
90年代に「裏原宿」という巨大なポップカルチャーを築き、その後ファッションの枠を超えて支持され、世の中に多大な影響を与えてきた藤原ヒロシ氏。今では当たり前のように認知されている “コラボレーション”や“別注”などの概念は彼が作ったといっても過言ではない。
その内容をもとに、一冊の講義録としてまとめられたのが書籍『FRAGMENT UNIVERSITY 藤原ヒロシの特殊講義 非言語マーケティング』である。本記事では書籍の一部を抜粋・再構成し、ポケモンとのコラボレーション事例について解説する。 本記事は2023年12月に行われた講義をまとめたものです。
藤原ヒロシ(以下藤原) デザイン集団「フラグメント fragment design」主宰。世界中の企業とのコラボレーションを手がけている
皆川壮一郎(以下皆川) クリエイティブディレクター。株式会社みんな代表(2023年時点では博報堂ケトル所属)
鹿瀬島英介(以下鹿瀬島) 株式会社ポケモン執行役員
「監修」は「校閲」ではない
皆川 最後に、ここからがいちばん大事なんですけど、ヒロシさん、このチームのことを「新しいことを探し続けている最高のチーム」とおっしゃっています。素晴らしい姿勢ですよね、これは。
藤原 僕が言ったことをまとめて形にしてくれる。ホテルのワンフロアでやろうとか、そういうことも笑い話ですませずに、最後まで付き合ってくれる。
皆川 あと、「無理してやらない」というルールも素晴らしいと思います。「4月がきたから何かやらなきゃ」で始まる仕事って結構多いんですけど、いいことが思いつかなかったらやらない。定期的なミーティングは組んでいるんですか?
鹿瀬島 そうですね。
皆川 ヒロシさんが「アイデンティティが強ければ強いほど、いじりがいがある」という話をされていたんですけど、ポケモンはその最たるものということですかね? 確立されている。
藤原 すでにある、みんなが認識しているものだから、ちょっと変えるだけ。むしろそのくらいのほうが面白みが出せると思います。
皆川 「素人であることも大切だ」とおっしゃっていましたよね。
藤原 外部の目線で仕事をするということ、それが醍醐味でもあるんです。僕が自分からどんどんやって、ポケモンの社員みたいに染まってしまったら、意味がないかなって。
皆川 そこは鹿瀬島さんがサポートしているということなんですか?
鹿瀬島 そうですね。ヒロシさんがポケモンに詳しくない部分で、ポケモンのポケモンらしさみたいなものの担保は、僕ら側でしっかりやろうという、そういう連携の仕方ですね。
皆川 今日はブランドサイドの人もたくさんいらしてるんですけど、いつも広告会社でクライアントワークをやっている立場として、とても勉強になりました。
鹿瀬島 うちのチームのメンバーからもらったコメントがあるので、私から説明します。「監修≠校閲。
ポケモンって新しいクリエイティブを出していくときに、ポケモンの個々の設定や世界観をちゃんと守って、さっき言ったようにポケモンらしさを担保する「監修」というプロセスがあるんですね。
それはただ単純にルールに沿ってイエスかノーを決めるだけじゃなくて、ポケモンにとって、「これはめちゃくちゃいいぞ」「価値を上げるぞ」ということがあれば、ルールのほうを少し曲げたり、場合によってはちょっと解釈を変えたりする。
そうやって新しく生まれる表現に寄り添う、そういう考え方をする特殊な会社なので、こういうコメントをくれたのかなと思います。
藤原ヒロシと株式会社ポケモン、お互いが得たもの
皆川 「新しいことにイエスを出して寄り添う」って、めちゃくちゃ苦痛というか、大変ですよね。
鹿瀬島 そうですね。僕らは株式会社ポケモンという、ポケモンしかやっていない会社なので、ポケモンを長く続けることが会社の目的なんですよ。なので、常に新しいことや面白いことをやっていかないと終わるよね、というのが根底にあって、こういうことを言うんだろうなと。
皆川 ヒロシさんにとって、クライアントサイドのこういった姿勢はどうですか。
藤原 あまり気にしたことがないんですけど、いいこともあれば、悪いこともあるのかな。これをあまり大きな声で言っちゃうと、断りづらいことがたくさん出てくる。
鹿瀬島 そうですね。
皆川 確かにコンテンツが一つしかないんですもんね。
鹿瀬島 そうなんです。いつもは本当に監修が厳しい会社と思われています。
皆川 最後に、このプロジェクトでお互いが得たものについて教えてください。
藤原 僕はファミリー層だったり子どもだったり、自分の認知度がよくも悪くもすごく高くなりました。
皆川 鹿瀬島さんは?
鹿瀬島 いろいろ事例の紹介がありましたけど、2018年から5年ほどヒロシさんと取り組みをして、今ってファッションの中にポケモンがわりと当たり前に存在しているのが見えるようになりましたし、ラグジュアリーブランドとポケモンが何かやるとなっても、みんな「えっ」と思わないというか、それが普通になった。
これは全部ヒロシさんとの取り組みがきっかけだったと思います。「ファッションの中でポケモンをどう解釈するか」のモデルケースをヒロシさんが出してくださった。みんな「ああ、なるほど」と思ったんじゃないかなと。ポケモンが得たものは、そういう意味ではすごく大きいと思います。
皆川 今は門前払いされるどころか。
鹿瀬島 逆に僭越ながら、引き合いをいただいていることもすごく多いです。
皆川 門前払いしてしまう立場に(笑)。
鹿瀬島 いえいえ、どういう面白いことができそうかは、どの相手であっても考えていますよ。とりあえずお会いするだけでもすごく楽しいので。
皆川 今日は貴重なお話をありがとうございました。
鹿瀬島 ありがとうございました。
皆川 コラボレーションの話は1時間半だと全然足りないですね。ほかにも紹介したい事例がたくさんあったんですけど、今日の話は僕にとってもすごく学びがありました。
藤原 コラボレーションって簡単に始まるけど、先に進むのと同時に考え方が深く深くいく、というのが面白み。大変かもしれないですけど、それをやらないと意味がないということですね。
皆川 ただ組むだけじゃ意味がない、というのがいちばんの示唆でした。なので、これは繰り返しなんですけど、とにかく何でも知りたがるというか、深く掘ることで面白いものが見えてくるというのがヒロシさんの教えだと思います。
写真/shutterstock
FRAGMENT UNIVERSITY 藤原ヒロシの特殊講義
非言語マーケティング
藤原 ヒロシ 
ナイキ、ポケモン、スターバックス……世界の大企業は、なぜ藤原ヒロシを求めるのか?
90年代に「裏原宿」という世界でも類を見ないカルチャーを築き、その後はファッションの枠を超えて支持され、原宿のゴッドファーザーとして世の中に多大な影響を与えてきた藤原ヒロシ。氏の存在によって“ストリート”という曖昧な言葉に意味が定義付けられ、“コラボレーション”や“別注”など、それまでになかった言葉が世の中に浸透した。
本書は、藤原ヒロシの仕事には本人も意図しない“マーケティング”が介在しているのではないか、という仮説のもと、歩んできた歴史や数々の仕事の事例を抽出し、それらを学術的に言語化して講義を行った架空の大学プロジェクト「藤原ヒロシの特殊講義 非言語マーケティング」の内容をもとに、一冊の講義録としてまとめたものである。
DAY1 文化人類学 -遊学史-
DAY2 社会学 -メディア論-
DAY3 情報学 -交友研究-
DAY4 経営学 -コラボレーション理論-
DAY5 建築学 -空間デザイン論-
DAY6 ケーススタディ -スターバックス コーヒー ジャパン-
DAY7 ケーススタディ -ナイキ-
DAY8 最終講義