
それは“支援”という名のもとに、世代間の不公平と反発を生むだけの法案なのか――。国民民主党が4月10日に衆議院へ提出した「若者減税法案」について、SNS上では「就職氷河期世代を見捨てるのか」といった批判の声が相次いでいる。
不満を口にする就職氷河期世代「そもそも“若者”の定義ってなんやねん」
国民民主党が4月10日に衆議院に提出した「若者減税法案」。これは、少子化や人口減少といった課題に直面する日本社会の活力を維持するため、30歳未満の若者の就労所得に関わる税金の負担を軽減し、働く若者を“サポート”しようとするものであった。
しかし、SNSなどで「なぜ30歳未満だけ?」との批判が殺到したことを受け、翌11日の定例会見で国民民主党・榛葉賀津也幹事長は「就職氷河期世代を裏切るなんてとんでもない。我々は昨年6月、『就職氷河期をしっかり救っていこう』と、就職氷河期にターゲットを当てた政策をまとめた。本気になってやると言ったのは、国民民主が最初だ」と強調。
若者支援よりも先に就職氷河期世代に対する政策を打ち出していた、と半ば“言い訳”にも聞こえる発言をした。
同法案や一連の発言を受け、実際の就職氷河期世代(おおむね1993年~2005年頃に就職活動を経験した世代)は、何を思うのか。JR新橋駅前の広場で、同世代を対象に街頭取材を行った。
関西地方から出張中だという47歳会社員のAさんは、語気を強めてこうまくし立てた。
「若者減税? 意味不明すぎて閉口もんや。そもそも“若者”の定義ってなんやねん。
Aさんは「所得税っていうのは、働いて稼いだらフツーに払うもの。それは国民の義務」と指摘したうえで、次のように付け加えた。
「それ(税金)を減らしたら頑張れる気がするかもしれない、っていう発想自体がよくわからん。若者にとっては初めての就職なんやから、そもそも『減税されている』という実感すら持ちにくいはず。それが30歳を超えた瞬間に“通常課税”に切り替わったら、当事者は『増税された』って感じると思う。31歳になったとたんに税負担が増えたら、逆に反感を買うんやないの?」(Aさん)
「努力した人がきちんと報われる仕組みをつくってほしい」
公務員として役所に勤務するBさん(男性)は「仕事を増やさないでほしい」と苦笑いを浮かべつつ、こう嘆いた。
「一見するといいことをしているように見えますが、結局は形だけの政策ですね。消費税や社会保険料がどんどん上がっている中で、根本的な問題は何も解決しません。
こういう新しいことをすると、役所や税理士の業務負担が増えるだけで、正直迷惑な話ですよ。こんなややこしいことをやるくらいなら、消費税を下げてくれたほうが、国民全体の負担を平等に軽くできると思います」(Bさん)
また、IT企業でシステムエンジニアとして働くCさん(男性・48歳)は、次のように語った。
「私は新卒で薄給のブラック企業に就職しましたが、なんとか這い上がってきました。これまでに3度転職を重ね、今では同世代の中でも収入面で恵まれているほうだと思います。
ただ、収入が上がれば課税額も増えるし、各種手当も所得制限で受けられなくなるなど、不公平だと感じる場面は少なくありません。政府には、努力した人がきちんと報われる仕組みをつくってほしい。そうでなければ、努力しない人が得をするような世の中になってしまうと思います」(Cさん)
さらにCさんは、「改めて法案を読んでみて気付いたことですが……」と前置きし、次のように付け加えた。
「今回の若者減税法案は、『大学等に行かずに頑張って働いている方々の所得税を減免することによってしっかり応援したい』という点がポイントなのかなと思いました。
最近はどの業界も人手不足ですが、特に自動車整備士や工事現場の作業員など、“職人”が足りていない状況だと感じます。こういった人たちも、社会を支える大切な存在です。
18~22歳くらいの吸収力のある時期に社会に出て、仕事を通じて職人やプロフェッショナルとして育っていくような流れができるなら、それはそれでいいことだと思います。
でも実際は、“若者”とか“就職氷河期”といったキーワードばかりが注目されていて、世代間の不公平をどう是正するかという本質的な議論があまりなされていない気がしますね」(Cさん)
「若者が優遇されすぎ」「もっと遅く生まれたかった」という声も
さらに、就職氷河期世代からは「若者ばかりが優遇されすぎている」という不満の声も多く聞かれた。
「今は新卒の初任給が上がるなど、若者が優遇されすぎている印象。最近はホワイト企業がどんどん増えていますが、僕が新卒の頃は、今で言うブラック企業が当たり前の時代だったから、そういう恩恵をまったく受けてこなかった。
今は若者があまり苦労せずに稼げる世の中になったと思います。
「今の日本社会は、若者を甘やかしすぎていると思う。最近の若者は些細なことですぐに“ハラスメントだ”と騒ぎ立てるし、仕事に対して熱意が感じられない。そんなの、俺たちの時代じゃ絶対に許されなかった。
バブルでの恩恵もなくパワハラにもまれ我慢してきた。最近だとコロナのときもGo Toキャンペーンで若者が旅行しているなか子育てと仕事で疲弊して……。損な世代だよ、同情してくれるなら金が欲しいかな」(40代・男性)
「何で若者だけ? 30~40代には子育てをしなくてはならない人も多く、若者以上に何かとお金がかかる。少子高齢化対策を考えるなら、子育て世代を減税対象にすべき。
戸建てもマンションも都内は値が上がって新築なんて買えない。習い事は当たり前、塾代もバカ高い。さらに物価高、育ち盛りの子どもが米も肉も大量に食うのよ(40代・男性)
一方で、今回の法案に対して肯定的な意見も聞かれた。
「今、日本全体で政府に対する不信感が強まっている中、若者たちが政治に対して関心を持つきっかけになるかもしれない。この法案によって新しい消費が生まれる可能性もあるので、社会全体で見ればプラスになると思う」(40代・男性)
「こういった形でこれからの世代を応援するのは、すごくいいこと。
国力を上げるために本当に必要な法案とは何なのか。それを真摯に考え直すときが来ている。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 サムネイル/Shutterstock