?/どんな子も伸ばす魔法の声がけは?/英語教育、いつから始める?/考え直したいグローバル教育/外資系で仕事をしていたからこそわかる「海外で通用する人材」とは/受験を通してわかったこと

【目次より】
序章 これからの子育てに必要なこと
第1章 「勉強しなさい」は言わない ― 学歴か好奇心か
第2章 子どもの好奇心を広げる ― 「やめなさい」か「一緒にやろう」か
第3章 自主性と考える力を育てる ― 「うまくいかないね」か「できるよ!」か
第4章 英語・グローバル教育とどう向き合うか ― 留学か国内か
第5章 忙しい親のための心得 ― どんなに忙しくても目配りしたいこと
第6章 受験をどうする? ― 偏差値か適性か

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