
性犯罪の容疑で逮捕される男性が増えているという。2023年7月、刑法改正により「不同意性交等・わいせつ罪」が新設された。
こうした状況にいち早く警鐘を鳴らしているのが、弁護士で『セックスコンプライアンス』(扶桑社)を上梓した加藤博太郎氏である。性犯罪をめぐる昨今の状況について話を聞いた。〈前後編の前編〉
不同意性交の自覚があった人は1人もいない
──2023年の法改正によって、セックスコンプライアンスはどのような変化があったのでしょうか?
加藤博太郎(以下同) 従来の「強制性交等罪」「準強制性交等罪」から、処罰要件が大幅に見直され、適用範囲がかなり拡大されています。
旧法において、その構成要件として最も重視されていたのは、暴行または脅迫による「強制性」でした。
一方で、新たな不同意性交等罪における構成要件には、「明確な同意があったことを立証できない状態」における性行為の全てが処罰対象となりました。
警察の動きを見ていると、被害を訴える女性の証言のみで、本格的な捜査に着手する傾向が強く見られます。
──実際に、法改正をしてから犯罪の数は増えているのでしょうか?
警察庁の統計によると、2024年1~10月の不同意性交等罪の認知件数は3253件で、刑法改正前の強制性交等罪の前年同期比で1.5倍以上に増えています。
──どういった人が捕まっているのでしょうか?
加害者になるのは9割以上男性で、大手企業の経営者や、有名人が多い印象です。これは、女性が被害を訴えた際、加害者の名前や所属がはっきりしているほうが、警察が捜査に着手する可能性が高いことが要因として挙げられます。
路上でいきなり襲うみたいなケースは本当になくて、パパ活、ギャラ飲み、キャバクラ、ガールズバー、ラウンジなどの飲みの場での出会いを発端にした事件が多いです。
──飲みの場を発端とする事件が多いのはなぜでしょうか?
飲みの場で働く女性は距離を縮めるのも仕事だし、それに勘違いした男性が手を出してしまうからでしょうね。
それに加え、飲みの場で働く女性の間で、不同意性交等罪で訴えることができるという知見が共有されているので、事件化しやすい印象はありますね。
法改正前は、泣き寝入りしていた女性がいっぱいいたんですよ。お酒を飲まされて強引な性交をされたけど、証拠が不十分だと。だから、訴えやすくなったのはいい傾向だと思います。
──不同意性交等罪で訴えられる男性は、自分が不同意性交をしたという自覚はあるのでしょうか?
私の知る限り、自覚があった人は1人もいないですね。警察から電話がかかってきたり、自宅にガサ入れが来たりして初めて問題に気がつくんです。
それで弁護士に相談するときは決まって「同意があった」「相手も自分に好意があった」「相手も積極的だった」なんて言うんです。
でも詳しく話を聞くと、「部屋に来てくれたから」とか「好きって言われたから」とか、弁護士からすれば性的同意とは必ずしも言えない話ばかりなんですね。
女性に“逃げる隙”を与える必要性
──どうして男性たちはそれを同意だと思ってしまうのでしょうか?
昭和・平成で流行っていた男性観やモテテクニックから価値観がアップデートされていないからだと思います。
女性の「嫌」は好きのうちとか、押しの強い男がモテるとか、部屋に来たらセックスOKのサインとか、そういったことを今でも信じ込んでいると、不同意性交等罪で捕まる世の中になったということです。
──男性はどんな風に「同意」を取るべきなのでしょうか?
法的リスクを限りなくゼロにするなら、毎回、同意書を作成して女性にサインを貰うのが最も望ましいですが、現実的ではないですね。それに、サインを拒めない状況を作っていたら不同意になりえます。
なので、段階的に女性の意思や自主性を確認できる行動をとっていくことが大切です。
例えば、ホテルや自宅へ移動する際に、途中でコンビニに立ち寄って避妊具を一緒に買ったり、1人でトイレに入って女性に"逃げる隙"を与えたりすることで、女性の意思や自主性を確認することができます。
──捕まっている人は、そういうことをしていないと……。
強引にタクシーに乗せてホテルに直行したり、「ホテルで飲み直さない?」と部屋飲みに誘ってから行為に及んだりして、逮捕される人が大半です。
ひと昔前の男性情報誌では、いかにスムーズに女性をホテルや部屋に招き入れるかのテクニックが指南されていましたが、そういう考えは法的リスクから考えると最悪です。
これは不同意性交・わいせつ罪の要件の一つである「予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること」という規定と関係があります。
男性の中ではスマートな誘いだと思っていることも、上記の要件に沿って「予想外で驚愕した」と主張されれば、同意があったとは認められません。
男は女より三歩下がって歩くべし
――これまでモテテクニックとされてきたことには、女性を尊重しない性質のものがあった、と。
たとえば同意を得られて、ホテルなどへ移動する際にも、決して女性の手を引いたり、背中を押すような動作は避けたほうがよいです。もしもその後、警察の捜査によって防犯カメラ映像などが出てきた場合、「嫌がる女性を強引に連行している」と解釈される場合があるからです。
ホテルや部屋までの道のりは、できれば女性と並行か、その少し後をついていくようおにしたほうがいいです。
──いまや「男は女より三歩下がって歩くべし」の時代ということですね。
そうした同意の確認行為を経て、晴れてベッドインとなっても、がっついてはいけません。実は性行為の際にも、法的リスクの高い体位と低い体位があります。
法的リスクの高い体位は、正常位です。
──女性が身動きをとりやすい騎乗位に至っているということは、不同意とは考えられないということですね。
はい。また、通常の性行為には同意していたとしても、イレギュラーな行為をされ陵辱されたと感じる女性も存在します。
例えば、後背位の際にお尻を叩く行為や肛門性交です。こうした行為により女性の体にアザや出血が生じた場合、不同意性交等罪よりさらに重い「不同意性交等致傷罪」で訴えられる可能性があります。
プレイが始まっても「どんな体位が好きなの?」とか「性感帯はどこ?」などと細かく聞いて、それに従っていく姿勢が大切です。
──恥ずかしがらず、なんでも口に出して確認することが大切だと。
事前に「ゴム買っておこうか?」とか「今日は〇〇なプレイをしようね~」と、自分の下心をあけすけにLINEで送っていたりすると、それも同意の確認になりますね。
ただし、気持ち悪がられたり、セクハラになったり、迷惑防止条例違反に問われる可能性も否定できないので、お勧めはしませんが。
──不同意性交等罪の加害者にならないためには、ここまで見てきたような各段階における同意の確認の行動を取ることが必要ということですね。
ここまでは、行為前や行為中の同意の話をしてきましたが、さらに重要なのは、行為後のことです。行為後に男性が急に冷たくなることで、女性のなかに被害感情が生まれて訴えられるケースを、私はたくさん見てきました。
法律を盾に身構えることも必要ですが、本質的に大切なことは、女性に対して誠意を尽くすことなのです。
※
後編では、性行為後の振る舞いが原因で不同意性交として訴えられた男性の事例を通じて、「女性に対して誠を尽くす」とは具体的にどのようなことなのか、さらに詳しく掘り下げていく。
#2 に続く
取材・文・撮影/山下素童
〈プロフィール〉
加藤 博太郎(かとう ひろたろう)
1986年生まれ。慶應義塾大学法学部(3年時まで法学部首席、飛び級のため単位取得退学)・同法科大学院を卒業後、大手監査法人勤務弁護士などを経て、加藤・轟木法律事務所代表弁護士。「かぼちゃの馬車」「スルガ銀行不正融資」「アルヒ・アプラス不正融資」など仮想通貨や不動産投資など数々の投資詐欺事件の集団訴訟(原告側)を担当し有名に。最近ではサッカー選手・伊東純也氏の性加害疑惑で伊東氏側の弁護を担当。メディア出演も多数。ソムリエの資格も持つ。
セックスコンプライアンス (扶桑社新書)
加藤 博太郎