
5月13日、衆議院第一議員会館にて、一般社団法人映像実演者協議会が主催する勉強会が開催された。映像実演者協議会は、アダルトビデオ業界で働く女優や男優といった実演者の安全確保・権利保護・地位向上を目指して設立された組織。
「1-4ヶ月ルール」による、新たな「出演強要」と「仕事の地下化」の問題
2022年6月23日に施行された「AV出演被害防止・救済法」、いわゆる「AV新法」。
アダルトビデオへの出演強要の防止や、出演契約を明確にすることで望まない内容の撮影を避けられる点など、出演者の権利を守る法律として機能している部分はあるが、早急な成立を目指したため、業界関係者へのヒアリング不足や、法律の内容と実際の現場環境の間の歪みが生じており、批判の声が根強いのも事実。
また「成立から2年以内に見直しをおこなう」予定だったものの、現在も施行時の内容のまま、改正がされていない点も問題とされている。
特に、出演者に大きな影響を及ぼしていると一般社団法人映像実演者協議会が訴えたのが「1-4ヶ月ルール」の問題だ。
「1-4ヶ月ルール」とは、出演者と制作側が出演契約を結んでから1ヶ月、撮影から作品公表までは4ヶ月、それぞれ猶予期間を確保するルール。
この猶予期間に、出演者が出演の取り止めや、作品の取り下げについて熟慮することで、出演者の意思と安全を保護する仕組みである。
しかしこの「1-4ヶ月ルール」には大きな問題点がある、と映像実演者協議会は指摘する。
協議会の監事を務める桜井ちんたろう氏は、「急な体調不良などやむを得ない理由での、出演者の変更が認められない」ことが新たな被害を生んでいると指摘。
出演者が体調不良などで出演できなくなれば、撮影ができない状態(バラシ)になり、共演者やスタッフなど、全関係者の収入が失われてしまう。
桜井氏自身、「撮影の3日前に2週間の入院が必要な状態になったが、無理をして出演した」という経験がある。
代役が認められないなか「他の出演者のことを考えると、体調が悪くても撮影に行かざるを得ない」という、ある種の「出演強要状態になってしまっている」と語る。
また、契約から作品の発売まで最短でも5ヶ月かかるため、メーカーが「売上が見込めるタレントばかりにオファーする」状態になっているのも、問題点として挙げられた。
それが「仕事がある女優と仕事のない女優」の、大きな格差を生む要因となっている。
協議会理事の元セクシー女優・かさいあみ氏は「新法によって生まれた仕事量の格差によって、仕事のない女優が海外売春などに流れている」と訴えた。
仕事がない女優が、危険な海外売春など「地下化」した仕事をせざるを得ない状況になっている、というわけだ。
「簡単に稼げる」などの甘い言葉に誘われ、結果として海外で逮捕されるなどのケースも増えており、日本だけでなく国際的な問題となっている。
出演者の「忘れられる権利」がないがしろにされている現状
「1-4ヶ月ルール」以外に語られたのが、出演者の「忘れられる権利」の問題だ。
アダルトビデオ業界では、出演者の権利を守るため、申請があれば作品の取り下げをおこなっている。しかし逆に言えば、取り下げ申請がなければ、作品が永続的に販売されてしまう状況となっているのだ。
また、出演者本人の申し出が必要な点も問題のひとつ。
実際、前述のかさい氏のもとには「亡くなった女優の家族から『作品を削除できないか』と相談があった」という。
そこで新法への要望として提言されたのが「発売から5年経過した作品は削除する」ルール。
5年経過後も作品を販売したいメーカーは、出演者と再度契約を結ぶことで継続販売を可能にすれば、出演者の人権保護につながる、との意見だ。
アダルトビデオ業界の話ではないものの、2023年に亡くなった歌手・八代亜紀さんの「フルヌード写真付きCD」の販売が、つい先日に大きな話題となった。
これと同様の問題が起きないように、新法見直しによりルールを整えることを映像実演者協議会は希望している。
ほかにも複数の問題提起がなされた勉強会には、複数の政党の議員が多忙のなか参加していた。
参加した議員からは
「望まない出演は阻止していくべきだが、自分の意志で出演を決めた方々の職業選択の自由は守られるべき。きちんと健全に働き続けられる環境作りをしていく必要がある」(五十嵐えり 衆議院議員 立憲民主党)
といった意見や海賊版への対応が遅れていることへの指摘も。
「過去の『漫画村』事件の際には、日本の文化が流出しているとすぐに動いたのに、AVコンテンツの海賊版に関しては放置状態になっている。今後もこのような勉強会を通して、意見交換をしながらAV新法の改正を含め議論を重ねていきたい」(やはた愛 衆議院議員 れいわ新選組)
ただしこれらはあくまでも「実演者」視点の問題点と改善点である。
業界には、他にメーカーやプロダクションなども存在しており、新法に対してはまた違った視点での考え方が存在する。
実演者の権利を優先するのは当然の話ではあるが、メーカーやプロダクションとも連携をおこない、業界が一枚岩となって健全化を進めていくことで、新法改正もスムーズに進むのではないだろうか。
取材・文/蒼樹リュウスケ