
世の中の10%の人々はLGBTQだとされている。これを日本の学校教育の現場に置き換えると1クラスに2~4人はいる計算となる。
書籍『教師の本音』より一部を抜粋・再構成し、教育現場で忘れ去られているLGBTQの人々の現状を解説する。
学校教育でLGBTQは想定されていない
LGBTQに関するニュースを毎日のように目にするようになりました。
ジェンダーフリートイレ、同性婚、パートナーシップ制度などなど。学校でもLGBTQに関する問題は見過ごせないものになりつつあります。
簡単に解説すると、LGBTQとはレズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(性別違和、性同一性障害)、クエスチョニング(その他)など、性的マイノリティの総称。
著者である私はゲイ(男性同性愛者)で、YouTubeなどでもカミングアウトしています。「ゲイになるのに何かキッカケがあったんですか?」とよく訊かれるのですが、LGBTQは多くの場合は、先天的なものです。
今も昔も、人口の約10%の割合で必ず存在すると言われています。これは左利きと同じぐらいの割合です。
1学年100人いたら、10人ほどは必ずそういう生徒がいるのです。1クラスでいうと2~4人は必ずいます。
つまり、学校現場では「どのクラスにも必ずそういう子がいる」という前提で、教育活動をしていく必要があるということ。
ところが、学校教育においてはまだ根本のレベルからして、LGBTQ対応やジェンダー教育が進んでいないのが現状です。
まず、教育活動の大本である『学習指導要領』にLGBTQに関する記載がありません。そこに載っていないということは、学校では、基本的にLGBTQ教育は行わないということです。学習指導要領は、まだ『男女平等』の実現を謳っているレベルです。
現在の学校教育では、LGBTQの存在はそもそも想定されていないのです。
これには政治的な背景もあります。保守層は夫婦別姓反対、同性婚反対、LGBT理解増進法反対を主張する人が多いからです。その是非についてはここでは論じませんが、ひとつだけ理解してほしいのは、良い悪いに関わらずLGBTQは存在するということ。
あなたの隣の席の子がそうだったかもしれないし、今のあなたの部下もそうかもしれません。あなたのお子さんがゲイという可能性だって大いにあるのです。「私の周りにはそんな人いない」と言う人もいますが、『いない』のではなく、『言えていない』だけ。
LGBTQは一部の特異な人ではなく、常にあなたの目の前にいる人たちなのです。
「LGBTQの生徒もいて当たり前」
今の学校は基本的に男子・女子を、性別で明確に分けるシステムの上に成り立っています。特に学年が上がれば上がるほど「男子はこっち、女子はこっち」というのがよりハッキリ区分されます。
もちろんそれは生物学的に仕方のないことなのですが、一方で多様性に対する配慮がないと、そのせいで性別違和の子はツラい思いをすることがあります。
ちなみに性別違和というのは、心と体の性が一致しないこと、つまり心は男だけど体は女というようなケースです。一昔前は『性同一性障害』と言われましたが、今では『性別違和』と呼ばれています。
ただ今の時代、さすがにLGBTQについてまったく知らない教師は少ないです。なので、理解があるかどうかは別として、もし生徒から訴えがあれば対応はできると思います。
もし性別違和を訴える生徒がいた場合、担任や保健室の先生が中心になって、対応を検討します。そして、職員会議などで「実は今こういう子がいて、こういう配慮が必要です。こういう声かけはしないようにしましょう」というように、職員の間で共通理解の形成が図られます。
ただし、それは本人や保護者から訴えがあったり、何かトラブルがあったりした場合のみです。そういう話が表に出なければ、そのような子どもはいない前提で教育活動が進んでいきます。
LGBTQが話題になっているとはいえ、まだまだカミングアウトしづらい世の中です。小中高校生が「私はゲイです」とか「私は、体は女だけど心は男です」なんて自分から言うのは、かなりハードルが高いでしょう。
学校の先生方が少しでも「LGBTQの生徒もいて当たり前」というスタンスでいてくれたら、それだけでも心が救われたり、言い出しやすくなったりすると思います。
私のYouTubeの視聴者にも性別違和の子がいて、「プールに入りたくない」「スカートをはきたくない」と相談のDMが来ることがあります。
私が「誰か信頼できる先生がいたら言ってみな、担任の先生じゃなくてもいいから」とアドバイスすると、その子は学年主任に相談したようです。そうしたら、「いいよ、体育の先生に言っといてやるから、プールに入らなくてもいいよ」と言ってもらえたと、喜んでいました。
今の学校では『男性差別』が実は深刻
ジェンダー教育の問題に関して、私がもうひとつ深刻な問題だと思うのは、学校教育の中の『男性差別』です。
たとえば、男子は我慢して当たり前、男なら泣くな、むしろ男子にはちょっとぐらいツラい思いをさせるべきだ……それが当たり前だと思っていて、生徒にもその価値観を押し付けてくる教員はいまだに多いです。
これは教員の中でもそう。同じ立場、同じ給料だとしても、男性教員の方が大変な仕事をして当たり前、ツラくても文句を言ってはいけない、という風潮が強いです。もちろん、女性には出産、授乳という、男性にはできない重要な仕事があります。
でもだからと言って、男性に過酷な労働を強いていいわけではありません。
しかし、今の性科学では、ジェンダーやセクシュアリティというのは『スペクトラム(虹色)』、つまりグラデーションのように境目が曖昧なものとされています。
つまり、男性だからといって、男性性を押し付けられたくない子もいる。見た目は筋骨隆々でも内面は女性的な子もいるわけです。昔のようにバリバリ働いて上を目指したい男性もいれば、プライベートを大事にして、土日は家で家事をしたい男性だっているでしょう。
私はゲイなので男性差別に対する理不尽は、特に強く感じていたと思います。男子だって「運動嫌い!」「日焼けしたくない!」「髪伸ばしたい!」って子もいるんですよ。
写真はすべてイメージです 写真/Shutterstock
教師の本音 生徒には言えない先生の裏側
静岡の元教師すぎやま
本音をすべて書きました
10年以上中学校教諭を勤めた私が、教師の裏側を明かします。
「先生に相談しても迷惑じゃない?」「不登校で将来が心配」といった保護者が抱える悩みから、「『成績を上げろ』と5時間監禁される」「実は熱血教師が学校をダメにしている」といった気になる現場の実態まで。
保護者、教師、そしてすべての人が子どもの未来のために何ができるか、考えるきっかけになることを願って、書きました。
SNSの総フォロワー数70万人超!
日本一バズっている元教師が包み隠さず話します!
第1章 保護者への本音
第2章 学校現場の本音
第3章 働き方の本音
第4章 生徒が気になる先生の本音
第5章 教師への本音
第6章 持続可能な学校にするための5つの提言