「オレはかっこよくなれへん…」芸能界のきっての奇才・くっき―!が“王道のかっこよさ”をあきらめた瞬間「すごい天パなのにセンター分けにしたら…」
「オレはかっこよくなれへん…」芸能界のきっての奇才・くっき―!が“王道のかっこよさ”をあきらめた瞬間「すごい天パなのにセンター分けにしたら…」

野性爆弾のくっきー!による初の回顧録『愛玩哲学』が話題だ。今につながる強烈な物欲と異様なコレクション癖、「好き」を糧に花開いた超絶オフビートな感性が詰まった1冊となっている。

だがかつては「王道を求めた時代もあった」という一面も。現在の路線にモードが変わったきっかけやイメージとは真逆の意外な趣味まで、底知れないくっきー!沼を探る。

子ども時代、生死をさまよってイレギュラーな人間に

––––新刊『愛玩哲学』を出されて、周りの反応はいかがですか?

くっきー!(以下同) 本が出てすぐ女優さんとかにも配ったんですけど、次会ったら「今やっと半分読めました」って。

若い人は知らんことすぎてたとえば、「ハンドル絞る」って何? みたいな、一回調べてから読む感じになるみたいです。だから箸(ページ)が進まんというか。

まぁオレの経験値とか脳ミソの話なんで理解されてもされへんでもどっちでもいいんですけど、同世代(昭和50年代前後生まれ)の男性はドンズバじゃないですかね。なんなら同級生とかは火柱上げているんじゃないですか。

––––確かにキン肉マン消しゴム(キン消し)、ラジコン、エアガンなど、当時の男子が夢中になった昭和カルチャーが満載ですよね。
くっきー!さんの言語感覚がまた独特で。文章というよりラップや詩の感覚で読んじゃいました。

好きでなんです、そういう言い回しが。でも考えているわけじゃなくほとんど思いつき。子どものとき、熱射病になって太陽の恵みを受けてからこうなりました。

––––太陽の恵み!?

小3か小4の夏休みに親父がいきなり「家の庭の畑に日本刀が埋まってる」って言い出して。ウソか本当か知らんですよ。親父は「地球は卵形で平たいから人が立てる」とか、どっかで買ってきた小さいワニの剥製を「オレがガキの頃に飼ってたワニやから大事にせよ」とか、ウソがだいぶ多くて変な人でしたから。

でも当時は他の親を知らないので、自分の親がヘンかどうかわからないし、とにかく刀が見たいから夏休み全部使って、めっちゃ掘りまくりまして。

そしたら、ぶっ倒れて3日間昏睡状態。意識戻ったあとも脳波がおかしくなっていて肛門が締められなくなり、しばらくオムツ生活でした。

–––– 一歩間違えたら死んでいた?

じゃないですか。しかも結局、刀なんかないし、ハンガーすら出てこなくて軽く地層が見えたくらい。でもそれ以来アホになった。

それまでスタンダードな子だったけど完全にイレギュラーな人間になりましたね。世の中の常識をスカす非道徳的な芸風は、そこから来ているかもしれません(笑)。

あえて王道を外す美学

––––くっきー!さんは、絵でも音楽でも一度ハマると深掘りがハンパないですよね。モノであれば何でもカスタマイズしちゃうし……。

人と違うのが好きなんでしょうね。キン消しもただ集めるんじゃなく、針金さして関節が動くようにしたりとか。

遊ぶもんがあんまなかったからハマるととことんいくし、そのマイブームが終わらない。ガキの頃に流行ったやつをいまだに買ってるんで、「好き」の系譜が大人になってもずっと続いているんですよ。

––––「好き」の傾向ってあります?

なんやろなぁ。でもやっぱパンクと初期の『ビー・バップ・ハイスクール』とかのヤンキー系にルーツがあるんちゃいますか。

あと、王道から外れてるもんがカッコいいって思ってるとこはずっとあります。モデルガンにハマったときもみんなが憧れるM16(アメリカ軍が採用した自動小銃。ゴルゴ13も愛用)じゃなくて、AK47(旧ソビエトのアサルトライフル。映画では悪役が持ちがち)が好きで。

あんまモテへん感じだけど、それが逆にいいというか、どっかいびつなものが好きというか。そもそもカッコいいって言われるのは恥ずかしいタイプなので、ゴレンジャーなら赤をあえて外して、緑とか黄色にいきたくなるんですよね。

––––あえて“外す”のが子どもの頃からの美学?

そうじゃない時代もあったんですけど、小学校の頃、サラサラのセンター分けが流行ったときにカッコよさを諦めた気がする。僕、すごい天パなんですけど、当時、無理やりセンター分けして恥ずかしい思いをしまして。

–––本にも「湿気で髪の毛が縮み上がって」「漆黒のロールケーキが2本乗ってるかのよう」だったって。

あれは絶望でした。便所で顔を真っ赤にして頭をこすってたこと今でも覚えてますもん。そこで「オレはカッコよくなれへん」って確定した。その瞬間、王道がダサくなって自分なりに新たなカッコよさを見つけに行くようになったのかなと。

だからザリガニ釣りとかもアメリカザリガニじゃなくてドブザリが好きやったし、ガンプラのザクもシャア専用より量産型のザクが好き。僕がもし女子やったら口紅も赤じゃなく、緑とか黄色とか塗ってヤベぇ女になってたと思いますよ。

欲を抑えないし、抑える気もない

–––本の巻末には、そういった好きなものたちを集めた“趣味部屋”の写真も掲載していますが、すごい量のコレクションですね。あれは物欲から集めたんですか?

よくない癖ですよ。自分でもわかってるんですけど、捨てられない。めちゃめちゃ物欲です。

というか全部の欲が強くて、常にすべてを欲しているタイプ。

なかでも物欲は強くて、昔は借金まみれでもギターとかMA-1(フライトジャケット)を買っていたし、欲しいものを必ず手中にしたがるとこは今も変わらない。欲を抑えられないし、抑える気もないんです。

だから働く原点も欲のため。欲がなくなったら働く意味がないんで何もしないです。コレクションするのも集めたっていう達成感を得たいからで、しかもそれは次の欲を満たすためというか。イメージで言ったらハシゴを登り続けるため次のハシゴを置くって感じ。そうやってせっせと自分で欲を育成してるんです。

–––いつかすべてを手に入れて欲がなくなる怖さはありません?

まったくない。世の中にモノがあふれ返っている以上、多分死ぬまで欲が尽きることはないです。嫁さんもね、欲まみれなオレを知っているから、モノが増えるたび「え?」ってなりますけど、どうせ買うやろって感じで諦めモードに入ってる。

なので今後もどんどん増えていくんじゃないですか。

しかもコレクション的なものは捨てることはない。オートバイも現状6台あって、すでにガレージがパンパンですけど、まだいくでしょうね。

––––今一番欲しいものって何ですか?

土地ですね。別宅みたいなのが欲しくて、そこにバイクとか車とか突っ込んで“集欲部屋”を作りたい。で、最後、オレの寿命が尽きかけたら全部焼いて、それを見ながらゴーゴーと死んでいきます。

––––本能寺の変ですか(笑)。くっきー!さんは、物欲といい、ときに「身体を縮めたい」って発言したり、学生服にフリルをつけたり、なんだか女子っぽさを感じますね。

僕、心は女子ですから。雑貨屋さんがすごい好き。「Francfranc」とかめっちゃ楽しくて「Fire-King」のグラスとかも集めてますもん。

実は僕の中には“ファンシーくっきー!”がめっちゃいるんですよ。洋服にアレンジを加えたり、手先も器用ですしね。

鋲ジャンとか作るのもコツがいるんですけど、すぐにできるし、ミシンも自分でやるし。あと紐でミサンガも編んだりします。

––––今回の本には“ファンシーくっきー!”の一面はほとんど出ていなかったので、もっと見たいですね。

まだまだ浅瀬しか見せてないですからね。潮干狩りができるくらいの浅瀬で、くるぶしも浸かっていないかもしれない。なのでいつか“ファンシーくっきー!”本が出たらまた取材してください。もっと奥に本当のくっきー!がおるんで!

取材・文/若松正子 写真/わけとく 

<プロフィール>
野性爆弾 くっきー!
1976年3月12日生まれ。滋賀県出身。お笑いコンビ・野性爆弾として唯一無二の独特な芸風を確立。独創的な絵画制作、音楽作りなどクリエイティブ活動も多岐にわたり、バイク、デニム、腕時計など造詣も深くオリジナル作品も企画。YouTube番組「くっきー!の引田くっきー!」では自身の偏愛趣味と独自のネタを配信。「第41回ベストジーニスト2024」で「協議会選出部門」受賞。

愛玩哲学

野性爆弾 くっきー!
「オレはかっこよくなれへん…」芸能界のきっての奇才・くっき―!が“王道のかっこよさ”をあきらめた瞬間「すごい天パなのにセンター分けにしたら…」
愛玩哲学
2025/3/261870円(税込)223ページISBN: 978-4591185537あの頃が忘れられない 平成昭和の流行を振り返る! 初めて買ったカセットテープは妹の歌声に上書きされる/中学生の時にハマったエアガン/類を見ぬほどのベストマッチ。テレビとビデオでテレビデオ/いわば中国版ゾンビ、キョンシー/ホッピングを持って兄弟で家出/音に反応し身体をうねらすグラサンした花。ソレはね「フラワーロック」/コンポはボンボンの象徴/当時の激流行りはツータックの霜降りデニム/初めて買った写真集/ルーズソックスはハイカラ女学生の象徴…… 全59点、書き下ろし回顧録
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