
2002年から2022年までで、全国で年間平均450校もの学校が廃校になっている。その裏では学校の統廃合が、民間の経営コンサルタント会社によってビジネス化しているという問題があるのだ。
「あなたは誰だ?」 なぜ経営コンサルタント会社が…
学校を統合したり廃止したりする「統廃合」に、民間の経営コンサルタントが主導的な立場で関わっている。その一例が、東京都清瀬市である。
清瀬市が全市レベルの「公共施設再編計画」を策定したのは2019年5月のことで、それに基づく学校の再編についての計画もつくられた。2020年になって市民への説明会も行なわれたが、そこに出席した元教員の清瀬市民が、そのときの様子を振り返る。
「説明は教育委員会の職員がやるとばかりおもっていたら、まったく知らない人が説明しようとしたのです。そこで私を含めた参加者から、『あなたは誰だ?』という声が挙がりました。
それに対しては、大手の経営コンサルタント会社の社員だとの返答でした。参加者からは『市の計画を経営コンサルタント会社の人間が説明するのはおかしい』という批判の声も挙がりました」
じつは学校の統廃合だけでなく、その基になる「公共施設再編計画」を主導的な立場でつくっていたのも、この経営コンサルタント会社だ。
つまり清瀬市は再編計画を民間の経営コンサルタント会社に丸投げしていたことになる。そこで、学校の再編計画を市民に説明する場でも当然のように説明しようとしたわけだ。
しかしこの説明会の対応で市民からの反発を買ってしまい、以降、このコンサルタント会社の社員が前面に立つことはなくなったという。
児童数は増えている…現実を無視した計画とは
その経営コンサルタント会社のつくった学校を再編する統廃合計画は、かなりずさんなものだったという。市民団体「清瀬市の『公共施設再編計画』を考える会」(以下、「考える会」)の事務局で活動しているA氏が次のように説明する。
「清瀬市でいちばん古い清瀬小学校の校舎を建て替えて、第八小学校を統合し、さらに近くの中学校まで統合して小中一貫校にするという内容でした。
市の説明では、小学校から中学にあがるときに馴染めずに不登校などになる、いわゆる『中1ギャップ』の解消が目的だということでした。
しかし清瀬市には、ほかにも小学校や中学校があるのに、清瀬小学校のまわりだけやるというのはおかしな話です。ほかの学区では中1ギャップを放っておく、ということですからね」(A氏、以下同)
さらに、清瀬小学校と第八小学校の統合も現実を無視した話でしかなかった。第八小学校の校区は人口が増えている地域で、少子化が問題になるどころか、児童数は増えている。
にもかかわらず清瀬小学校と統合されれば通学距離が長くなって不便になるだけでなく、中学まで一緒にした小中一貫校となれば、児童生徒数が1000人を超えるようなマンモス校になってしまうのだ。
「人口増の現実を無視しての計画には、あきれるばかりです。そんなマンモス校をつくれば施設的にもパンクしかねないし、学校運営についても不安しかありません。教育的にはマイナスばかりですから、子どもたちのことを無視した計画でしかありません」
そんな計画だから、「考える会」が反対の署名運動を行うなど、市民から反対の声が強まっていった。その結果、現在、経営コンサルタント会社のつくった計画は「凍結」となっている。
とはいえ、凍結でもそれなりの報酬を経営コンサルタント会社は市から受けとっているはずだから、ビジネス的に損はしていないはずだ。
さらに、こうした例は清瀬市だけではない。
「全部ではありませんが、かなりの自治体が経営コンサルタント会社に丸投げしています」と指摘するのは、『学校統廃合と公共施設の複合化・民営化』(自治体研究所、尾林芳匡との共著)の著者で統廃合問題に詳しい、東京自治問題研究所理事長で和光大学名誉教授の山本由美氏である。
ころころ変わる文科省の政策の背景には「経済の優先」
なぜ、経営コンサルタント会社に丸投げしてまで統廃合をすすめるのか。学校の統廃合が必要な理由を、文科省や自治体は「少子化」だとしている。子どもの数が減っているのに合わせて学校の数も減らす必要がある、というわけだ。
しかし、「ほんとうの理由は、学校施設の維持・管理にかかる将来的な財政負担を減らすことにある。子どものことをまったく考えていない」と、山本氏は指摘する。
子どものことを優先していないことは、文科省の「政策転換」にも表れている。1956年11月に当時の文部省(現在は文部科学省<文科省>)は各都道府県の教育長と知事宛に、統廃合を奨励する「公立小・中学校の統合方策について」という「通知」をだした。
しかし、それによって無理な統廃合が各地で強行されて弊害を生みだしたことから、1973年に「無理な統廃合をしてはいけない」という新たな「通知」をだしている。
「この1973年の通知で文部省は、小規模校の利点を認めていました」と、山本氏は言う。
「通知」には、「小規模校には教職員と児童・生徒との人間的な触れあいや個別指導の面で小規模校としての教育上の利点も考えられる」と記されている。子どものことを優先すれば、小規模校のほうが望ましいわけだ。
ところが2015年1月に文科省は、学校統廃合に関する新たな「通知」を発表し、1956年の「通知」を廃止。
そして同時に示した「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引き」で、「小学校で6学級以下、中学校で3学級以下の学校については、速やかに統廃合の適否を検討する必要がある」と小規模校を頭から否定する統廃合の基準を示して、統廃合を奨励している。
こうした統廃合をすすめる政策に文科省が転換した背景には、2014年に総務省が各地方自治体に策定を促した「公共施設等総合管理計画」がある。
人口が減少して税収も減っているなかで、現状のまま公共施設を維持しようとすれば、将来の改修などで財源が不足する可能性が高いので、いまのうちに公共施設を整理削減する計画の作成と実施を、国が地方自治体に求めたのだ。経済的理由で公共施設の整理削減を急がせている。
この公共施設には、学校も含まれている。しかも、「全体の30~65%を占める」と山本氏が指摘するように、公共施設のなかで学校は大きな割合を占めてもいる。効率的に公共施設の整理削減を実行するためには、ターゲットにされやすい対象でもある。そのために学校の統廃合が急速にすすめられている。
効率のいい計画づくりには、ノウハウをもっている経営コンサルタント会社を利用するのが、これまた効率的とされている。
取材・文/前屋毅 写真/Shutterstock
〈プロフィール〉
山本由美(やまもと ゆみ)
和光大学名誉教授。横浜国立大学教育学部教育学科、東京大学大学院教育学研究科教育行政学専攻修士課程を経て、同博士課程満期退学。2010年度から和光大学の教員、現在に至る。2019年から東京自治問題研究所理事長。
著書に『学力テスト体制とは何か~学力テスト・学校統廃合・小中一貫教育~』『教育改革はアメリカの失敗を追いかける』(ともに花伝社)などがある。