【立川・小学校侵入】教師たちは事件をどうみたか?「同じ手法でこられたら施錠を強化しても防げない」「いじめ対応では母親の言葉だけを信じてはいけない」
【立川・小学校侵入】教師たちは事件をどうみたか?「同じ手法でこられたら施錠を強化しても防げない」「いじめ対応では母親の言葉だけを信じてはいけない」

「我が子がいじめられている」子ども同士のトラブルを学校に相談にきた母親が、担任教師の対応に納得いかず知人の男2人を招集し、男たちが校内で暴れまわった事件。都内の教師たちはこの事件をどうみたか? 現場の声を詳報する。

「いじめの真相をつかむにはやはり先生や児童への聞き込みは大事」

ゴールデンウイーク明けの8日午前11時前、東京都立川市の市立第三小学校で発生した、児童の保護者の知人男性ら2人による暴行事件。学校侵入による事件はこれまでも前例があるが、児童の保護者の知人らによる犯行はまさに前代未聞の事件と言える。

都内の区立小学校で働く女性教員のAさん(30代)は「児童の母親に対応した教師は相当気をつかって対応したのではないか」と想像する。

「もちろん私も親御さんから『子供がいじめられた』といったご連絡をもらった経験があります。ただ、いじめという行為は相手あってのものなので、教師の立場として母親の言葉だけを鵜呑みにできないのです。

まず、以前に担当した先生への聞き取りや児童への聞き取りが欠かせません。そのため『お話はお預かりします。十分に児童たちを注視しつつ再度ご報告いたします』というような形で対応したのではないかと思います」

また、都内の別の区立小学校で勤務する女性教員のBさん(40代)は小学校高学年を担任した時にこんな経験をしたこともあった。

「三者面談でいじめの加害者である女子児童が『いじめられている』と訴え、それを初めて聞いた母親が半狂乱になって『どうにかしてください!』と泣いて訴えてきました。実は、私はその女子児童は被害者ではなく加害者であることを知っていたのですが、『わかりました。では○○さんがそんな目に遭わないよう注視させていただきます』と言いました。

児童が保身のために嘘をつくというケースはよくあることで、いじめの真相をつかむにはやはり先生や児童への聞き込みは大事なのです」

またいっぽうで、「同じ手法でこられたら、いくら施錠を強化しても事件は防げないと思う」と頭を抱えるのは、都内の“やや治安の悪い”エリアの区立小学校の男性教員のCさん(30代)だ。

「日頃からいつ何が起きてもおかしくないと思ってますので、職員室に取り付けられた防犯カメラは出入りするたびに見て、ウロウロしている人がいたり、車が停まってたりしたら声をかけに行くようにしています。

それもあってか、私がこの学校に来て5年の間は一度も不審者が侵入した事例はありません。今回の事例はおそらく問題を抱えていたであろう児童の親に教師も誠心誠意を持って対応したがゆえの事件のように思われます。仮に学校に報復しようと考えたのなら、信じられない凶行で、同じ手法で来られたらとてもじゃありませんが防げません」

「学校のセキュリティー強化対策は学校への負担を大きくするだけ」

確かに、これまでの学校で行われてきた防犯教育は、無差別殺傷事件のような悲劇が2度と起きないようにと、保護者とは全く関係のない不審者が侵入してきた際の訓練が主体だった。

2023年3月に埼玉県の市立中学で起きた17歳の少年が校内に侵入し男性教員を刺傷させた事件も記憶に新しい。この学区の隣の小学校で勤務する女性教員のBさん(30代)は、「防犯訓練は年に1回、警察署と共同で行なっています」と言う。いったいどのような訓練を行なっているのか。

「蕨署の警察官の方が不審者役となり、不審者が学校に侵入し想定の経路で教室に向かってくるという設定で、教師らが実際に授業中に児童を引率するという訓練です。その際にはサスマタやネットランチャー、カラーボールなどを使い、捕獲するまでを訓練します。

教師全員が防犯器具を使いこなせるように学ぶのです。そして終わった後は校長先生が2001年に大阪教育大学附属池田小学校で起きた無差別殺人事件や隣の学区の中学校の事件を引き合いに、先生の言うことを聞きつつ自分の命を自分でも守ること、ということを児童に話しています」

事件があった立川市立第三小学校の関係者は、「保護者の知人が酒ビンを持って暴れることは想定していなかった」と事件当時に語っていた。

学校や保護者、子どもたちはどのようにして命を守るべきなのか。この事件に「こんなの防ぎようがないでしょう」と強く言うのは教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏だ。

「男2人が侵入した経緯を知って言葉を失いました。これは究極のモンスターペアレントといっても過言ではない事件だと思います。これはたまたま学校で起きたことで、どこで起きても防ぎようがない、常識では考えられない凶行です。学校の責任を問うとすれば、難しい保護者への対応は適切だったかという点くらい」

では、どうすれば良いか。

「思いつくのは防犯訓練の強化くらいです。いろいろなケースを想定して危険回避行動のシミュレーションを行い、先生も児童もできるだけパニックに陥らないようにしておくことは、子どもたちのその後の人生においても決して無駄にはならないと思います」

性善説では命は守れない。子どもも大人もしっかりと訓練をし、万が一の事態に備える必要がある。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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