
統計的には、男児より女児の方が脳の成長のピークが早く来るという報告もあるという。また、早生まれの子どもは学校の勉強や発育面で不利だというのもよく言われることだ。
書籍『本当はすごい早生まれ』より一部を抜粋・再構成し、発育前にたくさんの刺激を受け取ることができるメリットを紹介する。
「女性は男性より共感力が高い」とは必ずしもいえない
種々の研究から、集団で見た差違には確かに脳の機能、例えば共感性について、男女差があることがわかっています。
共感性指数は女性が高く、システム化指数は男性が高いことがわかっていて、「統計的に有意な研究結果」ですが、実際には共感性指数の高い男性やシステム化指数の高い女性もいるため、オーバーラップも非常に大きいことがわかっています*1。
「共感性指数」は、どのくらい他者の感情を理解できるかを表します。「システム化指数」は、分析と探索にどの程度関心を示すかを表します。
つまり、性格の特性に統計的には性差があっても、一人ひとりを見ていくと重なりもとても大きいのです。ですから、共感力の非常に高い男児もいれば、分析力に優れた女児もいる。あなたやあなたのお子さんが、男児だから、女児だからどうとはいえないわけです。
「女の人は皆共感力がある」という言い方は間違いで、「集団で比べると確かに女性は統計学的に有意に男性より共感性が高いが、だからといって個々の女性は皆、男性よりも共感性が高いとは限らない。
つまり目の前の一人の女性にそれを機械的に当てはめてはいけない」というのが正確な言い方です。
「統計的に有意」な研究が、自分に当てはまらないワケ
このように「統計的に有意」な研究であっても、それがそのまま個人にピタリと当てはまるわけではありません。これまで出てきた、そしてこれからも出てくるであろう「早生まれ研究」も、様子は同じです。
「成績が良い人もいれば、中間の人も、悪い人もいる」
「自己肯定感が高い人もいれば、中間の人も、低い人もいる」
「非認知能力が高い人もいれば、中間の人も、低い人もいる」
多くの調査結果が、このようなグラデーションの中から導き出されているということを頭に置いておきましょう。
研究結果というのはそもそもグラデーションの中にあり、個人にピタリと当てはまるようなものではない、ということは覚えておいて下さい。
このような論文の読み方を身につけておけば、無駄に喜んだり、むやみにがっかりしたりすることはなくなるはずです。
大きな群で見ると統計学的に有意差はある。しかし、そこには非常に多くの重なりがある。それが研究の本質です。全体としてそのような傾向があることと、個人に当てはまることは必ずしも一致しない、むしろそうでないことも少なからずある、としっかりと理解しておきましょう。
男の子の早生まれはなおさら成長がゆっくり?
早生まれと同じか、それ以上に統計として存在するのが、男女の成長差の違いです*2。
この研究も「統計学的に有意差はあるが、非常に多くの重なりがあり、個人に当てはまるものではない」ということを念頭に置いて確認していきましょう。
これは子育ての実感として感じている方が多いと思いますが、女児の方が成長が早いというのは、統計的にいえば脳についてはそのような報告があります。
次のページのグラフは、「大脳皮質」とも呼ばれる、ニューロンが集まった「灰白質」という「脳を覆う皮」の成長を、脳の前頭葉灰白質、頭頂葉灰白質、側頭葉灰白質、後頭葉灰白質の4つの体積で表したグラフです。
上の線が男子の脳発達、下の線が女子の脳発達です。(a)(b)(c)のそれぞれのグラフに矢印があるのがわかります。そこが脳の成長のピークです。
いずれも、女子の脳の方が矢印が手前に来ていることがわかります。つまり、女児の方がおおよそ1歳程度早く、脳の成長のピークを迎えているのです。
昔から「一姫二太郎」といわれるのは、女の子の方が成長が早く、育てやすいからかもしれません。
誰よりも若いうちに脳が刺激を受ける
このように研究だけを見ていくと、こんなふうに思われるかもしれません。
「男の子の早生まれの子は、すでに1年遅れているだけでなく、女の子から1年脳の成長が遅れているとすると、遅生まれの女の子に2年も遅れているということ?」
ただこれは裏を返せば、誰よりも脳が若いうちに、刺激を受けることができるということです。
保育園や幼稚園など集団の中に、誰よりも脳が若いうちに入る。誰よりも脳が若いうちに、勉強を始めることになる、ということです。これは実は脳科学的に見れば大きなメリットです。
それは、脳には「可塑性」(固体に外力を加えて変形させ、力を取り去ってももとに戻らない性質)という性質があるからです。
脚注
*1 S Wheelwright, et al. Predicting Autism Spectrum Quotient (AQ) from the Systemizing Quotient-Revised (SQ-R) and Empathy Quotient (EQ). Brain Research, 2006 Mar24;1079(1):47-56.
*2 Nitin Gogtay, et al. Mapping gray matter development: implications for typical development and vulnerability to psychopathology. Brain and Cognition, 2010 Feb;72(1):6-15.
写真/shutterstock
図/書籍『本当はすごい早生まれ』より
本当はすごい早生まれ
瀧靖之
16万人以上のMRIを見た脳科学者であり、
早生まれの子どもを育てる著者が、「早生まれは不利」という常識を科学的に覆す!
・生まれながらに「変化に強い力」を持つ早生まれ族
・いちばんのNGは、「親が勝手に悲観すること」だった!
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