「投棄が投棄を呼んでいる」落書き、ゴミだらけの車両が大量放置される東京・新木場、転売目的の盗難も多発か…区議は「税金を使って処分する可能性が極めて高い」
「投棄が投棄を呼んでいる」落書き、ゴミだらけの車両が大量放置される東京・新木場、転売目的の盗難も多発か…区議は「税金を使って処分する可能性が極めて高い」

かつてのゴミの埋め立て処分場として選ばれ、東京で出たゴミの7割が集まっていたという東京都江東区・夢の島。その最寄り駅である新木場駅から少し離れた場所で、新たな“ゴミ問題”ともいえるトラブルが発生している。

実際に現地を訪ねてみると、大量の放置車両が路肩に並んでいた。この地で何が起きているのか。現場で働く人々に話を聞いた。

新木場エリアが放置車両と粗大ゴミだらけに

問題の場所は、都営バス「新木場三丁目」から「南千石橋」に向かう途中のエリアにある。直線で約1kmにわたるこの通りには、軽自動車やスポーツカー、バンまで、多種多様な放置車両がずらりと並んでいる。

放置された車両の状態はさまざまで、まるで駐車しているだけに見えるほど綺麗なものもあれば、スクラップ同然のものもある。中には車体全体に大きく落書きされたものも目立ち、通り全体が荒れ果てているように見える。

また、車中泊でもしていたのかと思わせる“生活感”のある車も見受けられた。ドリンクホルダーにカップが残されたままの車に、未開封のペットボトルが散乱した車……。まるで、つい最近まで誰かがいたのに、忽然と姿を消したかのような雰囲気を漂わせている。 

さらに粗大ゴミが散乱している影響か、周囲には大量の虫が飛び交い、衛生環境の悪さも目立つ。ガードレールには「不法投棄監視中」と書かれた注意書きが掲げられているものの、その効果はまったく感じられない。 

こうした放置車両が並ぶのは、道路の海側にあたる。

一方、反対側には木材業者や運送会社、水産関連の事業所が軒を連ねている。この荒廃した状態は、いったいいつ頃から続いているのか。実際に、この地で働く人々に話を聞いてみた。

「自分がここに来たときには、すでにこんな状態でしたからね。もう10年くらいは(放置車両が)あるんじゃないかな。このあたりは業者の出入りも多いし、バスも走っている。だから、道を塞がれるのは本当に危ないんです。

事業所に出入りするトラックも、放置車両のせいで道路の端に停められず、どうしても二重駐車になってしまう。中央まで塞ぐ車も珍しくなくて、いつか事故が起きるんじゃないかとヒヤヒヤしていますよ」(40代男性)

「もう20年以上前から、こんな感じ。でもね、前はもっとズラッと並んでいたから、今はだいぶマシになったほうだよ。一度、放置車両が全部撤去されて、道が綺麗になったことがあったんだよね」(70代男性)

向かいの道路側で働く人々は、この放置車両によって少なからず迷惑をこうむっているようだ。

さらに話をきいていくと、業務への影響に加えて、行政の対応への不満も次々と飛び出してきた。

燃えた車両も放置状態。「投棄が投棄を呼んでいる」

「事業所の前には荷下ろしや搬入のためにトラックがよく停まるんですよ。事業所前に置いてあるドラム缶も、各社がコーン代わりに整理用として置いているものです。他社の車に勝手に停められたら、搬入作業ができなくなってしまうので。

ただ、反対側が不法投棄だらけだから、このドラム缶も不法投棄と勘違いされているかもしれませんね。放置車両の周りにある粗大ゴミも、最初はなかったんです。でも、車を放置しておくと、その車内にゴミを捨てていく人が出てくる。投棄が投棄を呼んでいるような状態です」(50代男性)

「行政や警察には何度も言っているんだけど、まったく対応してくれないんですよ。ナンバーが付いたままの車だってあるんだから、持ち主を特定できるはずなんですけどね」(前出・40代男性)

この男性は、荒れ果てた通りの現状を何度も行政に伝えているという。通りに面した事業所が連名で嘆願書を出すような動きはないのだろうか。

「そういうのは仕切る人がいないからねぇ。でも、行政や警察が動かなくても、盗難で勝手に減っていくんだよ。

俺は夜勤もしているからわかるけど、レッカー車で車ごと持っていかれたり、ゴソゴソ部品を盗んだりしている人もいるね」(前出・70代男性)

次に、放置車両に縦列する形で車を停車している人々にも話をきいた。

「いまは仕事の合間に停車して、車内でPCを使って資料のチェックをしていました。ここは自分以外にも、タクシーの運転手や営業の外回り、事業所への出勤者など、いろんな人が車を停めているんです。でも、放置車両が多すぎて、停められる場所が限られてしまう。なんとかしてほしいですね」(30代男性)

「数年前から、仕事の都合でたびたび停車しています。僕の記憶では、この場所だけでいうと、クラウンが最初の放置車両だったと思います。それ以降どんどん増えていった印象ですね。

もともとは、この通り沿いにある水産業者のトラックがズラッと並んでいて、生臭さを抜くために荷台を開けて干していたんです。でも、それをやらなくなってから、空いた路肩に次々と車が捨てられていったんです。少し先に進んだ場所なんか、もっとひどいですよ。この前、放置車両が燃えたんですが、今もそのまま放置されていますから」(40代男性)

男性の証言を受けて200mほど歩くと、実際の燃えた放置車両を発見したのだが……。

放置台数は減っているが……。
地元区議は「盗まれたのでは」

車は見るも無惨に焼け焦げ、地面には燃えカスのようなものが広がっている。

割れたフロントガラス部分には、炎上後に捨てられたと思しきビニール傘の残骸も確認できた。前述の男性の証言どおり、車両を撤去しないことで、この場所がゴミ捨て場と化していることがよくわかる。

近隣で働く人々を悩ませている放置車両問題。しかし、行政の対応はなぜ後手に回っているのか。長年この問題に取り組んできた江東区議会議員・高野はやと氏に話を聞いた。

「すでに10年ほど前から放置が始まっていたようですが、江東区が事態を把握したのは昨年末です。所管の東京湾岸警察署も12月15日から道路を駐車禁止エリアに指定し、年明けからは取り締まりを強化。持ち主の確認などの作業も進めています。

長らく見過ごされていた最大の要因は、新木場には人がほとんど住んでおらず、『(近隣)住民の目』がないということです。それに加えて、もとは駐車規制エリアではなかったため、駐車中か放置車両か判断がつきづらかったのではないでしょうか」(高野はやと氏・以下同)

高野氏によれば、今年初めには約50台あった放置車両が、4月3日午前の視察時には19台程度まで減少。一定の改善が見られるものの、「これは行政による成果ではない」と指摘する。

「区の説明では、報道が増えて以降、持ち主が名乗り出て車を引き取り始めたとのことでしたが、私の推察ですと、部品の転売目的で盗まれた車も中にはあるのではないかと。

実際に残っている19台は、損傷が激しく、金銭的価値のなさそうなものばかり。こうした車両は誰にも引き取られず、今後もそのまま放置され続けるのではないでしょうか」

気になる今後について、高野氏は「税金を使って放置車両を処分する可能性が極めて高い」と語る。

「まずは持ち主を特定するのですが、見つからないものに関しては、行政側で処分することになります。この際、金銭化できるものは売却し、それ以外は業者に引き取ってもらう、という決まりがあります。ただ、残っている車両は金銭的価値のなさそうなものばかり。最終的には、区の税金で処分することになると思います」

この問題は議会でも取り上げられており、3月の江東区議会では、高野氏を含む2名がこの件について質問を行なったそうだ。次回の議会でも、再発防止策などが議論される見通しだという。

夢の島は、かつてゴミの埋立地として使われていたエリア。その役目を終えた今は、放置車両問題が近隣住民や働く人々の頭を悩ませているようだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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