
ロサンゼルスドジャース・大谷翔平投手のCM起用が相次いでいる。コマーシャルに関するさまざまな調査を行うCM総合研究所(以下、CM総研)によると、2025年1月~4月で大谷を起用したCMは15社。
CM業界でも、大谷翔平の躍進が止まらない
大谷は、WBCで日本の優勝に貢献し、MVPを受賞した2023年は1年間で9社のCMに出演。「54本塁打&59盗塁」をマークするなど記録づくめだった2024年は年間で11社だった。対して、2025年は1月から4月末までの4か月で、すでに15社のCMに出演している。
また、契約企業が複数の商品やサービスを展開する場合、そちらにも大谷を起用したり、同一商品・サービスでも異なるCMを複数制作することもあるため、CMの作品数や放送回数も急激に増えている。
2023年は、大谷が出演したCMの作品数は19本で、放送回数は2826回。2024年は、作品数が44本と急増し、放送回数も2023年の約2倍にあたる5633回だった。
だが2025年は、わずか4か月で作品数が38作と、早くも2024年に迫る数字になっている。放送回数もすでに3542回とハイペースだ。
CM総研の代表を務める関根心太郎氏は、これらの数字の急伸の背景を説明する。
「今年3月に読売ジャイアンツなどとの親善試合と、シカゴ・カブスとの開幕戦が東京ドームで行なわれましたが、このタイミングに合わせるようにCM出稿量が急増しました。
2025年3月度に放送された新作CMの好感度ランキングでは、
長嶋茂雄さんと共演したセコム『イメージアップ』「夢の対決」篇が4位。
ファミリーマート『おむすび』「おむすび二刀流、解禁。」篇が5位。
伊藤園『お~いお茶』「お茶の常識、すてましょう。」篇が8位。
と、大谷さんが出演した3篇がトップ10入りを果たしています」(関根氏、以下同)
CMでしか見ることのできない大谷翔平
起用社数、作品数、放送回数といった数字はもちろん驚異的だが、注目したい点は、大谷が出演するCM内容の広がりだ。
「これまでのCMはユニフォーム姿で登場し野球選手やアスリートを連想させるものや、スーツ姿でビシッと決めるなど大谷さんの“かっこよさ”にフォーカスしたものが中心でした。
特に、『世界の頂点に挑戦し、活躍する』という大谷さんの姿は、日本から海外へグローバル展開を強化する企業、逆に、日本へ訴求したい海外企業にとって最適。企業やブランドの認知度を高めることを目的とした広告に起用されるケースが多かったです」
だが、今年はこれまでとは異なるテイストのCMが増えている。
例えば、⽇清製粉グループ『マ・マー』の「いいもの、⾷べよう。」篇は、大谷がエプロン姿でキッチンに立ち、パスタ作りに挑戦する内容。
伊藤園の『お~いお茶』「お茶の常識、すてましょう。」篇は、ビーチでサッカーボールをリフティングするシーンから始まり、最後には、リフティングに失敗し、焦った表情をうかべる大谷の姿も差し込まれている。
「2025年は、“CMでしか見ることのできない大谷翔平”を描く作品が増えています。マウンドでは見ることのできない柔らかい表情や意外な一面。大谷選手を多面的に描いている点がこれまでとの大きな違いです」
さらに、関根氏は「CMタレントとしても、唯一無二の価値を発揮し始めている」と分析する。
CM総研では、視聴者3000名を対象したさまざまなCMに関する調査を毎月実施している。
それらの回答をまとめ、有益な情報を探し出す「テキストマイニング分析」をすると、2024年までは「選手」「格好良い」など、大谷自身に関連するワードが多かった。
だが、2025年はこれらに加えて、「美味しそう」「食べた」「お茶」など、CMの内容や商品への言及が増えている。
「『食べてみたい』『欲しい』など商品への購入意向を感じさせるワードが増えていることがわかります。これは、超一流のアスリートであるとともに、商品の売れ行きに影響力を持つ『CMタレント』として存在感が高まっている証明になります」
大谷翔平が体現していること
今後もCMで大谷を見る機会が増えそうだが、彼が“企業から選ばれる”理由について関根氏はこう話す。
「大谷選手は、着実に成績を残し、勝利に貢献してきた実績があります。彼を起用することで、企業側が視聴者に伝えたい“信頼感”や“安心感”という部分を言語化せずに伝えることができる。それこそが起用が増えている大きな要因ではないかと思います」
2024年2月には結婚、今年4月には第一子の誕生とライフステージの変化を経た彼だが、その好感度は上昇を続けていくばかり。
「これからは野球選手という一面だけでなく、夫として、父としての側面も描かれていくかもしれません。ベビー商品やファミリー層に向けたCMが作成される…そんな新たな可能性にも期待できます」
アスリートとして、そしてCMタレントとしての“二刀流”も、まだまだ活躍が続きそうだ。
取材・文/羽田健治