
厚生労働省の最新の調査によると、2022年に離婚した夫婦のうち、同居期間が20年以上だった「熟年離婚」の割合が23.5%と、統計のある1947年以降、過去最高を記録した。そんな中、人生最後の婚活「ラス婚」市場が盛り上がりを見せている。
40代以降のミドルシニア世代を対象にした婚活アプリは、運営開始から半年で登録者数が10倍に…。実際にアプリで再婚を決めた神奈川県在住の60代女性に「ラス婚」に挑んだ思いを聞いた。
夫と死別後、パートナーを求めるも…
「熟年結婚は親の介護問題や相続問題とか、若いときの結婚とは違った大変さはあるけど、それでも一人で生きるより二人で生きている方が心強いし充実してます」
そう語るのは、アプリでの「ラス婚」を経て再婚を決めた女性・Rさん(64歳)。
再婚相手は同じく熟年離婚を経た5歳下の男性で、現在は神奈川県のアパートで2人仲睦まじく暮らしている。
Rさんはどのようにアプリでの“ラス婚”に至ったのだろうか。
「元夫とは30年近く前に死別し、大分県で当時小学生だった2人の子育てに追われる日々を送っていました。その後、長女は東京、長男は大阪の大学に進学し、親元を離れていったんですが、そこで急に一人ぼっちの寂しさを感じるようになりました」(Rさん、以下同)
長女はそのまま東京で就職し、結婚出産を経て横浜に移住。Rさんは産後の手伝いに数週間、娘家族が住む横浜に滞在したのだが、それが大きな転機となったのだった。
「孫の面倒を見に飛行機で横浜に行ったんですが、とても綺麗な街で気に入ってしまって。『こんなおしゃれな街に住めていいな~』って呟いたら、娘に『お母さんも来ちゃえばいいのに!』って言われたんです」
娘の言葉を機に、大分の家に帰宅後、さっそく横浜周辺の職探しを始めたRさん。保育士免許を保有していたことから、娘家族が住む家の近くの保育所に応募してみたところ、見事採用されたことから正式に横浜へ移住することを決めた。
そして、その職場の女性保育士との出会いが、Rさんを“ラス婚”へと誘ったのだった。
同僚のアプリ婚に背中を押され
元夫と死別して20年以上が経ったころ、自然な形での出会いでパートナーを求めていたRさん。しかし、保育士という職業柄、なかなか出会いもなく苦戦していた。
「いつも一緒に働いていた若い女性保育士さんが、寿退社することになったんです。彼女の最終出勤日、業務で2人きりになる機会があったので、思い切ってどうやって出会ったのか聞いてみたら、マッチングアプリだと聞きました。
これまでマッチングアプリって『怖い』ってイメージがあったんですが、彼女もすごくいい子だし、出会った男性に対しても『未だかつてないぐらいイイ人』と言っていたんで、彼女に登録の仕方とかを聞いて、その日のうちにアプリを登録して婚活を始めたんです」
3月末に登録し、1カ月以内に7人程度とマッチング。何人かとアプリ上でメッセージのやり取りをし、その中で初めてデートした男性が、再婚相手でもある現在の夫だった。交際から1年半で同棲を始め、そこから約1年後に入籍した。
「結婚生活は大変なことも多いですが、一人だとネガティブ沼に陥ってしまう私に、彼は優しく寄り添ってくれるし、いつも明るくポジティブなので一緒にいてとても楽しいです。アプリで活動してよかったと思っています」
熟年離婚件数が高止まりを続けるなか、若年層のみならず、ミドルシニア世代にも拡大しているマッチングアプリ。東京商工リサーチ情報部によると、マッチングアプリの運営会社数は5年で約6倍に増え、市場規模は年々拡大しているという。
半年で登録者数10倍、離婚経験者は約7割のアプリ
実際に、40代以降を対象にした婚活アプリ「ラス恋」を運営するアイザック株式会社の担当者に、サービス開発の狙いを聞いてみた。
「中高年の恋愛やパートナーシップに対するニーズが確実に存在している一方、従来のマッチングアプリは若年層向けの設計が中心でした。『ラス恋』は人生経験を重ねた40~60代の方々が、“最後の恋”や“生涯寄り添うお相手”と出会える場をつくることを目的に開発しました」(アイザックの担当者、以下同)
2023年に首都圏限定で開始した「ラス恋」は、2024年9月に全国展開を遂げ、半年間で登録者数は10倍に増加。
「利用者はミドルシニア層が中心で、離婚経験者が約7割、未婚が約2割、配偶者と死別された方が約1割となっています。『人生最後のパートナー探し』を目的に真剣に登録される方が多く、登録から1カ月以内のマッチ率は約97%と非常に高いのが特徴です」
数年前までは「マッチングアプリ=若者の出会いのツール」というイメージが強かったが、中高年層にまで広がったのには、いったいどんな背景があるのか。
「スマホの普及やコロナ禍を経て、マッチングアプリへの抵抗感は大きく変化しました。特に中高年の中でも1980年代に“新人類”と呼ばれた世代は、団塊世代とは異なる価値観や行動規範を持ち、還暦後も新たな人生を自分らしく切り拓こうとする意志が強く見られます。
50代以上の離婚・熟年離婚の件数は年々増加し、人生100年時代の後半を共に生き抜くパートナー探しをされる方が、価値観や生活スタイルのフィットするお相手を気軽に探せるツールとしてニーズが高まっています」
早い段階で「入籍の意思」を確認されるケースが多い結婚相談所とは異なり、結婚を前提としない真剣な交際や、同居を望まないパートナー探しなど、多様なニーズに応えられる柔軟性もアプリ型の利点として注目されている。
その一方で、アプリがロマンス詐欺など不正利用の温床になっていたり、既婚者が紛れ込むケースも確認されたことから、最近は独身証明書の提出を義務付けて本人確認を厳格化するアプリが増えるなど対策も講じられている。
熟年離婚の増加に伴って活気をおびる「ラス婚」。人生の転機を経てきた中高年世代が安心して恋愛・結婚に一歩踏み出せる環境づくりがますます広がっていきそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部