
全国の公立小・中学校には、通常学級(以下、通常級)のほかに“特別支援学級”(以下、支援級)が存在する。支援級では、発達障がいや情緒障がいなどを持つ子どもたちの自立を目指し、困難を改善・克服するために一人一人の状況に応じた指導を行なっている。
障がいを抱える子どもの特性を理解していない先生も
「4月初旬、支援級の新3年生になる息子の担任が発表され絶望しました。昨年度、通常級で学級崩壊したクラスを持っていたT先生だったからです」
そううなだれるのは、神奈川県内の公立小学校の支援級に通う息子を持つ保護者Yさんだ。「支援級」とは特別支援学級の略称で、小・中学校に設置されている障がいのある児童生徒を対象にした少人数の学級のことだ。
その発表があったのは、「T先生、支援級にきたらイヤだよね」と同学年の母親と話していた矢先のことだった。
「うちの学校の支援級は、通常級の担任が務まらなかった先生の“左遷先”のように扱われている節があります。『人数が少ないから大丈夫だろう』『言語障がい、発達障がいがあるから反抗してこないだろう』と安易に思うようです。
でも、実際は違います。支援級だと、自分を表現することが苦手な子や、こだわりの強い子などと向き合わないといけない。定型発達の子どもたちに満足に応対できなかった先生に、一人一人の特性を理解し、細やかな対応、授業進行ができるとは思えません。今後が不安でなりません…」(前出保護者・Yさん)
Yさんの学校に限った話ではない。
千葉県内の公立小学校の支援級を卒業した女児を持つ保護者Hさんは、我が子の支援級を担当する先生には傾向があったという。
「娘がお世話になった小学校では、学級崩壊したクラスの先生のほかに、産休前後の先生、定年後の再雇用の先生などが担任をしてくれました。入れ替わりが激しく、担任が急に替わった年度もありました」(保護者・Hさん)
先生が急にいなくなることに、子どもたちは不安を感じるだろう。昨年、埼玉県内の公立小学校の支援級で「担任が急に替わり混乱した」と話してくれたのは、この小学校の新2年に通う女児の保護者Fさんだ。
「昨年6月、娘の担任だったK先生が急に辞めて、S先生に替わったんです。『体調不良で担任の継続が困難になった』と。K先生は、支援級の担当歴も長く、有資格(特別支援学校教諭免許状)者だったので安心していたのですが、やってきたS先生は免許がないどころか、支援級の担任は初めて。
S先生は、支援級に通う児童がどのような子どもたちなのかを一切理解しておらず、『一人一人の特性を理解したうえで指導をお願いしたい』と何度も伝えても、『一人だけ特別扱いはできない』と、通常級と同じように授業を進めようとしました」(保護者・Fさん)
文科省の『初めて通級による指導を担当する教師のためのガイド』 には、冒頭に「通級による指導は、子供の自立を目指し、障害による困難を改善・克服するため、一人一人の状況に応じた指導を行います」と明記されている。しかし、それさえも知らずに教壇に立っているという。
もちろん、真摯に仕事に取り組む、能力のある支援級の教師も数多くいるだろう。しかし、行政のシステムにも大きな問題があることが取材から分かってきた。
支援級は特別な免許や研修も必要がない
関東で複数の支援級を受け持ったことがある、A先生に話を聞くことができた。
「より障がいの重い子どもが通う“特別支援学校”では、教員免許のほかに“特別支援学校教諭免許状”が必須ですが、支援級は必要ないんです。
免許はおろか、定められた研修さえないことがほとんどです。中には、校長・教頭の方針で研修を設けている所もありましたが、本当にごく一部の学校だけかと。
何も知らず通常級と同様に授業を進めようとする教員に『発達に応じた声かけはしていますか?』と聞いても、『担任は私。私が決めます』と強気で突っぱねられたこともあります。できれば1~3ヶ月、最低でも1週間の研修を義務付けるべきではないでしょうか」(A先生)
このままいけば、小学校の支援級は「箱だけ用意された機能不全の“名ばかり支援級”が増えていくのではないか」とA先生は懸念する。
「支援級の拡充より先に、文部科学省や行政には、この現状を知ってほしい。今のままでは、人的にも教育の質的にも悪化する一方だと思います。
また、担任を持つ生徒数が少なくても、一人に要する時間、気力、対応力は月々にいただく手当1万円では割に合いません。給与や手当ても見直してほしい。『早く通常級に戻りたい』と嘆く先生の気持ちもわかります」(前出・A先生)
現在、支援級を担当する教師の特別支援学校教諭免許状の有資格者の割合は31.1%(令和3年度文科省調べ)だ。
「娘が通う学校の教頭は、外部職員の介入を徹底的に拒むんです。療育の職員の介入もお願いしたが応じてもらえなかった。
教頭のキャリアアップの王道は校長への昇進です。外部の人間を入れ、万が一問題を指摘され対処できなければ、その道を閉ざされるかもしれない。子どもの成長・発達を促すことよりも、自分の出世のことしか考えていないように見える。
教育委員会にも掛け合いましたが、一度応答があったきり、その後うやむやにされています」
(前出保護者・Fさん)
問題は、学校内での課題やトラブルが可視化されづらいことだけではない。
「支援級への入級には、医師の診断が必要です。でも、児童精神科医の数が足りておらず、ほとんどの地域で診察まで最短でも1ヶ月、半年~1年待つこともあります。発達障がいの子を持つ友人から、支援級への入級について相談を受けていましたが『予約が取れたのが4ヶ月後なの』と嘆いていました。
結局、診察待ちの間に不登校になってしまい、今も学校に通えずにいるようです。
文科省は目指すべき令和の日本型学校教育として「児童生徒の学習進度や個性に合わせて学びを深める」個別最適な学びを提言している。しかし、個別最適な学びを享受するための環境を整えなければ、意味がない。
すべての子どもたちに適切な教育が行なわれる日はやってくるのだろうか。
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取材・文/山田千穂