
川崎市川崎区で失踪した岡崎彩咲陽(あさひ)さん(20)が遺体で見つかり、発見現場の家に暮らし彩咲陽さんにストーカー行為をしていた同区の無職・白井秀征容疑者(27)が死体遺棄容疑で逮捕された事件。失踪は白井容疑者による拉致だと捜査を求めていた彩咲陽さんの家族に向かって、警察官が「事件の証拠をでっち上げた」と非難する発言をしていたと、家族を支援してきた元兵庫県警刑事・飛松五男氏が証言した。
父親は「自分の家に連れて帰ってやりたい」
「初動に問題があったどころではない。警察官の資質の問題です。行方不明者届が出れば、その人が傷つかない状態で少しでも早く家族のもとに帰れるよう誠心誠意努力するのが警察官でしょう。ボランティアではない。給料をもらっているプロなんですから」
怒りを込めて川崎臨港署の対応を批判する飛松氏は、4月から彩咲陽さんの父親らとともに捜査を働きかけてきた。
「昨年12月20日に彼女が行方不明になった後、家族は探偵に依頼して白井の動向を調べたり、直接白井に会ったりするなど、あらゆる手を尽くしてきました。『それでも警察が動いてくれない』と、彩咲陽さんのおばあちゃんがある記者に相談し、そこから私に話が来たんです。
彩咲陽さんのお父さんと会ってすぐに白井の家を見に行きました。状況から、彼女は拉致され、白井の家に監禁された可能性が高いと判断できました。そして、厳しい結果になっている可能性があると話したのです。
するとお父さんは『自分もそう思う。なぜなら携帯電話での連絡も取れないから。
娘の安否について希望を失っていた彩咲陽さんの父親はそれでも、「あんなとこ(白井の家)に娘を置いておいたらかわいそうだ。自分の家に連れて帰ってやりたい」と口にし、精力的な捜査を望んできたという。
「白井はその時点で出国したとの情報がありました。『このままでは捜査はなされず、白井は一生海外から帰ってこない。強い意志で警察に捜査を促そう。そのためには批判するだけでなく、さまざまな方法を取っていこう』というのが(私とご家族の)共通の思いになったのです」
「ガラスを割ったのは家族では」と相手にせず
家族がその時点で川崎臨港署に対して態度を硬化させていたのもやむを得ないことだった。
交際時から彩咲陽さんに暴力をふるい、別れた後も連日付きまとい行為をしていた白井容疑者は、彩咲陽さんの失踪と同時に現れなくなっていた。署は家族から聞いてこの状況を理解しながら、ストーカー犯罪を疑うことを避けるような動きを見せてきたからだ。
彩咲陽さんが祖母宅から姿を消した2日後の12月22日に、一階の窓ガラスがバーナーで焼き切られたように割られ、何者かに侵入された形跡があるのを家族が見つけ、捜索願(行方不明者届)を出している。しかし現場に来た川崎臨港署の女性刑事は「事件性はありませんね」と言い、証拠の採取もしなかったという。(♯3、♯4)
だが飛松氏は、それ以上に不可解な言動が警察官にあったと証言した。
「捜査を求める家族に対して警察官は、理由も言わずに事件性がないと言い続け、『もし事件だったら自分は警察を辞める』というタンカまで切ったといいます。さらに、ガラスは内側から割ったもので、捜査をさせるために“偽装工作”をしたのだろうという趣旨のことを、家族に向かって言ったというのです。
この言葉は他の場所でも聞きました。あるキー局の記者によると、署の幹部は捜査をしないのかと聞かれて『家族が(ガラスを)割ったんや。偽装工作しとる。あんたら(マスコミ)が扱うような事件じゃない』と答えたというのです。
それだけではありません。家族は彩咲陽さんの手掛かりを少しでも得ようと情報提供を呼び掛けるビラを配ることも考えましたが、署は『出すな』と制止し、その理由も説明していません」
警察は12月22日から3月の終わりにかけて7回白井容疑者に任意の聴取をしたと説明するが、彩咲陽さんの居場所をつきとめることも、犯行を止めることもできなかった。
4月30日になってようやく県警は白井容疑者の自宅を強制捜査し、遺体が見つかった。それまで飛松氏や家族は、知り合いの議員に事件を知らせ、署の担当警察官とも面談してきた。その過程で飛松氏は、担当警察官が遺族に「彩咲陽さんは失踪から4日後の昨年12月24日に“特異行方不明者”になっている」と伝えていたことを知ったという。
「特異行方不明者とはただの家出人ではなく、生命や身体に危険が及ぶ可能性が高いと判断される行方不明者で、県警本部長に報告があがる案件です。そのような扱いになっているのだとすれば、当然、今回の問題は厳格に対処しなければならないぞと担当警察官に要求しました」
「事件だったら警察を辞める」と言った警察官は…
県警が本当に特異行方不明者として扱ったのか、もしそうならなぜ川崎臨港署の動きはこれほど慎重だったのか、不審なことは多い。
遅きに失した白井容疑者宅の家宅捜索で見つかった遺体は一部が白骨化し、無残に焼かれた跡もあった。
「お父さんと僕がその警察官に『なぜ事件性はないと言ったのか、説明してくれ』と質しましたがまともな答えはありませんでした。『事件だったら警察を辞める』とかつて言ったその警察官に対して、彩咲陽さんのお兄さんは『どう責任をとるのか』と迫っていました。警察官は青い顔をしてじっとしていました」
なぜ川崎臨港署は積極的な捜査を避け続けたのか。
「今回の事件について一部では『白井と彩咲陽さんがもともと交際していた経緯があるので捜査の判断が難しい面もあった』という解説も聞かれますが、これは全然違う。行方不明者が出たら、まずは現場に来て状況を丁寧に見なければなりません。家族は自宅のガラスが割られたことが、彩咲陽さんが姿を消したことと関連があると伝えたのに、取り合ってもらえなかった」
神奈川県警は5月3日、逃亡先の米国から帰国した白井容疑者に羽田空港から任意同行を求め、事情聴取先の県警本部で逮捕した。
さらに彩咲陽さんと白井容疑者の問題に絡む対応を公に説明。「必要な措置を講じていた」との見解を示し、ストーカー被害の相談については「受けていた認識はない」と説明した。
だが彩咲陽さん側からは去年6月から白井容疑者との問題に絡む通報が始まっており、12月だけで拉致される20日までの間に川崎臨港署に9回電話をかけていたことがわかっている。県警は署の対応が適切だったかどうかについて「今後の捜査で解明をし、確認をしたい」と説明している。
川崎臨港署はなぜ積極的な捜査をしてこなかったのか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班