
昨年の東京都都知事選に立候補し、5番目に多い票を獲得した安野貴博氏(34)は、この夏に行われる参院選に向けて政治団体「チームみらい」を設立した。自ら党首となる同団体では、AIで政策提案を整理し、マニフェスト作成過程を透明化するという。
AIが人間の知性を超えた時にアイデンティティクライシスに陥る可能性がある
――設立したチームみらいで掲げられています「テクノロジーで誰も取り残さない日本へ」というミッションを形にするために、#1では3つの必要なことを挙げられました。その第1が「民間企業で当たり前のデジタルをしっかり行政に持ち込む」です。行政は当たり前のことができていませんか?
安野貴博(以下、同) 行政手続きで実際に役所に行かないといけないことがたくさんあります。例えば妊娠、子育てで大変な時期に母子手帳を受け取るとか。明らかにデジタルでできることをやっていないわけです。
確定申告も、例えばエストニアでは制度自体がなく、データで紐付けされた銀行口座から税金が自動的に引き落とされています。
政治資金の透明化もそうです。政治資金収支報告書を政治団体の銀行口座とクレジットカードの記録を紐づければ、カネの出入りをリアルタイムに公表することすらできます。
そういう「デジタル時代の当たり前」は民間ではすでにやられています。「チームみらい」では、収支をリアルタイム公開するためのシステムを作っています。オープンソースでどの政党でも使える仕組みにしていく予定です。
――第2は「変化に対応できる仕組みづくり」です。これは具体的には?
世の中が変わるスピードが20年前よりも明らかに速くなっています。トランプ関税やコロナパンデミック、AIが人間の知性を超えるかもしれないという変化もあります。
これらは雇用に大きく影響し、変化に機敏に対応できる社会を作らないとまずいというのが問題意識です。
例えば、税制では基礎控除の「103万円の壁」の話がありました。多くの政治家やメディアのリソースをめちゃくちゃ消費して(壁を)動かしました。動かすのが150万円でも160万円でもいいですけど、合意の対象を「絶対値」にすると今後物価が変わった時に、同じ話をまたやらなくちゃいけなくなります。
カナダの児童手当の場合、消費者物価指数と連動して給付額が上下します。物価が動く度に給付額で合意する政治的コストをかける必要がない。このように状況が動いても大丈夫な仕組みが必要です。
――3つ目に「長期成長できるものに重点投資する」とおっしゃってますね。
これは主に3つです。
次に「研究、産業づくり」です。人口が増えず、天然資源も多くない日本が経済成長するには科学技術でレバレッジするしかありません。テクノロジーをしっかり活用し、イノベーションをどんどん起こしていくことでしか経済成長は実現し得ないでしょう。
そこにちゃんと投資すべきで、60年代や70年代の高度成長期はそれができていた。ソニーやトヨタ、いろんな会社がガンガン成長し新しいサービスもどんどん出てきたから強かったので、そこへの投資がされないとまずいです。
――そこは意外とオーソドックスですね。
そうですね。だからこそ、めちゃめちゃ重要なことだと思います。
最後は「文化振興」です。経済的理由と精神的な理由の2つがあります。経済的な面では例えばアニメ、マンガコンテンツ産業は輸出し富を作れるものなので、しっかり投資していこうと。
精神的なところも非常に大きいです。今後AIが人間の知性を超えた時に「人間って何のために生きてるんだろう」というアイデンティティクライシスに集団として陥る可能性があります。
そこでわれわれの尊厳を維持するために文化振興は経済的な価値を超えて重要性が増していくんじゃないかと考えてます。
クイックに環境変化に対応する「早い政府」が大事
――AIの進化がこのまま進めば、仕事を失う人も出てくるでしょう。そこはどう対処しますか?
技術的な環境変化による失業は繰り返されてきましたから、今回は大規模に起きてもおかしくないと思ってます。人間の知能をAIが超え始めると、知的労働者と呼ばれる人たちの雇用が減ることはすでにソフトウェアエンジニアの業界で起きてます。
重要なのはその時に機動的に必要な支援が行き渡るようにする仕組みです。迅速に必要な人を見極め、プッシュ型で給付を行なう仕組みが必要です。
「大きな政府か小さな政府か」と聞かれるなら、その時々に最適なサイズのサービスがあり、何かが起きた時にクイックに環境変化に対応する「早い政府」であることが大事です。
――安野さんのことを教えてください。小さい時はどんな子どもでしたか? モテましたか?
親の転勤で小学校は3つ行きました。走り回って、ドッジボールはよけるのが得意で、最後の1人まで残ることに快感を覚えてましたね。
モテなかったですよ。足が速くなかったから。でもドロケイが好きで、ドロケイが好きなタイプの女子にはモテました(笑)。中高は開成で、テニス部に入ってました。
――政治のことはいつから考えていたんですか?
中学校の時に1回だけ生徒会長に立候補して落ちた記憶がありますが、政治への興味でいうと、システムに対する興味は昔からずっと持っていました。小学校の時からソフトウェアのプログラミングとかやって。ソフトウェアってシステムじゃないですか。その中で、1番大きなシステムとしての政治、社会システムには当然興味を持ちました。
東大の時は国会議事録データを解析するプログラムを作り、どの議員がどういう事象に対してどれだけ発言してるのかっていうダッシュボードを作ってました。
なので、デジタルテクノロジーによって政治や社会システムをアップデートできるんじゃないかっていうのは大学時代にはすでに思ってました。
それと全く同じ発想がスタートアップです。テクノロジーでこのシステムを変えるとこういうサービスができると考えて実装することがスタートアップじゃないですか。それをコールセンター業務やリーガル分野という2つの領域でやりました。
で、今回は政治システムのイノベーションにチャレンジして、と。そういう意味では一貫してるのかなと思います。
安野氏は、政治は「自分が貢献でき、求められてもいて、それで世の中よく良くなっていくであろうという領域」だと話す。そこへの足掛かりをつかめるのか、参院選の闘いが注目される。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 撮影/村上庄吾