パワハラ研修受講の甲斐なし? 斎藤知事が職員120人と公益通報者保護制度を学んでも「Aさんへの対応は適切だった」「自身の処分なし」の厚顔無恥 
パワハラ研修受講の甲斐なし? 斎藤知事が職員120人と公益通報者保護制度を学んでも「Aさんへの対応は適切だった」「自身の処分なし」の厚顔無恥 

兵庫県の第三者調査委員会に11件のパワハラを認定された斎藤元彦知事が5月12日、県幹部職員約120人とともにパワハラ防止や公益通報者保護制度を学ぶ研修を受けた。パワハラで自分を処分しないと宣言している斎藤知事はこれで“みそぎ”を終えたい考えだ。

研修では「内部告発者探しは絶対禁止」とも教えられたが、その後も自分の疑惑を告発した元県幹部を見つけ出し処分したことは「適切だった」と明言した。 

「『知事と組まされたらシャレにならん』との声も上がっていました」

研修は、斎藤知事がパワハラを繰り返しているという告発を背景に、昨年12月に実施が決まった。部次長級の約200人の幹部職員が対象で「組織マネジメントやパワハラ対策」「公益通報者保護制度」「個人情報保護制度」の3部構成で、時間は計4時間20分に及んだ。

実際には業務の関係で参加できない幹部もおり、県人事課の説明では斎藤知事を含めた33人が講師と対面で話を聞き、他に88人が別の部屋で中継映像を観て受講した。斎藤知事が受講した場所は、疑惑を調べた県議会調査特別委員会(百条委)が知事を証人尋問した大部屋だった。

「知事のパワハラが原因の研修なのになんで幹部が一斉に離席して受講しなければいけないのか、という不満が当初から渦巻いていました。

また、パワハラ対策を取り上げた第1部で“ミスをした部下への対応”をテーマに演習が予定されたことが実施前から話題でした。『参加者がパワハラの実例を再現するロールプレイをするんじゃないか。知事と組まされたらシャレにならん』との声も上がっていました」(県関係者)

しかしさすがに斎藤氏にパワハラを“再現”させるという悪夢のようなことはなく、杞憂に終わった。

「演習は講師の中川恒信・『中川総合法務オフィス』代表がパワハラの具体例を示し、それに対して最も適切と思う対応を選択肢から選び、隣の人と意見を交わす、というものです。斎藤知事のパートナーは服部洋平副知事でした」(県人事課)

他には、怒りのピークとされる6秒を深呼吸などでやり過ごす“アンガーマネージメント”の技術が具体的に教えられたという。

「職員の皆さんとのコミュニケーションが大事だということですね」 

終了直後に記者団からは斎藤知事に「パワハラ研修を受け、過去言動を顧みてパワハラがあったと認識したか?」という当然の質問が出た。

これに斎藤知事は直接は答えず、「第三者委員会としての認定については真摯に受け止めて、しっかりこれから風通しの良い職場づくりに向けて私自身も努力をしていくということで、今日研修を受けさせていただいた。研修のポイントとしては、やはり風通しの良い職場づくりに向けて職員の皆さんとのコミュニケーションが大事だということですね」と回答。

自身を処分しない考えも変えなかった。

県は研修を「風通しの良い職場づくりのための県幹部職員研修」と名付け、斎藤知事のパワハラが原因で開催されたという印象を薄めようとしたが、メディアは一斉に「パワハラ研修」と報じた。

だが「パワハラ対策の第1部よりも、公益通報者保護制度に関する第2部を受講した後の知事の反応の方が実は注目されていました」と地元記者は指摘する。それは、内部告発者の保護に絡み、斎藤知事が政府の所管官庁である消費者庁の解釈を受け入れない異例の態度を取っているためだ。

「斎藤知事は、メディアなどに疑惑を書いた告発文書を匿名で送った元西播磨県民局長・Aさんを告発者と特定し懲戒処分にかけました。Aさんはその後亡くなった。自死とみられています。

ことし3月19日に第三者委員会は報告書で、告発文書がメディアなどに送られたことは公益通報制度の“外部への公益通報”にあたるとし、告発者を捜した県の対応は通報者の保護を定めた公益通報者保護法上の体制整備義務に違反していると指摘したのです」(地元記者)

Aさんの告発は「誹謗中傷性が高い」ため公益通報に当たらないと言ってきた斎藤知事は、この第三者委の指摘に対抗し新たな主張も始めた。

3月26日の会見で「体制整備義務につきましても、3号通報(Aさんのような外部通報)も含まれるという考え方がある一方で、(組織内の窓口に対する)内部通報に限定されるという考え方もあります」と独自の考えを開陳し、県が告発者捜しでAさんを特定・処分したことは「適切だった」と主張したのだ。

「通報者の特定や探索行為は絶対的に禁止しなければならない」

斎藤知事の発言を見過ごせなくなった消費者庁は4月8日、兵庫県の担当部局に、「消費者庁の公式見解とは異なる」と注意を促すメールを送り、体制整備の対象には外部通報者も含まれると断言した。

「このメールの存在が5月2日に報じられると、斎藤知事は8日の会見で『一般論としての消費者庁の解釈の指摘だと思います』と述べ、消費者庁の注意喚起はあくまで一般論だということにして火消しを図りました。

しかしメールは斎藤知事の会見発言を引用した後で、消費者庁の見解と違うことから『適切な対応をとられるよう何卒よろしくお願い申し上げます』と書いており、斎藤知事に態度を変えることを求めています」(県関係者)

この対立が続く中で行なわれた12日の研修の第2部では、公益通報者保護制度に詳しい日野勝吾・淑徳大学教授が、内部か外部かに関わらず公益通報者の探索はすべて禁じられていると解説した、と県の県政改革課は説明。

「通報者の特定や探索行為は絶対的に禁止しなければならない」との強い言葉がつかわれたとも報じられている。

消費者庁の考えと一致する日野教授の講義を受けた斎藤知事。それでも、やはりと言うべきか、「告発文書問題の対応に問題はなかったと考えるか」との質問を受けても「そうですね。これまで会見等で述べさせていただいた通り、県の対応としては適切だったという風に考えてます」と即答した。告発者保護制度についても、研修は知事の考えに影響を与えなかったことがすぐにあらわになった。

「一般の県職員なら処分されるパワハラを自分はやってもおとがめなしだとする知事は、今も職場の問題を職員が外部に告発すれば保護せずAさんのように処分するという考えを持ち続けています。ようやく研修が行なわれても、知事は何にも変わっていません」

県職員がそう嘆く兵庫県庁。「風通しの良い職場」には程遠い日々が続く。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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