
ADHD(注意欠陥・多動性障がい)と診断され、ASD(自閉スペクトラム症)のグレーゾーンにあることも公表しているファッション系インスタグラマーの、ぷちあやさん。2023年12月に3度目の結婚を経て「やっと幸せになれた」と頬を緩ませるそのお相手は、自身もADHDを疑うアパレルデザイナーの安藤翼さんだ。
「共感性が低い、物をよく失くすところなどを自覚しています」
ADHDやASDは発達障がいの1つで、脳の機能障がいにより日常生活に支障をきたすとされている。最近では、発達障がいの特徴は見られるものの、診断基準を満たすほどではない“グレーゾーン”に悩む人も少なくない。
——ADHDと診断されている、または自覚症状があると公表しているおふたりですが、それぞれの特性を教えてください。
ぷちあや(以下、あや) 私は、ADHDは確定診断がついており、ASD はグレーゾーンです。飽きっぽい、簡単なことでも2つのことを同時にできない、共感性が低い、物をよく失くすところなどを自覚しています。
安藤翼(以下、翼) 僕は自身のADHDの特性として、イライラしやすいのと、物をよく失くすところにその気質を感じてはいます。
あや さらに、私視点では、ツバちゃん(翼さんの愛称)に対し、音に敏感、落ち着きがない多動気味、こだわりの強さなどを感じることがあります。
——特性を理解したうえで、生活の中でどのような工夫をされていますか?
あや よく物を失くすので、常に大きめのカバンになんでも入れて“ドラえもんのポケット”のような状態にしています。
さらに、カバンを移し替えると前のカバンから移し忘れて困ることがあったので、バッグインバッグを利用し、必須アイテムはそこに収めることで、移し忘れを防いでいます。
ないとイライラする使用頻度の高いリップや口紅などは同じものを複数個購入し、バッグインバッグ、バッグのポケット、ポーチ、洗面台などに置いています。
翼 僕もよく物を失くします。自宅では置き場を決めて、帰宅したらそこに置くようにしてはいるものの、それでも頻繁に財布が見当たらなくなります。
——他にも、日常で困っていることはありますか?
翼 あやは時間を守れない。でも、急かすとケンカになるので遅刻がデフォルトと思い、最近では予定時刻を30分前倒しで伝えたりしています。どれだけ頑張っても5分は遅れるので、待たせる相手がいるときには特に迷惑をかけないよう、事前に遅刻分も逆算します。
あや そこまでやってくれているとは…知らなかったです。「まだ1時間半もあるから余裕だな」と悠長にしていると「あと30分しかない、何していたんだろう」ということばかりです。逆算ができず、時間配分が苦手なんです。
共感性が低いことがいい方向になることも
——何か夢中で作業していると、いつの間にか時間が経過していることもよくありますか?
翼 あやは、仕事でパソコンに向かっていたり、集中していると人の話が入ってこないようなのでそういうときは話しかけません。
本当は「もう〇時だよ?」とか「お風呂入ったら?」と思うのですが、一度ジャブで声をかけて何も言わないか、軽めの「うん」だけだったら乗り気ではないということで放っておきます。僕もそういうところはあるので…。
あや それは、意識してくれていると感じます。集中を途切れさせたくないので「後にして」と思いますし、過剰に集中すると周りの声が聞こえなくなるんです。
——そんな状況に対し、お互いにイライラすることは?
翼 正直、あやは自己中心的だなと感じることはあります。でもお互いさまですよね。
あや 私はそんなにありませんが、相手がイライラしていることはよくあります(笑)。でも私は、ASDの特徴がいい方向に働いてくれて共感性が低いので「この人のイライラは自分の問題ではない」「自分が原因じゃないし放っておこう」と思えるのであまり気にならないです(笑)。
ツバちゃんは寝起きと空腹時はイライラしやすいのでお腹空いていそうだな、と感じたらできるだけ早く近くの飲食店で食事をします。
——相手を「なだめよう」と思わずに切り離せるのは、すごいですね!
あや ちょっと冷たい感じがしますよね。きつい言い方をしてしまうことも多いので「そんなつもりで言ったんじゃない」という誤解から、ツバちゃんと交際当初は毎日ケンカをしていました。
私は思いやりがないんです。よく覚えているのが、前に結婚していた方は後半、主夫のような形で自宅のことをやってくれていました。
深夜に帰宅した私は、浴室乾燥で乾いた洗濯物を畳んでいる元夫の前を素通りし、お風呂に入りました。出ると「俺が入ろうとしていた」と言われ、「そうだったのか!」と。
私の中では、役割分担として元夫は自宅のことをやる人、自分は外で働く人という意識が強く「関係ない」と思っていたのですが、一言「お風呂入るね」「洗濯ありがとうね」くらいの思いやりが私にあったら違ったのかなとも思います。
ラブラブティータイムのために必要な「一日一褒め」
——自身の思いやりのない言動に気づいたときの対策は?
あや 気づいたらすぐに謝りますし、日々のマイナスな言動を挽回するような意識で「一日一褒め」を意識するようになりました。
翼 そうだね、僕も「前よりも良くなったね」「今日洋服いいじゃん」など、言葉で伝えるようになりました。
あや 交際当初は、なかなか言葉にしてくれなかったんですが、「言葉にしてくれないと伝わらない」と訴えてから、少しずつ言ってくれるようになりました。
行動も大切ですが、ADHDやASD特性を持つ方は、定型発達の方よりも言語化しないと伝わりづらいところがあるように感じています。
——日を重ねるごとに、お互いが心地よく暮らせる意識を持っていらっしゃるのですね。
あや 私が知らない私の特性や性格を、ツバちゃんが指摘してくれることもあり「そんなことない」と最初は思うんですが、よくよく考えると「そうだな」と感じることもあります。
自分の特性を知り、向き合うことで困りごとや相手へ迷惑をかける場面は減ると思うので、日々、自分のことを勉強しているつもりです。
今後も日々のラブラブティータイム(翼さんの入れた抹茶を飲みながら甘味を楽しむ)を大切に、気持ちをぶつけ合いながら、仲良くやっていきたいです。
——あやさんには成人された娘さんもいますが、「似ている」と感じることはありますか?
あや あくまで私個人の感想としてですが、似ていると感じることがありますね。今年22歳になりますが、小学校の高学年の頃に「学習障がいです」と言われました。読み書きが苦手で、今も自分の名前を漢字で書けるか怪しいほどです。
リハビリで通院もしましたが、一向によくならず、本人も行くことを嫌がりはじめたので次第に行かなくなり…勉強についていけないことで中学1年生の後半から不登校気味になってしまいました。
娘の人生なので詳細は伏せますが、それでも今は好きなことが見つかって、人間関係も良好ですし楽しそうに生きているのでホッとしています。
翼 娘は数字が嫌いで、また偏差値や成績として査定されるのがイヤなだけで、人間力は高い子なんです。血縁はないですが、ほとんど毎日LINEをしていて恋愛相談にも乗っています。
あや 私には話しづらいことも、ツバちゃんには話せるようで頼りにしています。イヤなことを無理矢理やらせ続けるよりも、好きなことや夢中になれることを見つけてそこを伸ばしてあげることが大切だと思っています。
〈後編へつづく『「簡単なことでも2つ同時にできません」発達障がいを抱える“ぷちあや”が3度目の結婚でたどりついた幸せな夫婦の形』〉
取材・文/山田千穂 集英社オンライン編集部ニュース班 撮影/村上庄吾