〈婚活の新トレンド〉私たちが“音声配信婚”した理由「恋愛目的でないから自然体でいられる」「短時間でたくさん相手を知れる」
〈婚活の新トレンド〉私たちが“音声配信婚”した理由「恋愛目的でないから自然体でいられる」「短時間でたくさん相手を知れる」

マッチングアプリや街コン、オンラインお見合い…。日本の婚活市場は年々拡大し続け、その出会いメソッドも多様化されている。

そんななか、珍しい方法で結婚に至るカップルも存在する。お互いの顔を知らないまま”声のみ”で恋に落ちる「音声配信婚」だ。 

一体どのようにして出会うのか、声だけで人を好きになる心理は? 音声配信アプリがきっかけで結婚したふた組の男女に話をきいた。 

音声をきっかけに結婚した2組の夫婦

柴崎奈々子さん(仮名・30代)は、音声配信アプリがきっかけで出会った彼と結婚。出会いはX(旧:Twitter)がきっかけだった。

「Xで一方的にフォローしていたAさんという方がいて、その方がよく部屋(配信者同士で話しができるトークルーム)をつくって喋っていたんです。その部屋では映画や本、漫画などの趣味の話をしたり、他愛もない雑談をしていました。そのAさんの部屋には、常連の男性配信者がいたんですが…」

その男性もAさんのフォロワーで、顔は見えないものの、声の雰囲気や話す内容から控えめで優しい人だなと好感を持っていた菜々子さん。

「人と話すのは好きだけど、自ら前にぐいぐい出るタイプじゃないところが自分と似ていて、いいなあって。彼もわたしも部屋をつくることがあったので、お互いの部屋に遊びに行って、話すということが何か月か続いたんですが、彼と話しているとすごく気が合ったんです」

男性のXのアカウントと音声配信のアプリが紐づいていたので、菜々子さんは彼のXのアカウントをよく眺めるようになっていた。何気ない日常の悲哀を投稿する彼の投稿が好きだったと当時を振り返る。

「お互いにフォローし合ってたけど、直接やり取りをすることはなかったんですよね。そんなある日、彼が『DVD を見たいんだけど DVDプレイヤーが家にない』っていう投稿をしてて。

ちょうど捨てようと思っていたDVDプレイヤーがあったから、渡すためにすぐ連絡をして会うことになりました」

彼の住んでる最寄り駅がさほど遠くないことがわかり、DVDプレイヤーを抱えて初めて対面することに。

第一印象はどうだったのか?

「正直言うと見た目はそれほど、タイプじゃなかったんです。彼と出会うまでマッチングアプリをやっていたんですけど、もしそこで表示されても、いいねするかわからなかったですね。まぁ、そもそも私はアプリ上で男性を見極める力がなかったんですけど(笑)。実際に会った彼は、アプリで話しているときの雰囲気となにも変わらず安心しました」

せっかくの初対面ということで居酒屋に行き、いつものように他愛もない話で盛り上がった。次に会う約束をして、その後コンスタントにデートを重ねたが…。

ありのままの自分でいられる

「3回目のデートの時に、彼のテンションが後半から下がり始めたんです。私はなにか気に触るようなことをしたのかなと不安でした。でも、はっきりとした理由を聞けないまま、次回のデートが誘いづらくなり、しばらく会わなくなったんですね」

それから連絡も取らないまま、2か月ほど経った年末のある日。友人との忘年会帰りで新宿駅を歩いていた時のことだ。

「溢れる人混みのなかに、『あれ? 見たことある人が…』と思ったら、彼がいたんです。お互い『あっ』って目が合って(笑) 彼は5~6人ぐらいでいたんですけど、周りがざわついて、気を利かせてくれたのか二人きりになりました。そこで、次に会う約束をしたんです」

年末に運命的な再会を果たし、そこからまたふたりは会うようになったという。

しかし、なかなか恋愛への進展はないままで、もやもやしながら過ごしていた。

「だいたい散歩デートかたまに映画を観るとかで、手を繋ぐとかも一向にありませんでした。どう思ってるのかなと思いながら、進展があったのは7回目のデートを迎えた時。その日は暑い真夏日で、高円寺の沖縄料理屋で飲んでました。そしたら彼が『一緒に住んで結婚してくれませんか』と突然プロポーズしてきました。わたしはその場でOKの返事をして、そこから、2か月後に同棲を始めることになったんです」

ふたりの関係はとんとん拍子で話は進み、翌年の5月に入籍をした。これまでにもマッチングアプリなどを使っていたが、交際まで至らなかった菜々子さんが、音声配信の魅力についてこう語る。

「恋愛目的のプラットフォームじゃなかったのが、逆に結婚に繋がったのではないかと思いました。結婚相談所やマッチングアプリは、結婚や恋愛を目的とする場なので、相手に好かれるために自分をよく見せないといけない。でも音声配信はありのままの自分で話せて、気負いしないでいられる。自然な自分でいられるのも大きいかなと思います」 

話し方でわかる“人となり”

一方、「僕は自分のリスナーの女性と出会い、結婚しました」と話すのは、都内在住の吉川敏明さん(仮名・40代)だ。吉川さんはPodcastで音声配信をしている。

「基本はゲームにまつわる配信なんですけど、雑談的なことも配信してて。あとはホットなニュースに対して、リスナーからコメントをもらう企画をしたりもしていました。ある時、ひとりの女性がゲストで音声出演してくれたんです」

その女性はいつもXでDMをくれていたリスナーの1人だった。音声のみなので、もちろん顔もわからない。

「しかも、彼女は当時、既婚者だったんですよね。普通に、“リスナーの女性のひとり“ぐらいに思っていました」

ある日、都内で吉川さんのPodcastのリスナーを集めたオフ会が開催された。お店には10~20人ぐらいの人が集まったという。

「その時に、以前、ゲストとして音声出演してくれた彼女がいたんです。実際に対面してみたらすごく綺麗な人で『え、この人だったの!』って驚きました。話もかなり意気投合して盛り上がりましたね』

しかも驚いたことに、既婚者だったはずの彼女は離婚をして独身になっていた。奇跡のタイミングでの初対面。その日を境にふたりは毎日LINEをするようになっていく。

「当時、会社から家に帰るまでに2駅歩くという日課があったんですけど、歩いてる間にいつもLINEで通話をしていました。彼女とは好きなラジオ番組など、趣味や共通点も多かったので、とにかく話すのが毎日楽しかったです」

彼女の住まいが大阪だったこともあり、なかなか会えないふたりはLINE通話で毎日話した。ほどなくして吉川さんからのアプローチで遠距離交際がスタートする。

「僕は埼玉の実家に暮らしてたんですけど、その周辺で安くて広い賃貸物件を見つけたんです。ちょうどいいと思って、『引っ越してきたら?』と誘いました。そこから出会って1年余りで入籍しました。僕も離婚歴があって、お互いがバツイチ同士。結婚に対して、大きな期待や特別感もないから、自然な流れで入籍できたんじゃないかなと思います」

そんな吉川さんがPodcastで結婚に至った理由は、「情報量」だと言う。

「1度の配信で1時間以上話してるから、やっぱりその人を知る情報量が多いと思います。普通の恋愛だと、少しずつ相手のことを知ってから、交際に発展するというプロセスが多いじゃないですか。

音声配信だと、“人となり”が話し方からなんとなくわかりやすい。しかも、職場で見せる顔と違い、非常にプライベートな思いつきや趣味なんかを話してるから、リスナーとの心理的距離感も近いんですよね」

既に開示されているプロフィールや顔写真から相手を選ぶことが大半の現代の婚活。

しかし音声配信では、顔を見ることなく、「声の雰囲気」や「話題」から相手を知ることができる。

今後は、恋愛や婚活目的の音声配信プラットフォームが増えていくかもしれない。

取材・文/桃沢もちこ

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