
コメの値上がりは深刻化し、全国のスーパーの販売価格は4000円以上。昨年の同時期と比べて約2倍となり、家計に大打撃を与えている。
即辞任が当然の状況だったものの石破総理の動きは極めて鈍かった
コメ問題をめぐる国民の不満は、高まる一方だ。それは石破政権の支持率にも影を落とし、夏の参院選が刻一刻と迫り来る中、共同通信が5月17~18日に行なった世論調査では、過去最低の27.4パーセントにまで落ち込んだ。
「あちこちを回っていると、自民党支持者の方から、『悪夢の民主党政権でもコメは買えました。石破政権はそれ以下ですよ』なんて言われますよ……」
5月中旬、筆者が取材に訪れた、とある自民の参院選候補者の集会。200名ほどの聴衆を前に、候補者本人がこんなボヤキ節を漏らしていた。
さらに、
「選挙に向けて二連ポスターをつくりましたが、とにかく石破さんとのツーショットが一番人気がない(笑)。選挙区の候補者で、石破さんとの二連をあえて選ぶ人はほとんどいない」
と候補者のため息交じりの文句が止まることはなかった。
自民党にとっては、ただでさえ厳しい状況。そこにダメ押しとなったのが、江藤拓前農水相(64)の「コメ発言」による更迭劇だった。
「私はコメは買ったことがありません、正直。支援者の方がたくさんコメをくださる。
5月18日に佐賀市内で行われた「政経セミナー」でこう語った江藤氏。コメの価格高騰が問題化している折も折、本来なら責任を感じてしかるべき立場である農水行政のトップから飛び出た無神経すぎる発言に、すぐさま批判の声が高まった。
即辞任が当然とみられたが、石破茂総理(68)の動きは極めて鈍かった。発言翌日の19日に江藤氏を総理官邸に呼んだものの、引導を渡すことはなかった。総理との面会後に江藤氏は、
「『大いに反省したうえで、全面的に発言を撤回して職務に励め』と言われた」
と続投方針であることを明らかにしたのだ。つまり、この時点では石破総理も「この発言で辞めるまではない」と考えていたということだ。江藤氏は翌20日の農林水産委員会で、
「宮崎ではコメをたくさんいただくと『売るほどある』と言う。宮崎弁的な言い方でもあった」
と、火に油を注ぐ謎の釈明を重ねた。
石破総理と林官房長官の間には強固な信頼関係はない
こうしたスキを野党が見過ごすはずがない。20日の夕方に、野党5党の国対委員長会談が開催され、江藤氏の更迭要求で一致した。政権側が応じなければ、農水相不信任案を提出する方針が固まった。少数与党である石破政権は追い込まれたあげく、野党に外堀を埋められ、江藤氏を事実上更迭するほかなくなった。
自民党の中堅議員は筆者の取材に対し、「すべて野党のペースでものごとが進んでいる」と嘆く。
「安倍政権では、当時の菅義偉官房長官が危機管理対応を担い、河井克行元法務大臣の公選法違反が報道された際には、翌日に辞任させるなど、スピード感のある対応がみられていた。石破総理と林芳正官房長官の間には、“安倍―菅”関係のような強固な信頼関係はなく、それが野党に追い込まれたあげくの更迭劇という遅きに失した対応につながった一因との指摘もある。
ただ、一番は石破総理が『これくらいのことで更迭したら、他の閣僚に問題が発覚したとき、どうなる』と辞任ドミノを恐れたせいだと言われています」(自民党関係者)
窮地の石破総理が、江藤氏の後任として白羽の矢を立てたのが、小泉進次郎氏(44)だった。
石破総理と小泉氏は昨年の総裁選ではライバルとして対峙した。とはいえ、2021年の総裁選ではタッグを組み、河野太郎前デジタル担当相(62)を担ぐ「小石河連合」で共闘した間柄として知られる。石破総理は今回の小泉氏の起用について、
「強力なリーダーシップとこれまでの経験のもと、(課題)解決に向け、全力で取り組んでもらいたい」
と、表向きは小泉氏に信頼を寄せているかのような発言をした。
しかし、昨年の総裁選前には知人との会食の席で、
「進次郎に総理ができるのか」
と、吐き捨てるように語っており、本心からその能力を評価しているとは思えない。それでも、事ここに至っては、抜群の知名度を誇る進次郎氏に頼るしか選択肢はなかったのだろう。
「やはり総理は石破さんではなく、進次郎でいくべきだった」
一方の進次郎氏は、石破政権発足時に党選対委員長に起用されたが、昨年10月の衆院選翌日に「敗北の責任をとる」として、その職を辞した経緯がある。いさぎよい対応だが、石破総理を支える立場からいち早く抜け出したともいえる。ではなぜ、この難しい時期にわざわざ農水相を引き受けたのか。
進次郎氏の後見人である菅元総理の周辺からは、3月に発覚した石破総理の商品券配布問題の前後から「やはり総理は石破さんではなく、進次郎でいくべきだった」との声が漏れ始めるなど、いまだ彼を総理候補として見る向きは根強い。
党内で「参院選後の石破退陣は既定路線」(前出・自民中堅)といわれる中、進次郎氏としても、難しいコメ問題対応で成果を出し、次の総理候補として存在感をアピールしたいという打算もあるのだろう。
自民党にとっての最大の問題は、参院選を無事に乗り切れるかどうかだ。
石破総理は、野党がほとんど一致して求め、世論調査で約7割が求める消費減税にも後ろ向きだ。消費減税に対抗できる目玉政策も打ち出せていないにもかかわらず、国会では「税を財源とする社会保障費と関係し、将来世代の負担にも直結する」などと自説をのん気に語っている。
自民党のベテラン参院議員が語る。
「参院選の惨敗は濃厚なのに、執行部には危機感が感じられません。消費減税に後ろ向きなことや、江藤氏をめぐる後手後手の対応をみても、それは明らかでしょう。楽観的すぎる見通しを描いているのではないか。国民民主党などを連立に巻き込んで政権を維持できる程度の負けならまだいいのですが、私はそれ以上に負ける可能性もあるとみています。
江藤氏の問題を巡り、石破さんは『任命責任は私にある』といっているのだから、本来は参院選前に責任をとって辞めていただき、新総裁で参院選を戦うのが選挙上も一番いい。ただ、派閥解体の影響もあり、石破さんに本格的にプレッシャーをかけられる存在もほとんどおらず、党内政局は異様に穏やかです。このままでは本当に座して死を待つのみです」
自民党参院候補者たちの憂いは深刻だ。
取材・文/河野嘉誠 集英社オンライン編集部ニュース班