
旧ジャニーズ事務所、裏金問題を抱える自民党、フジテレビなど日本の名だたる組織が崩壊の危機に直面した近年。いわゆる日本型組織と呼ばれる組織の構造が終わりを迎えつつあるとされている。
経済学の博士号を持ち日本人論、組織論に詳しい太田肇氏の著書『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったのか』より一部を抜粋・再構成しダイハツ工業にみる官僚制組織と言われる官庁を基に発展した組織の問題について明らかにする。
ブラックボックス化した組織風土──ダイハツ工業
大企業のなかにはパナソニックやソニーのように、カリスマ的な企業家がつくった組織が成長し、巨大企業として今日にいたるまで存在し続けているケースが少なくない。
いっぽう、創業者の影は薄く、いわば内発的に強固な組織が形成され、独り歩きしているケースもある。それが官僚制組織である。
官僚制はもともと官庁の組織だが、民間企業や政治の世界でも同様のメカニズムで発達し、局面が変わると、こんどは内発的すなわち内側からのほころびによって組織崩壊の危機に立たされる場合がある。
その1つが、2023年4月に発覚した自動車メーカー、ダイハツ工業の認証試験不正問題である。
同社では同年4月に4車種で認証不正があったことを公表し、社内調査の結果さらに2車種についても不正があったことを5月に公表した。
同年12月に提出された第三者委員会の報告書によると、4月、5月に公表された件以外にも、衝突時のエアバッグ作動をエアバッグのセンサーではなくタイマー着火させる方法で試験実施したり、試験成績書の燃料注入量欄に試験データとは異なる虚偽の情報を記載して認証申請を行ったりするなど、新たに64車種・計25試験項目、174件に及ぶ不正を行っていたことが明らかになった。
1907年に内燃機関の国産化を目指して設立されたダイハツ工業は、軽自動車の販売台数では2022年まで17年連続で首位の座を維持した、日本を代表する軽自動車メーカーである。
なお同社は2016年からトヨタ自動車の完全子会社になっている。そのダイハツ工業で大規模な不正が行われていたのだ。
「官僚制組織の逆機能」
不正が行われた原因や背景として、タイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー、現場任せで管理職が関与しない態勢、不正やごまかしを行ってもみつからないブラックボックス化した職場環境などがあげられている。
また真の原因として、踏み込んだ実態把握を行わないなどリスク感度の鈍かった経営幹部の責任を追及するとともに、つぎのような開発部門の組織風土が指摘された。
① 現場と管理職の縦方向の乖離に加え、部署間の横の連携やコミュニケーションも同様に不足していること。
② 「できて当たり前」の発想が強く、何か失敗があった場合には、部署や担当者に対する激しい責や非難がみられること。
③ 全体的に人員不足の状態にあり、各従業員に余裕がなく自分の目の前の仕事をこなすことに精一杯であること(ダイハツ工業株式会社第三者委員会調査報告書、2023年12月20日)。
なお組織風土に関しては、国土交通省が2024年に出した是正命令でも、上司への意見を抑圧する組織風土の一掃が求められている。
ここで指摘されている①や②、とりわけ①の組織風土こそ、世にいう「官僚制組織の逆機能」そのものである。
もう1つ注目しておきたいのは、海外開発プロジェクトが増えて、「まだまだ未熟な現地開発者をフォローしながらなんとか力業で乗り切った日程が実績となり、無茶苦茶な日程が標準となる」(前掲、第三者委員会調査報告書)という社員の言葉だ。
さらにつけ加えておきたいのは、親会社であるトヨタ自動車との関係だ。
前述したようにダイハツは2016年にトヨタ自動車の完全子会社となったが、親会社であるトヨタ自動車や豊田自動織機などトヨタグループで2023年以降、国の認証試験をめぐる不正がつぎつぎと発覚している。
このことは企業グループそのものもまた1つの官僚制組織であり、そこでは不正の温床となる組織風土も共有されていることを強く印象づける。
写真/shutterstock
日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか
太田 肇
旧ジャニーズ事務所の性加害事件や、ダイハツ、ビッグモーター、三菱電機、東芝などの企業不祥事、自民党の裏金問題、宝塚、大相撲のパワハラ、日大アメフト部の解散、そしてフジテレビ…、近年、日本の名だたる組織が次々と崩壊の危機に直面した。
そこには共通点がある。「目的集団」であるはずの組織が、日本の場合は同時に「共同体」でもあったことだ。
この日本型組織はなぜ今、一斉におかしくなってしまったのか? 日本の組織を改善させる方法はあるのか?
組織論研究の第一人者が崩壊の原因を分析し、現代に合った組織「新生」の方法を提言する。