
Xなどの美容情報を発信するアカウントの間では、最近「マンジャロ」というワードが流行している。これは2型糖尿病の治療薬として用いられている皮下注射薬の名だ。
なぜ糖尿病治療薬がヤセ薬として流行?
そもそもマンジャロとは具体的にどういった薬なのだろうか。
「マンジャロは『2型糖尿病治療』のための薬で、インスリンの分泌を促進し、食欲を抑制することで、血糖値のコントロールを助け、体調管理をサポートしてくれます。
体重減少効果のほかに、腎臓や心臓などの臓器を保護する作用があり、糖尿病の合併症を防ぐ効果があります」(青木医師、以下同)
青木医師によると、医療業界では数年前から糖尿病治療薬として使われ始めたというマンジャロだが、最近ではなぜ“ヤセ薬”として流行しているのか。
「以前から『GLP‐1ダイエット』というものが医療・美容業界で流行しており、これは薬の作用で食欲を抑えることで食事量を減らし、減量へと導くダイエット法になります。
マンジャロは本来、糖尿病治療薬であるものの、現在一部の美容クリニックなどではGLP‐1ダイエット目的(瘦身目的)での適応外の処方がされている状況なんです」
このような経緯で現在、主に若い女性の間で、マンジャロのダイエット目的での適応外使用が目立っているということなのだ。
マンジャロの製造販売元である製薬会社のイーライリリーは「マンジャロ皮下注アテオス適正使用のお願い」という使用方法の注意をまとめた文書のなかで、適応を2型糖尿病患者に限定している。
また、日本医師会や日本糖尿病学会も、マンジャロをはじめとしたGLP-1受容体作動薬のダイエット目的での処方や使用について「不適切」としており、健康被害の可能性があるとして注意喚起の声明を出しているのだ。
SNSでは「死亡例もあるから気軽に使用やめて」との声が……
そして痩身目的でのマンジャロ使用について、Xではこのようなポストもみられる。
≪マンジャロ流行ってるみたいだけど、ただの糖尿病治療薬で死亡例もあるので若い女の子が気軽に使用しないほうがいいです…体に悪い。元看護師より≫
≪また港区で一人の女性がマンジャロで亡くなった≫
こういった死亡例について、その真相を青木医師に聞いてみた。
「マンジャロを痩身目的で使用することはおすすめできません。適応外の肥満症の治療として使う場合も、基本的に肥満のBMI値(体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数)である25以上の方に使う薬になります。
日本人の理想的なBMI値(体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数)は22と言われていますが、この値を下回っている女性がマンジャロを体内に注射することは非常に危険で、最悪の場合は命に関わります。
本来やせる必要のない体型にもかかわらずマンジャロを投与し、体重がどんどん減っていくと、体に十分なエネルギーが供給されなくなって、月経が止まってしまうなどの健康被害に見舞われます」
また青木医師によると、マンジャロには摂食行動を促す視床下部に作用し、食欲を抑える効果もあるというが、これも健康上の大きなリスクをはらんでいるという。
「マンジャロの食欲抑制効果が強く出始めると、空腹を感じる状態が少なくなり、食事をとらなくても平気であると勘違いしてしまう方がいるのですが、こうした状況は拒食症を引き起こしてしまう危険なサインなんです。
拒食症は、生きるために食べなければならない状態なのに、食べることを拒んでしまうことで、命を落とすこともある怖い病です。マンジャロは、ただやせて綺麗になれるという薬ではなく、こうしたリスクもあるということはもっと理解されなければならないと思います」
求められる美容クリニックでの処方制限
では、本来であればやせる必要がない人々にもマンジャロを処方している美容クリニック側の責任はないのだろうか。
「美容目的でのマンジャロは自由診療となっていて、特に処方制限などはありません。現状クリニック側での独自の制限などを設けているところもありますが、患者から要望があれば処方するところが多く、患者自身の体調管理にまで気を遣っていないことがほとんどです。
マンジャロによる事故を防ぐのであれば、処方するBMI値に制限を設けるなど、何かしらの法的な対策が必要でしょう。
例えば、一般的に肥満体型と言われるBMI値である25以上の人にしか処方しないなどの処方制限を設けることで、患者本人の使用方法の過ちによる死亡事故などは防げるはずです」
――糖尿病に対して承認を得た薬であるマンジャロ、食事制限せずやせられると知れば、多くの人が興味を持つことは明白だが、SNS上の過度な美容基準に惑わされることなく、不適切な使用はやめるべきだ。
取材・文/瑠璃光丸凪(A4studio)