〈外野席でも1万円超〉高額化が止まらないプロ野球チケット…球団は収益アップもライト層からは悲鳴があがる「ダイナミックプライシング」の功罪
〈外野席でも1万円超〉高額化が止まらないプロ野球チケット…球団は収益アップもライト層からは悲鳴があがる「ダイナミックプライシング」の功罪

プロ野球の観戦チケットが高すぎる……。野球人気の向上、物価高騰、ダイナミックプライシング(価格変動制)などによりその価格は値上がりの一途をたどり、ファンたちは悲鳴をあげている。

プロ野球はもはや庶民の娯楽ではなくなってしまったのか?

一般化するダイナミックプライシング

ひと昔前のプロ野球観戦といえば、基本的にはふらっと球場へ行って安価で楽しめる手頃な娯楽だった。しかし、それも過去の話。

近年のコト消費への需要拡大や、大谷翔平の活躍による野球人気の向上、何よりも物価高騰の影響で、チケット料金の高騰が止まらない。
都内の食品会社で働く長年のプロ野球ファンAさん(30代男性)がため息まじりに話す。

「数年前までは平日で人気のない試合の安い席なら1500円もせずに入れていたので、仕事帰りなどによく神宮球場に通っていました。ですが、今シーズンは同じ条件でも4000円を簡単に超えてくるんですよ……」

たとえば神宮球場を本拠地とする東京ヤクルトスワローズのチケットサイトを確認すると、初期販売価格は試合日程に応じて4つのカテゴリーに分かれており、その中で見切れ席を除いてもっとも安価なのが「スーパーバリュー」カテゴリーの外野C3指定席で、料金は2400円(大人/一般、以下同)だ。
それがなぜ倍近くの料金となってしまうのか。ある野球ライターが解説する。

「それは『ダイナミックプライシング』(DP)という、需要に応じて料金を変動させるシステムを導入しているからです。

DPは限りある日程と座席数において企業側は収益を最大化できるとして、プロ野球だけでなく、多くのプロスポーツで普及しつつあります。

プロ野球では2017年に福岡ソフトバンクホークスが一部の試合で導入したことを皮切りに、現在12球団中8球団がDPを採用しており、日本ハムやロッテのように初期販売価格がまったく設定されていないケースもあるんです」

外野席で1万円超え…

平日ですら2倍近く料金が値上がりしているということは、多くの人の来場が予想されるゴールデンウィーク中の試合はどうなってしまうのか。

「神宮球場で4月29日の昭和の日に開催されるヤクルト対DeNAの試合の料金をチェックしてみると(4月21日時点、以下同)、初期販売価格4300円のホーム外野C1指定席がなんと1万2000円という料金になっています」(前出、野球ライター)

レギュラーシーズンの1試合で外野席が1万円超という料金には驚くしかない。一方、価格が変動するということは、反対に需要が低い試合に対しては安くなるのではないか。

「それに関してはほとんど期待できなそうです。

というのも比較的、残りチケット枚数に余裕がある6月17日(火)のヤクルト対楽天戦のホーム外野C3指定席を確認してみると2400円が4500円に。この日はビール半額デーであるとはいえ、やはり現段階でも初期販売価格よりかなり高くなっています。

今回はヤクルトのチケット価格を例に挙げていますが、5月3日(土)のみずほPayPayドームのソフトバンク対ロッテ戦の外野スタンド(初期販売価格3400円)が6000円近くになっていたりと他球団に関しても状況はそう変わらない。DPは企業にとってはおいしい制度ですが、ファンからの評判がよくないのは間違いないようです」(同)

DPはチケットの発売直後など早い段階で購入すれば影響は大きく受けない(初期販売価格が設定されている場合)が、そのタイミングで購入できるのはファンクラブの上級会員などのコアな層で、野球に興味を持ったばかりのライト層は現状、通常よりも高額な料金でチケットを買う確率が非常に高い。

球団にもいろいろと事情はあるとは思うが、それは果たして本当に球界のためになるのだろうか。

ビールも1杯900円に

前出のAさんも再びこう嘆く。

「私の場合は、当日、その日の仕事の状況を見て行けそうだったらチケットを買って球場に行っていた。これだと今は、もっとも高い状態で購入しなくてはならない。

しかもビールも1杯900円はするでしょう?もう会社帰りに仕事の気晴らしでは球場に行けないですよ。試合内容よりも、高い料金を払っているという現実に、逆にストレスがたまってしまいそうで……(苦笑)」

今シーズンから多くの球場で生ビールが1杯900円へと価格改定され、フード類も軒並み値上げをしている。

そもそもチケットの初期販売価格でさえ、毎年値上がりは止まらない。今年の神宮球場の最安値チケットが2400円と先述したが、2019年のもっとも安いカテゴリーの外野自由席価格は1400円だった。

この6年で1000円も高騰しているのだ。

ある父親は「小学生の子供が大谷くんの活躍を見て野球に興味を持ったので初めて球場観戦することになったんです。でも、家族3人で交通費や飲食代を含めてトータル5万円近くになってしまった。できれば内野の見やすい席で見せてあげたいですが、こんなに高いと1年に1回行くのがやっとですね(苦笑)」と観戦のハードルの高さを指摘する。

2024年のセ・パ公式戦の観客動員数は前年度比6%増の2668万1715人と史上最多となった。しかし、今シーズンのここまでの12球団の平均観客動員数は3万673人と、去年のシーズン終了時点の平均観客動員3万1098人をわずかばかり下回っている。

まだ書き入れ時のゴールデンウィーク前とはいえ、止まらぬ観戦料金の高騰に辟易しているファンが多いのは事実。これ以上、プロ野球観戦が富裕層の道楽とならないことを祈るばかりだ。

取材・文/集英社オンライン編集部

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