海外ロケもリモート立ち合いで? コロナ禍でファッション誌業界も大変化、人気エディターが語る当時の仰天現場事情
海外ロケもリモート立ち合いで? コロナ禍でファッション誌業界も大変化、人気エディターが語る当時の仰天現場事情

2020年から始まったコロナ禍で、対面が多いファッション誌の仕事も大きな影響を受けた。撮り下ろし撮影の減少、海外ロケのリモート立ち合い、インスタ販促ライブの普及……業界の真ん中を駆け抜けてきたファッション誌エディターが当時の現場を振り返る。

 

自身の職業半生をつづったSNS投稿をまとめた書籍『ファッションエディターだって風呂に入りたくない夜もある』から抜粋・再構成してお届けする。

[買い物中にスカウトされ、TV番組出演]

amy_tatsubuchi 2024/03/18
コロナ禍元年、2020年は、周知の通りIGライブの利用者急増。SHIHOちゃんに『エル』のアカウントからメディテーションライブをお願いしたり、企業の販促ライブのキャスティングなども。演者も裏方も、時代が生む新しい仕事にあっという間に慣れてゆく。子どもの授業、私の打ち合わせや会議、お友達とのおしゃべり、自宅トレーニング、青木くんの誕生会まで、すべてオンライン。短い産休の時だって、おしゃれしてでかけられないのが苦痛だった私だけれど、まぁ、1年くらいの我慢でしょ、と初年度はまだ楽観視。3食自炊の日々はスーパーにいく回数が増え、『家、ついて行ってイイですか?』というTV番組に、買い物中にスカウトされ収録。まさか本当に放映されると思ってなかったけれど、いま見返すと子どもが小さくてかわいい。私は職業的に裏方意識が強く、ずっと人前にでるのが恥ずかしかった。FBやIGも「仕事上アカウントがいるから」ぐらいの気持ちでスタートし、ストーリーズにて母に近況報告。でもきっとこの頃から、「ひとに必要とされるうちが華」と、己の寿命を考え始め、少しずつ意識が変わった気がします。

[コロナ禍の夫を回想]

amy_tatsubuchi 2024/03/22
久しぶりに夫を回想してみよう。ウロチョロ活発なうちの夫は、コロナ禍にどうしていただろうか? 年に6回、多い時は8回海外出張にいっていたような生活から一変。最初の頃は「ハイキングにでもいくか!」なんて珍しいことを言ってみたり、BBQおじさんとして励むも、みるみる意気消沈してゆく。

メインベッドルームは私が占拠していて、その手前の小部屋にホームステイの学生風に暮らす彼。TVを自分の部屋用に新しく買って巣づくりを始め、なかなかでてこなくなる。追い討ちをかけるように、2020年8月には義父が亡くなり、覚悟していたとはいえ悲しい1年だった。真面目で無口な義父との思い出があまりに少なく、悲しいけれど泣けない私は、次男の嫁とはいえ至らぬ感半端ない。大きな花輪と共に駆けつけた我が末妹が、なぜか誰よりも号泣という頓珍漢なことになってはしまったけれど、夫の手をずっと握っていたことをおぼえている。あぁ、普段は忙しくてあまり意識しないけれど、夫婦って悲しみをシェアできる相手なんだな。彼が悲しいと私も悲しい。うれしいこと、楽しいことを共有するほうが簡単だからね。慣れない暮らしは2021年も続いていきます。

[メンタル暗黒期、突入]

amy_tatsubuchi 2024/03/23
2021年はコロナワクチン接種が始まり、でも変異株も発見されるもんだから、終わりのみえない疫病の恐ろしさに気持ちが滅入る。懸案の東京オリンピックは無観客開催が決まり、いまいちパッとしないこの1年は、「日本再発見」をテーマにして国内あちこち、人混みを避けながら移動。私、やっぱりコロナ鬱だったのかな?どこまでがコロナ鬱で、どこからが更年期だか?線引きが難しいここからの数年は私のメンタル暗黒期。お正月はニセコで家族スキーをして、毎年恒例の節分、夫の誕生日…と家族行事と仕事で、春まではあっという間。

寒さが苦手で外出も控え、毎晩自宅で焚くキャンドルと涙の数は増えるばかり…。婦人科、精神科、コーチング、考えられる扉は全部たたいたけれど、解決の糸口は全くみつからず。筋トレ、ウォーキングとエクササイズを増やし、新しい仕事にチャレンジしたり、自分なりにもがいていたのではないか、と推察いたします。それでも写真だけみると楽しそうだから、ひとの真実の姿はわからぬものよ。

[仕事もプライベートもガシガシと]

amy_tatsubuchi 2024/03/28
暖かくなると次第に元気を取り戻す私。夫は新しい仕事の件で弾丸パリ出張が入り、いそいそしていた2021年の春から夏。たいした趣味もなく「仕事は自己表現」の彼には、長く働いてもらわないと一気に老けてしまいそう…とコロナ禍にて新発見。リモートワークも定着したし、海外ロケだってリモート立ち合いって…約束通りに進行しているか確認はできるけれど。うーん、しっくりこないこの感じ。鎖国日本でのモード誌編集者の仕事の醍醐味って、何でありましょうか?例年通りの長い子どもたちの夏休みは、直島にアート旅と、白馬に家を借りてしばらく暮らすように過ごした。ダイナミックな自然遊びが魅力的なこの地にて、昼間は湖やキャニオニング、川遊びやサイクリング、夜は花火にオリンピック観戦など、日本の夏を満喫。きっとこのまま体調もメンタルも右上がりになるはず!と、年内予定は仕事もプライベートもガシガシ入れて突き進む。立ち止まってしまうと、キャンドル焚きまくって毎晩「底の自分」。

11月にはオフ-ホワイトのヴァージル*が亡くなり、彼と親交の深かった夫と友人たちは衝撃に包まれる。

*オフ-ホワイトのヴァージル…ファッションブランド「オフ-ホワイト」の創設者でありデザイナー。2018年から2021年までルイ・ヴィトンのメンズウェアのアーティスティック・ディレクターも務めた。(1980~2021年)

[スタイリストの第三勢力]

amy_tatsubuchi 2024/04/10
2022年までのコロナ禍においての業界変化をざざっと振り返る。紙の雑誌の縮小傾向は進み、外資系モード誌は各国のビジュアルシェアが増え、国内撮り下ろし撮影は少なくなった。女性人気スタイリストは、黒子に徹する職人気質のモード誌系、芸能人やモデルと絡みながらセルフプロデュースもしっかりする赤文字系。大きく2派に分かれていたが、いずれも小さなページから徐々に頭角を現し、雑誌のスタイリングだけでも十分な収入を得られるほどに。ところが撮影はぐんと減り、IGライブで第三勢力が登場、それは1980年生まれの百々千晴さん。業界的にはすでに知られたスタイリストではあったが、一切の媒体やファッション話とは無関係に、本人アカウントのおもしろトーク、かわいい顔と素のギャップ萌えで大ブレイク。まさに個の時代を体現する人間力のなせる技か。気取らずおしゃれだし、長い脚にジーンズがよく似合う。何回か仕事も一緒にしたことがあるが、あの笑顔と喋り方は独特の癖があり後を引く。彼女以前と以後、スタイリストのありようは変わっていくのではないか。

メディアは最初の準備体操で、そこから自分の人生を文字通りスタイリングする。リスクテイカーが輝く時代。

文/龍淵 絵美

ファッションエディターだって風呂に入りたくない夜もある

龍淵絵美
海外ロケもリモート立ち合いで? コロナ禍でファッション誌業界も大変化、人気エディターが語る当時の仰天現場事情
ファッションエディターだって風呂に入りたくない夜もある
2025年3月5日発売2,200円(税込)四六判/288ページISBN: 978-4-7976-7460-6

モード編集者歴30年のエイミーこと龍淵絵美が、自身の編集者人生を振り返って綴る泣き笑いキャリア物語。1日約500ワード、日記形式で綴られる新感覚エッセイがここに誕生!
「許せない!」「負けたくないの」おしゃれの最先端をいくモード誌編集部に怒号が響く…。
時は平成、東京某所。物語は、ファッションが大好きな少女だったAmyが、小さな出版社に入社するところから始まる――。日本のモード界を牽引してきた女侍(ファッションエディター)たちの汗と涙の群像劇。
世界中の女の子が一度は憧れるキラキラした世界の裏側では、プライベート(結婚・出産・子育て)と仕事の両立に苦悩する女たちの、ドタバタと映えない日常があった…!?

Threadsで話題沸騰の連載「#モード編集者日記」を書籍化! !

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