「批判は来る。でも覚悟を決め抗議をやってます」県警の責任問う彩咲陽さん遺族、いっぽう失踪3か月後に刑事は「これはヤバい」と現場で口をスベらせていた〈川崎・20歳女性死体遺棄〉
「批判は来る。でも覚悟を決め抗議をやってます」県警の責任問う彩咲陽さん遺族、いっぽう失踪3か月後に刑事は「これはヤバい」と現場で口をスベらせていた〈川崎・20歳女性死体遺棄〉

ストーカー被害に遭っていた川崎市川崎区の岡崎彩咲陽(あさひ)さん(20)が遺体で見つかった事件は、家族が川崎臨港署に「ストーカー男を調べてほしい」と伝えていたにも関わらず最悪の結果となった。家族や知人はこれまでの対応の詳細を明らかにしてほしいと署に抗議を続けている。

親族の一人は、4月上旬ごろに署が事態の深刻さをようやく認識したことをうかがわせる場面を見たと証言しながら、彩咲陽さんを救えなかった警察の責任を問うため家族は覚悟を決めていると語った。

遺族に「警察にあんな抗議するより他にすることあるだろ」という声が…

「応援してくれる人だけでなく批判も来ます。『警察にあんな抗議するより他にすることあるだろ』という声もいっぱい来てます。これからもっと来るでしょう。でも私たちは覚悟を決めているんです」

毅然とした表情で語るのは彩咲陽さんが勤めていた飲食店を経営する祖母の姉・Aさんだ。

昨年12月20日朝、祖母の家から彩咲陽さんは行方不明になった。当時、川崎区の白井秀征容疑者(27)=死体遺棄容疑で逮捕=が連日つきまとっていたため、家族は川崎臨港署に「白井が拉致したと思う」と訴えたが、警察官は「事件性はない」と言い続けたと彩咲陽さんの父親(51)は主張する。

4月30日になってようやくストーカー規制法違反容疑で白井容疑者の自宅を捜索した神奈川県警は、バッグに入った遺体を発見。5月3日に遺体は彩咲陽さんと確認され、逃亡先の米国から帰国した白井容疑者が逮捕された。

遺体は焼かれ白骨化していたが、発見が伝えられた5月1日には家族は彩咲陽さんだと確信。同日、そして身元が確認された3日にも友人らとともに川崎臨港署を訪れ、「事件性はない」と言い続けた根拠などをただそうとした。1日は50人前後が、3日は90人程度がこの抗議に加わった。

「1日は担当した生活安全課の警察官に説明を求めようと、部屋がある2階に上がろうとしましたが署員に阻止されました。

3日も満足な説明はありませんでした」(Aさん)

彩咲陽さんが無残に亡くなったことで家族や友人は怒りから「お前ら(警察)が殺したんだろ」とも声をあげた。

「署のカウンターのそばまで行った人はスマホでその様子を外に“中継”したんです。その動画を見たネットユーザーは、被害者を助けられなかった警察の対応への批判と、警察に対する抗議への否定的な見方に意見が割れました。

後者には『これだけ人数がいるのなら家族らが容疑者を直接シメればよかった』と、遺族を愚弄するような内容もあります。ほかには抗議の激しさに拒否反応を示すような意見もありました」(地元記者)

「これまで白井の家を訪ねたり電話で接触したりしてきた」

だが家族は、警察だけでなく白井容疑者やその家族からも彩咲陽さんのことを聞き出そうと試みている。

「彩咲陽ちゃんの父やきょうだいは白井の家を訪ねたり電話で接触したりしています。でも白井の母親がすごい剣幕で怒鳴って警察を呼んだり、白井が逃げ続けたりしたんです。

だから警察に『あなたたちにとったら何百件も扱う事件のうちの1件かもしれないけど、私たちには彩咲陽の生死がかかっているんです。仕事かもしれないけれど、親の気持ちになって捜してください』と言い続けたんです。でもこんなことになった」(Aさん)

家族を支援し、抗議にも同行した元兵庫県警刑事の飛松五男氏は「副署長や担当警察官が姿を見せず、対応した署員が『わかりません』と言い続けたので(家族らの)声が大きくなったのは確かです。でも暴力的なことは起きていません」と話す。

5月3日の家族の抗議の直前に神奈川県警本部が、彩咲陽さんが行方不明になった後に白井容疑者に任意で7回聴取を行なっていたとし、「必要な措置を講じてきた」と説明していた。

これに対し抗議の途中に署の外で記者団の取材を受けた彩咲陽さんの父は、「嘘だらけなんで。

ほんとどうしようもない。うちの娘はここで殺されたのと一緒だから」と憤りを爆発させている。

警察庁長官は「通達の趣旨に沿った対応がなされたか」

彩咲陽さんが姿を消した2日後の12月22日に、祖母宅の1階ガラス窓が割られ鍵が開いているのが見つかっている。家族によると、この日通報を受けて現場に来た警察官は「事件性がない」と言い、写真撮影も指紋採取もしなかったという。

これに対し県警は、指紋採取は今年1月7日に行なったと説明し、当日実施しなかったことを認めている。だがAさんはこの説明に不信感を隠さず重要な証言を始めた。

「正月明けに警察が祖母の家に来た記憶はありません。それはもっと後です。私たちは川崎臨港署の生活安全課の対応が信じられず、ほかの刑事に取り次いでくれと求めました。

そこで生活安全課の担当警察官を通じて刑事課強行係の刑事さんと連絡が取れたんです。その人は当初『生活安全課から回ってきた資料を見ると事件性はないとなっています』と言っていたんですけど、私たちがもう一度現場を見てほしいと求めると、現場に来てくれました。4月上旬だったと思います。

そこで刑事さんが現場を見て『これはヤバい』って言ったんです。それを聞いて祖母は『何がヤバいんですか』とたずねています。指紋採取はその時に行なわれています」(Aさん)

事実は明らかではないが、指紋採取の時期について、遺族の記憶と警察の説明は食い違っている。

そして、「被害者の彩咲陽さん本人の証言がなければ、ストーカー規制法での捜査ができない」と家族に言い続けてきたという県警は、その日から3週間ほど時間をおき、同法違反容疑で白井容疑者宅の家宅捜索に乗り出し、遺体を発見した。

失踪から3か月以上経った祖母宅の現場を一目見た刑事は、いったい何に「ヤバい」と感じ、家宅捜索を行なったのだろうか。丁寧な説明が求められる。

8日、警察庁の楠芳伸長官は今回の事態に関して「結果としてこのような重大な事案となったことを重く受け止めている」と表明。ストーカーへの対処について、「警察庁の通達の趣旨に沿った対応がなされたか、しっかり確認するよう指導していく」とも述べた。

楠長官は「(ストーカーなどの)人身安全関連事案は認知した段階で被害が加えられる危険性や切迫性を正確に把握することが困難」としながら、「重大事件に発展する恐れが極めて高いことから、被害者などの安全の確保を最優先に対処することが肝要であると認識している」とも述べた。

その通り恐れていたことが起き、彩咲陽さんの命は奪われた。なぜ防げなかったのか。家族は真相究明を求める署名活動を続けている。

Aさんは「泣き寝入りはしません。説明を求めて闘います。これからは彩咲陽の恨みを晴らさないと」と、決然と語った。

命を奪った者が最も悪いのは当然だが、警察には適切な対応がなされていたかの説明責任が求められる。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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