
2025年3月、集英社オンラインで読まれた人気記事ベスト5をお送りする。第4位は、引っ越しの際に作業員から性被害に遭ってしまった女性の取材記事だ。
2025年3月に、集英社オンラインで反響が大きかった人気記事ベスト5をお送りする。
第1位は世間を震撼させた高田馬場でのライバー女性刺殺事件。編集部が独自に入手した加害者と被害者のLINEのやりとりが注目され、Xでもトレンド入りした。
第2位は旭川女子高生殺害事件の判決公判の記事だ。被害者の母親の悲痛な意見陳述の言葉に多くの読者から反響があった。第3位はXで議論が沸騰した「ごんぎつね」の感想文の記事、第4位は引っ越し中に作業員から性被害を受けた女性の取材記事、第5位は復帰を表明した今泉佑唯さんのインタビュー記事である。
第1~5位のランキングは以下の通り。
1位
〈女性ライバー刺殺・衝撃LINE入手〉「時間かかると思うけど絶対返すから100万かりたい」「もう頼まないから5万だけおねがいしていい?」…高野容疑者と「最上あい」金銭トラブルの詳細
2位
〈旭川・女子高生殺害 懲役23年判決〉「なんの涙ですか」遺族が内田梨瑚の舎弟に投げかけた言葉と、17歳被害者の絶たれた夢【裁判傍聴】
3位
最低な「ごんぎつね」の感想文? 小学生の回答に先生から“厳しい指摘”「国語嫌いになっちゃう指導の仕方だ」とSNS上で批判も…
4位
〈引っ越し業界の闇〉大手業者に依頼した女性が作業員からまさかの性被害に…だが作業員は委託だった!大手業者の法的責任は?
5位
芸能界を引退した元人気タレント・今泉佑唯(26)が“復帰”宣言で語った引退の理由「ドアノブをガチャガチャされて…身の危険を感じたんです」
↓以下記事本編
4月からの新生活を前に、まもなく最盛期を迎える引っ越し。だが、女性が一人で対応する際には思わぬ危険が潜んでいる…
昨年、沖縄県の20代女性が、単身での引っ越し中に性被害に遭った。すぐに110番し、作業員の男は逮捕された。契約したのは業界大手の引っ越し業者だったが、地元紙の報道を見て女性は愕然とした。男の職業は「自営業」。
「引っ越し業界の闇だ」
後に判明したのは、思いも寄らない「委託の連鎖」だった。女性は新居に住めずに長期間、ホテル暮らしを続けた。押し倒されたベッドももう使えない。だが、男や業者側が提示した示談金はわずかで、責任逃れのような書類まで送りつけられた。果たして法的責任はどこまで追及できるのか―。
必死の抵抗、男が吐いた捨て台詞
まずは事件に至る経緯を女性の証言や起訴状などを基に再現する。
比嘉レイさん(仮名)は職場まで1時間の沖縄市から、20分程度で通える浦添市内への引っ越しを決めた。希望に合う物件は4ヶ月間探してようやく見つけることができた。
管理会社が同じ場合に適用される割引もあり、大手の業者に決め、昨年9月、運送と洗濯機の設置契約を結んだ。「すべてこの業者に任せた」という認識だった。
10月。午前8時に始まった荷出しが終わると、作業員にこう言われた。
その後、男は到着が遅れると告げてきた。レイさんは、仕事があるので早く来てほしい旨を伝えた。
ピンポンが鳴ったのは16時44分。現れた男が洗濯機のコンセントを差してホースを繋ぐ。「もともとクーラーの仕事をしている。汚れていないけど、今後、掃除の必要があったら呼んで」などと雑談しているうち、男の様子が変わった。
「彼氏いるの? 経験人数は?」。プライベートかつ性的な質問を繰り返され、適当な相づちでかわしていると、男はさらに意味不明な発言を繰り出した。
「俺とぎゅーっとしたらそういう気分になるよ」「チューしよう」
当然、レイさんは拒否した。すると、突然持ち上げられて設置されたばかりのベッドに放り出され、覆い被さられた。
男は身長180センチを超えるがっしりした体格で、一方のレイさんは150センチにも満たない。必死に抵抗した。男を蹴りながら片手で男の顔を押さえ、もう片方の手で自分の唇を守った。
「仕事で人が来る。早く帰って。きもい」と言っても、男は「いいじゃん」と食い下がる。それでも「人が来る」と言い続けると、男はようやく諦め、こんな捨て台詞を吐いて立ち去った。
「また来るね」
パニックに陥ったレイさんは震える声で警察に通報した。
「家を知られている」恐怖
すぐに県警の捜査員4人が現れた。続いて鑑識も到着。レイさんは日付が変わるころまで約6時間、事情聴取を受け、その際に警察官から「(男を)逮捕したよ」と教えられた。
レイさんは号泣した。「家を知られている。通報したことで、逆恨みされるかも」という恐怖の一方で「私のせいで人の人生をつぶしてしまった」という思いもあった。警察官は「それは違うよ。原因は相手だから」と慰めてくれたが、罪悪感はぬぐえなかった。
今振り返ると、泣き寝入りせずに通報できたのは、男が発した「また来るね」という言葉が引き金だった。「本当にまた来るのではないか。接近禁止にしてほしい」。その一心だった。
未遂? 地元紙の報道とは
この事件を報じた地元紙のベタ記事の見出しは「不同意わいせつ未遂で逮捕」。アパートの一室で面識のない女性に抱きつこうとしたなどとして、自営業の男を逮捕した。男は業務の依頼を受けて訪れていた―。
「自営業? わいせつ未遂?」
レイさんの父の憲隆さん(仮名)は、こんな疑念を抱いた。
後に業者側の説明で判明したが、洗濯機の設置は業者が子会社に委託していた。驚くべきは、この子会社は沖縄県内の協力会社に再委託したうえ、この協力会社の代表が知人だった加害者の男に再々委託していたのだ。
そのため、男の肩書きは「自営業」となり、引っ越しではなく、洗濯機の設置業務に伴う事件と報道されたようだ。
那覇地検が起訴した罪名も「不同意わいせつ未遂」。レイさんは検察官から男の供述を聞かされた。
「お互いに気があると思った」「嫌がっていなかった」「あまりにも嫌がっていたから場を和ませようと思って体をくすぐっただけ」「体勢を崩しただけ」
途中から明らかに言い分が変遷していた。
起訴状にはこう記されている。
「被告人は女性が同意しないまま意思を全うすることが困難な状態にさせてわいせつな行為をしようと考え(中略)いきなり抱きついた上で、その身体を抱き上げてベッドに倒すなどの暴行を加えたが、抵抗されたため、その目的を遂げなかったものである」
なぜ、抱きつかれてベッドに倒されても「わいせつ行為の既遂」にならないのか。レイさんの頬をただ涙が流れ落ちた。
消えることのない「死にたい」
レイさんは現在、精神科クリニックに通っている。「死にたい」という気持ちが大きくなり、薬も強くなっていった。心的外傷後ストレス障害(PTSD)とも診断された。
少したって、警察から電話があった。
「お金がいくらあっても足りない」「何をされようが、もうどうでもいい」
次第にそんな考えが浮かび、自宅に戻った。
ピンポンに怯える日々だが、さらなる引っ越しを考えることもできない。家族や友人と一緒でなければスーパーや飲食店にも行けない。一番怖いのは、玄関の鍵を開けて中に入る瞬間だ。「また襲われるかもしれない」
事件後、レイさんは意を決して職場に向かった。だがすぐに引き返した。「無理だ」
もともと飽きやすい性格で、趣味もなかったが、この仕事だけは好きになれたのに…。すでに貯金は底を突きかけていた。
上司は「辞めないで」「落ち着いてからでいい」と言ってくれたが、仕事に行こうとすると、熱が出てしまう。そして上司に告げた。「辞めます」
提示された示談金
事件直後、憲隆さんのもとへ引っ越し業者と下請けの幹部が訪れた。「誠心誠意やらせてもらいます」。憲隆さんは追い返した。
続いて、男の弁護人からも連絡があった。「20 万円で示談してほしい」。憲隆さんは叫んだ。「ふざけるな」
さらに11月末、引っ越し業者は200万円を提示してきたが、これも拒絶した。
レイさんの中で、警察に通報したことへの罪悪感が消えたのは、男側から20万円での示談を持ちかけられたときだった。「20代後半の男が、1ヶ月の給料程度で。なめているのか」。男は保釈金「180万円」を一括で納めたとも聞いた。
突然届いた「調停申立書」の驚くべき内容
しばらくして、レイさん宅に封筒が届いた。送り主は「那覇簡易裁判所」。調停申立書という見慣れない書類が入っていた。
引っ越し業者と子会社が連名で「沖縄の協力会社が約定に反して登録されていない人物を送り込んだのであって、法的責任があるかどうかは疑問がある」「仮に責任があるとしても200万円を超えることはない」と主張していた。
申立書には不審な点がいくつもあった。
まず、男側が提示した示談金は「50万円」と記載されていた。憲隆さんは「20万円としか聞いていない」と断言する。
さらに「沖縄の協力会社は作業日に都合が付かず、子会社に了承を得ずに、知人の男に丸投げした」ともある。
実は事件の翌日、子会社の責任者がレイさんに電話で謝罪した際、次のように説明した。
「病欠が多くて人が足りなくて、急遽、ネットで探したんですよ」
これが事実だとすれば、「丸投げ」したのは業者や子会社ではないのか。
許せない表現もあった。
「使用者責任があるとしても、事故の態様に徹すると…」
業者側の認識は、事件ではなく「事故」なのだ。
「あまりにも軽く見ている」。二人は口をそろえて批判する。
父の慟哭と覚悟
憲隆さんの怒りと悲しみはどれほどのものか。
「事件の後、娘はずっと泣いて、『死にたい』と言うばかりでした」
男の報復に怯えきっていたレイさんを見て「気持ちを強く持って」と励ますが、その言葉はなかなか届かない。「私っていないほうがいいのかな」と言う娘に、父親としてどんな声をかければいいのか悩み続けている。
それでも、「泣き寝入りすれば、ほかにも被害者が出る」との思いで娘に寄り添い、闘い続ける覚悟だ。
取材・文/目黒龍